また会いに来ようと思う
「完成……完成しました、クマーベラス改!」
門番さんがブルードラゴンだと分かってから数日が経った。
ようやくクマーベラスの修理が終わった。
実はもの自体は早めに出来上がっていたのだがトリシアの魔法の方が時間がかかった。
というのもノワールの毛が素材と優秀すぎて魔力の通りが、とかそんな問題があってちょっと手間取った。
紆余曲折はあったもののみんなの協力のおかげでクマーベラスはクマーベラス改として復活した。
背中の裂け目は目立たぬように縫われて中身はパンパンに詰められていた。
感触は凄くいい。
メットンだけが入った足先を触った時の感触に比べてやや柔らかい感じがするがメットンだけの時と遜色がなく、ショウカイも抱きしめていたいぐらいの心地よい感触になっていた。
オルテの調整は完璧だった。
「魔力込めてみてください」
「分かった、いくよ……」
ショウカイがクマーベラス改に魔力を込めてみる。
クマーベラス改に魔力が吸収されていく。
プルプルと震えたクマーベラス改は床に手をついて立ち上がった。
トテトテと歩いてきてショウカイのことを見上げるように見てくる。
おおっ、と思わず声が出る。
ショウカイが下がるとクマーベラス改は前に出てピタリと同じ距離を保ってくる。
「これはすごい!」
歩くとクマーベラス改はしっかりついてくる。
確かにこれはすごいものだと思った。
テディベアが歩いてついてくるのは可愛らしく、それだけで愛着も湧いてくる。
調子に乗っているとクマーベラス改が倒れて動かなくなる。
「魔力切れですね。
元々大きなゴーレムを魔石を使って動かすものなので多少効率が悪いんです。
改善はしましたが比較的すぐに魔力が切れてしまうのはしょうがないです」
「いや、すごいよ!
これは子供大喜びだわ!」
「そうですね、私も案外……上手くできたと…………」
「トリシア?」
ジワリとトリシアの目に涙が浮かぶ。
ボロボロと涙をこぼし始めて、ショウカイは慌てる。
「泣かせた」
「泣かせましたね」
「ええっ、お、俺?」
「ち、違うんです!
その……なんていうかぁ……うぁーん!」
泣き出したトリシア。
直ってしまった。
そのことが意味するものにトリシアは気づいてしまった。
「せっかくお友達になれたのに……私も変われたのにもうお別れなんて……」
クマーベラス改が直ったということは別れの時が迫っているということ。
ショウカイもソリアもクマーベラス改を直すために来ていたのだから直ったら青色魔塔から離れていってしまう。
そのことを急に感じて、感情が抑え切れずに泣いてしまった。
トリシアにとってショウカイやソリアは友達で、いや、もう親友ぐらいの感じであって、離れ難い気持ちがあった。
「なんだよ…………そんな泣くんじゃねえよ……」
「何を……泣いてるんですか…………うっ……」
大泣きするトリシアに釣られてオルテが涙を流し、さらにそれに釣られてソリアも泣き出す。
「美しい友情であるな……」
「ご主人様〜もう終わりましたか?」
「ノワールざぁん!」
「ぎゃあああ!
なんですか!
その汚い顔を擦り付けないで……」
「デカウルフ!」
「ノワールさん!」
「た、助けて!
ご主人様、助けて!」
別の部屋でくつろいでいたノワールが様子を見にきた。
そのノワールになぜかトリシアが抱きついた。
多分近くにたまたま来て、抱きつきやすかったからだろう。
オルテとソリアもノワールに抱きついて泣く。
ノワールは涙と鼻水でべちょべちょにされるのが嫌で叫んでいるのだけど魔物の言葉がわからない3人にはピーピー鼻を鳴らしているように聞こえている。
全くもって意味としては逆なのだけど一緒に別れを惜しんで鳴いているように、3人は受け取っていた。
「耐えてくれ……」
こんな雰囲気に水を差すわけにはいかない。
「いやぁー!
汚いー!」
「美しくないであるな……」
「ごめんよ、ノワール……」
ノワールが犠牲になって3人の感極まった感情を受け止めてくれた。
3人の涙で濡れた顔はノワールの抜け毛がベタベタに張り付き、ノワールは毛皮が涙と鼻水で汚されたことにショックを受けていた。
あとでちゃんも洗ってやるからなと思うがとりあえず小さくなってもらって洗面台で軽く洗いはしたけどすっかりスネたノワールはしばらくリュックの中から出てこなかった。
「また……絶対に遊びに来てくださいね?」
「お前らなら大歓迎だからよ!」
「絶対遊びに来ますね」
「まあ、そのうちな」
そして訪れる別れ。
クマーベラス改を待っている人、というか魔物がいる以上は早く持っていってやらねばならない。
泣き腫らした顔をした3人はそれぞれ抱擁を交わす。
「男の人とハグは恥ずかしいので……握手でもいいですか?」
「もちろん」
トリシアと握手をかわす。
背筋を伸ばして赤くなった目で真っ直ぐショウカイの目を見つめ返すトリシアは変わった。
「また来るよ」
「はい、お待ちしております」
「じゃあまたな」
「はい、また、会いましょう」
トリシアはショウカイたちが見えなくなるまで魔塔の前で手を振ってくれていた。
こんな風に人と名残惜しく別れるのは久しぶりで、ショウカイもソリアと共に何度も振り返って手を振り返した。
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