春の風は羨ましい2
「この人たちは何者ですか、ご主人様?」
「この人たちは前にお世話になったことがあるんだよ」
「あれ……?」
「あ、あっと、こちらはノワールです。
ええと彼女は自分の国の言葉しか話せなくて……
こちらが何を言っているのかは分かるんですけど」
「ほぅ……そうなのか」
この言い訳が本当にある内容なのかショウカイは知らないがこれに関して突っ込んでくる人はいない。
ネットがあるわけでもない社会で実際に言葉を話せないが言っている意味が分かる人がいるのかどうかについてそんな人いないと断定できる人がいないからである。
「どこで知り合ったのか気になるところですが人の事情に突っ込むのはいけませんね」
「なんだかあなた不思議な感じがする……」
レーナンはジッとノワールを見る。
獣人の血が入っているレーナンには獣人のように見えるノワールに何かの違和感を感じるのかもしれない。
「お腹すいたー!
はっ!?」
一瞬流れた不穏な空気。
そんな空気を切り裂いてスーが飛び出してきた。
スーについては比較的出てくることに対して寛容だけどフリーダムではない。
今は出てくるタイミングでもない。
クルクルと回転しながら飛び出してきたスーは怪訝そうな顔をしているショウカイを見て失敗を悟った。
寝ぼけてました。
リュックの中で寝ていたスーは完全に外の状況を見誤っていた。
もう宿にいるだろうぐらいの感覚で飛び出してしまった。
「あ、あははぁ……」
真っ直ぐにリュックから飛び出してきたスーは誤魔化すように笑いながらゆっくりとリュックの中に戻っていった。
「い、今のは……」
「妖精です……」
意外とスーは抜けている。
時々お姉さんっぽい雰囲気を出すことはあるのだけど基本的には明るく快活、細かいことはあまり気にしない感じ。
妖精全体がそんな感じの性格でスーはその中でもお姉さん的な存在だったらしい。
誤魔化しようもないほど完璧にお姿登場しちゃったのでショウカイは仕方なく自分が言葉が通じないものと意思疎通ができることを話す。
妖精の言葉が分かると限定しないのはノワールの言葉も理解できることを裏付けるためで、そうしたスキルを持っているということにした。
これはノワールを人として同行させる時にぶつかった問題から考えたのであった。
トリシアなんかは妖精を見て、妖精の言葉が分かることを妖精使いの能力だと思った。
それは別にいいのだけれど実際はサモナーとしての能力によるスキルである。
妖精使いであるとノワールとスーの言葉も分かることに自然な説明ができないことに気づいてしまったのだ。
言葉が違う相手と意思疎通を可能にするスキルは本当にあって、旅商人なんかで持っている人もいるレアスキルである。
どこまで意思疎通を可能にするかなんて範囲は明確にされていないので異国風美人のノワールと人に友好的な妖精ならギリギリそうしたスキルがあると突き通せた。
ガチの異国の言葉を話せる方にあっても話せやしないけどこのウソスキルを持っていると伝えた人と言葉の通じない人に出会うことなんてないだろうと考えた。
トリシアやソリアという話し相手がいない夜を過ごすと色々と考えちゃうのだ。
「確かにそのようなスキルがあることは聞いたことがありますね。
まさか妖精とも意思疎通が可能になるとは思いませんでしたが……」
「この子は特別賢いからみたいです」
ウソにウソを塗り固めて誤魔化す。
良心の呵責はあるけれど魔物と話せますより遥かに受け入れやすい。
「旅の仲間はお一人だけじゃなかったのですね」
「そうですね」
「賑やかそうで何よりです」
他の好奇心の強い人だったら根掘り葉掘り聞き出そうとしたかもしれないがウルガスのみんなは常識をわきまえている。
ショウカイが騙そうとしてウソをつくとも思っていないので納得してそれ以上は踏み込まないでいてくれる。
良い人達だと思わずにいられない。
「ショウカイさんはこれからどうするの?
ここらへんで活動するの?」
「いや、ちょっと行きたいところがあってね。
どうやって行こうかと悩んでたんだ」
「そうなんだ……」
シュンとするレーナン。
なんならちょっと一緒に活動できるかもなんで思っていた。
「どちらに向かわれるのですか?」
「ちょっと……ビクニシアンってところに」
「ビクニシアン……」
顔を見合わせるウィランドとテラット。
ビクニシアンの場所は2人には分かっている。
そしてショウカイが経緯はどうあれ、ビクニシアンと戦争状態にあるユニシアから脱出してきたことも知っている。
何かの事情があることは明確である。
「ただここら辺の地理に疎くて……
どう行ったらいいのか考えるのが難しいんですよね」
「そうですね、どのような道を考えていられるのか分かりませんがご相談には乗りますよ」
「本当ですか?
ありがとうございます!」
「ショウカイさんにとっては少なくともこのまま北上してユニシアの東を通るのは良くないかもしれませんね」
「そうなんですか?」
「ええ。
あっと、料理が来ましたのでこの話は後にしましょう」
「……イー、だ!」
真面目な顔で話すショウカイやウィランド、テラットの横でノワールとレーナンは睨み合っていた。
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