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大事なものを直したよ3

「久しぶり、リキナ」


「ちゃんとお名前、覚えててくれたの!?」


「もちろんさ」


 緊張した面持ちだったけど笑顔のショウカイを見てリキナも笑顔になる。

 どうせ人間なんて魔物のこと忘れてるさなんて他のオーガの会話を聞いてショックを受けていたけれど、ショウカイはちゃんと覚えていた。


「ええと……ク、クーちゃんは……」


 しかしまたすぐに不安げな顔になる。

 どう見てもショウカイはテディベアを持っていない。


 大きなサイズのものなので後ろに隠せるものでもない。


「幸せでこんなところじゃなんだからお家で話そうか」


「あっ……」


 あえて表情を変えずに答えたショウカイ。

 その表情を見てシュンとするリキナ。


 フドワの家に行く時もちょっと泣きそうなリキナにせめて笑顔で対応すればよかったと思った。

 サプライズでもしようと思ったのが悪かった。


「リキナ」


「はい……」


「クーちゃんは……」


「クーちゃんは……」


「直りました!」


「直り……な、直……ったの?」


「はい、ドーン!」


 カバンの中からテディベアことお人形ことぬいぐるみことクマーベラス改こと、クーちゃんを取り出す。

 パァッとリキナの顔に笑顔が広がり、目に輝きが戻る。


 フドワも完璧に直ったクーちゃんに目を丸くしている。


「わ、わぁ……」


 震える手でゆっくりとクーちゃんに手を伸ばす。

 そっと顔をなぞり、目がウルウルとし出している。


「ほら、ギュッてしてあげて」


「う、うん!」


 ショウカイが持つクーちゃんに手を回してリキナが抱きしめた。


「違う……」


「えっ!?」


 ポソリとリキナがつぶやいた。

 まさか中身がメットンでなかったからダメなのかとショウカイが焦る。


 クーちゃんがデカすぎてリキナの顔が見えない。


「クーちゃんもっと凄くなってる!」


 ぬいぐるみマスターなオルテがノワールの毛をベースに残っていたメットンを混ぜて絶妙な配合を探った。

 トリシアとソリアも太鼓判を押したその感触はメットンだけの時とは違っていて、より一つ上の触り心地を生み出していた。


 リキナのように遠慮なく抱きしめたらさぞかし気持ち良かろう。


「なんだか良い匂い……」


 ついでにノワールの毛はとても良い匂いがする。

 これはノワールを毛をただ入れるのではなく、シャンプーで洗って乾かし、ふかふかにしてみたからであった。


 より良いものを作りたいというオルテのアイデアだったが結果的にほんのりとシャンプーの匂いがして良い香りなのである。


「それだけじゃないぞ」


「えっ?」


「魔力、込めてごらん」


「ほ、本当!?」


 リキナが優しくクーちゃんを床に置いて、深呼吸する。

 そしてクーちゃんに魔力を込めた。


 スッとクーちゃんが立ち上がる。


 リキナが後ろに下がるとクーちゃんが前に出てリキナを追いかける。


「う……うわぁーん!」


「り、リキナ?」


「クーちゃんが……クーちゃんが直ったよー!」


 ずっとウルウルとしていた目からとうとう涙が流れ出す。

 見た目だけじゃない。


 付いてくることも含めてクーちゃんで、ちゃんとクーちゃんとして直ってきた。


「あっ……クーちゃんこれも進化じでる〜!」


 泣いているリキナをクーちゃんがそっと抱きしめた。

 これは本来のクーちゃんにはなかった機能。


 トリシアが師匠の残した資料から改良版の魔法を見つけて、さらに子供向けにトリシアも手を加えたものだった。

 メットンだけなら難しかったところ、ノワールの毛という最高級素材があったからこそ実現した。


 持ち主のマイナスな感情を感知してクーちゃんが抱きしめくれるというシンプルかつ効果絶大な機能だ。

 リキナはクーちゃんを抱きしめ返してわんわんと泣いた。


 オーガにぬいぐるみや人形の文化はない。

 村にもただ一つしかない、貴重で大切なクーちゃんだった。


 トリシアやソリアにも見せてやりたい。

 こんなに大泣きするほど喜んでもらえたらやってよかったと心の底から思える。


 やがて大泣きしていたリキナはクーちゃんに抱きかかえられるようにして寝てしまった。

 クーちゃんがなくても寝れるが、やはり一緒に寝てくれる友達がいなくて寂しい夜を過ごしていた。


 なんとなく満足でない睡眠の日々を送っていたリキナは今安心してぐっすりと眠りについていた。

 フドワが優しい顔をしてリキナをクーちゃんごと上の階に連れていって寝かせた。


「ありがとうございます!」


 フドワはショウカイの前で両膝を折って深々と頭を下げた。

 いわゆる土下座の体勢である。


 この世界に土下座はない。

 魔物にとって両膝を折って座ることは相手に屈することであり、加えて頭も下げるということで最上級の敬意を示しているのである。


「おかげであの子に笑顔が戻りました。


 フドワは女王様の……いや、ショウカイ様への御恩、一生忘れません!


 全てを捧げてしまいたい気持ちではありますが私はこの群れを率いていかなければいけない身でございますのでショウカイ様に実際に全てを捧げることはできません。

 しかしこのオーガの村はショウカイ様のいついかなる時でもお味方致すことを誓います!」


「ありがとう。


 子供が笑って過ごせるならそれでいいさ。


 頭を上げてください」


「なんという広いお心……このような人間もいるのだと初めて知りました」


「とりあえずこれで他の村との戦争はやめてくれるかな?」


「それがショウカイ様のお望みになられることならば!」


「あ、うん……じゃあ、フドワたちが傷つくところは見たくないから怒っててもしょうがないけど戦争するのはやめてくれるかな?」


「承知いたしました!」


「これで丸く収まったな」


「そうだね」


 その日はオーガの村に泊まることになった。

 食事は肉を焼いただけというワイルドディッシュだったが肉は美味かった。


 リキナがお礼にと用意していた魔物の歯を使った首飾りをもらい、頬にキスまでしてもらった。

 フドワの目が怖かったけれどリキナの将来のお相手は大変そうだ。


 ともあれ、ショウカイはオーガのお願いを見事に達成して、森に再び平和を取り戻すことに成功したのであった。

最後まで読んでいただきましてありがとうございます!


もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、

ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


評価ポイントをいただけるととても喜びます。


頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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