隣国へ7
「うーん」
確かにテラットの言う通りである。
けれど依頼主の言う通りにして馬鹿を見たなんて話、世の中にごまんとある。
「ウィランド、そうやって悩むことも失礼です」
わずかに強い口調でテラットがたしなめる。
依頼主が信用できない。
悩み続けるとはそう言っているのと変わらなくなってしまう。
テラットの言葉にハッとするウィランド。
「わかりました。
しかしレーナン、ショウカイさんは友達じゃないんだ。節度を持って接しなさい」
「はーい」
分かっているんだか曖昧な態度で軽く返事をするレーナン。
「ショウカイさんはね、なんだか側にいるとすごくいい匂いがして落ち着くんだ」
「匂い?」
ショウカイは自分の匂いを確認する。
一応毎日水で濡らしたタオルで体を拭いているので匂うほど臭くもないと、信じたい。
「そう。私はちょっとだけ獣人の血が入っているみたいで鼻がいいんだ」
「れ、レーナン……!」
今度はテラットが驚きの声を上げた。
ショウカイが知る由もない話だがこの国、この周辺国において獣人の扱いは奴隷であった。
レーナンはほとんど人間なので獣人の血が入っているとか気づかれることはないがもし知られた時その人の持つ価値観によっては酷い扱いを受けかねない。
「へぇー、でも耳とか尻尾とかはないんだ」
「うん、獣人の血っていってもほんのちょっとだけで獣人から見ても私は普通の人だと思う。
でも他の人よりも匂いには敏感なんだ」
いつの間にかショウカイの隣に座っているレーナンをヒヤヒヤした思いで見守るテラット。
もしショウカイが獣人に対して偏見を持っていてレーナンを拒絶したり、暴力を振るうようなことがあれば止めに入るつもりで身構えている。
「それでレーナンさんの鼻では俺が……いい匂いがしてるの?」
「うん、なんだかとってもいい匂い」
「……そうか、なんだかちょっと照れるな」
もちろんショウカイに獣人に対する偏見はない。
獣人と聞いてそんな種族がいるのかと驚いたぐらいなのだ。
グッと距離を縮めてきたレーナンは獣人の血が入っていると聞いたせいなのか耳と尻尾が見えるような気がする。
ペタンと耳をたたみ、尻尾を振っている、そんな感じがする。
ニコニコと話す2人を見て心配なさそうだとテラットが胸を撫で下ろす。
「ふわぁ、なんだか眠くなってきちゃった」
「ジー」
「レーナン、行くよ」
テラットが声をかけうなずいたジーがレーナンをテントに連れていく。
ジーの声をショウカイは初めて聞いた。
首根っこを掴んで連れていくのはどうなのか。
周りは何も言わないので案外普通の光景なのだろう。
「ショウカイさん」
ウィランドとテラットが真面目な顔でショウカイを見る。
「な、なんでしょう?」
「今の話、他ではしないようにお願いします」
「どうかご内密に」
「えっ? いきなりなんですか?」
何か悪いことでもしたのかと思ったのに、いきなり2人に頭を下げられて困惑するショウカイ。
「レーナンに獣人の血が入っていること、口外しないで欲しいのです」
「分かりました……」
2人の真剣さに押されて理由も聞けずに承諾する。
他人の話を他の他人に話すつもりはないので全く構わない話である。
そこまで重大な話であるとは知らなかったショウカイも2人の態度を見ればレーナンの重たい秘密だったことが理解できた。
「ありがとうございます」
「い、いえ……」
見たこともないのに、むしろ見たことがないからこそ獣人がタブーである存在なのだと勘づいた。
けれどもショウカイにとってはレーナンに獣人の血が混じっているとかそんなことは関係のない話である。
そんなことよりもどうしてそのような秘密を打ち明けてくれたのか、そこが気になって仕方なかった。
ーーーーー
ウルガスのみんなが会話をするようになって、時々ショウカイも会話に混ぜてもらったりしてウルガスのみんなとショウカイの仲も多少良くなった。
あの日、レーナンがショウカイに秘密を打ち明けてからレーナンのショウカイに対する距離が近くてショウカイはドギマギしていた。
日数的には旅も折り返し。もう少しで国境を越えるところまで来ていた。
「……誰か来る!」
食後の団らん中。今の警戒はジー。
普段物静かなジーの緊張の混じる声にウルガスのみんなにも緊張が走る。
「こっちに来る」
「人数は?」
「多くて分からない。たくさん」
「方向は?」
「あっち」
「マジックシールド!」
ジーが示した方向を見たウィランドが一瞬早く反応した。
半透明の魔法の膜が展開されてみんなを包み込む。
直後矢が当たってマジックシールドに弾かれた。
「ショウカイさん、お下がりください」
ウルガスのみんながショウカイを守るように前に出る。
「何者だ、姿を見せろ!」
ウィランドが声をかけると暗い森の中から10人ほどの黒ずくめの怪しい格好の者たちが姿を現した。
「盗賊か? にしてはやけに物々しい……」
ショウカイはピンときた。国境際、怪しい格好の襲撃者。
狙いは自分であることをショウカイは察した。
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