青色魔塔を守るものの正体1
「ええっ?」
階段を降りていた。
そのはずなのに気づいたら知らない部屋にいた。
記憶が飛んだようにいきなり移動した。
一瞬だけ浮遊感のようなものがあった気がするが何が起きたのか理解できない。
不思議な部屋だ。
窓もなく家具もない広い部屋なのだけど天井が優しく発光していて明るく息苦しさも感じない。
「も、門番さん……?」
何もない部屋の真ん中に1つのイスが置いてあり、そこに門番さんが座っていた。
「お主は何者じゃ?」
ショウカイは部屋の端にいる。
門番さんは部屋の真ん中にいる。
部屋は広く、それなりに2人の間には距離がある。
それなのに門番さんの声が頭の中に響くようにはっきりと聞こえてきた。
「何者……とはなんですか?」
なぜそんなことを聞くのだろう。
特に怪しいことをした記憶もなく、質問の意図を量りかねる。
「ワシには約束がある。
この青色魔塔を守るという約束が」
「それと俺の正体とがなんの関係が?」
「最初は違和感だけで分からんかったが今ははっきりと分かる。
お主、魔塔に魔物を連れ込んでおるな」
「ううっ!」
急に上から押さえつけられるような圧力がかかり、ショウカイが身をかがめたようになる。
深い水の中にでも放り出されたみたいに全身に力がかかって息苦しい。
体が異常を察知して変な汗をかき始めて、鼓動が勝手に早くなる。
ふと見た門番さんは変わらずイスに腰掛けていた。
しかし、顔を上げてショウカイを見据えるその目は青く光っているように見えた。
「あ、あなたこそ……何者、ですか……」
この摩訶不思議な圧力を発しているのが門番さんであることは間違いない。
膝を折り、屈しそうになりながらもショウカイは状況を把握しようと努める。
「ほう?
これでも抵抗を見せるか」
「……俺は何も悪いことなんて」
「人の敵、魔物を引き連れておってか?
魔塔の中で魔物が暴れれば大きな被害が出るやもしれぬ。
それでもお主は何もしていないというのか?」
「被害も出ていないんですから、何もしていないじゃ、ないですか」
「被害が出てからでは遅いだろう」
「そんな可能性の話をされたら、誰でも悪になりうるんじゃ……くぅ!」
「そうかもしれぬが危険は事前に排除しておくべきじゃろう」
とうとう堪えきれずにショウカイが膝をついた。
「お主は何者だ?
なぜ魔物を連れておる。
そしてなぜワシにまでこのような気持ちを抱かせる?」
「気持ち云々は知りませんが……魔物を連れているのは俺の、職業のためです」
「なんじゃと?
魔物を連れている職業などあるはずがない」
「本当です。
それに、みんなは人を襲うことはありません……」
「信じられぬな」
「……いきなりこのような扱いを受けて説明も何もあるか!」
「なに!」
ショウカイは呼んだ。
ノワールを、シズクを、ミクリャを、スーを。
呼び出されたノワールはすぐさま門番さんに襲いかかった。
巨大化しながら前足を振り下ろす。
ショウカイに危機が迫っていることを感じていたノワールは気が立っていた。
繋がりの強いノワールはショウカイに敵がいて、危機的状況にあることがわかっていた。
言葉で説明しなくとも門番さんがショウカイを苦しめていることは分かった。
ノワールの全力の攻撃。
門番さんは片腕を持ち上げてそれを防いだ。
イスに座ったまま少しも動くことなくノワールの前足が止められた。
ピタリと攻撃を止められてノワールの方が驚く。
力を加えても岩山でも押しているように門番さんは動かない。
「食らいなさい!」
ノワールが飛び退いて入れ替わりでシズクが前に出る。
シズクから魔力が放たれ、空中で魔力が水に変わる。
人の頭ほどの大きさの水は瞬く間に形を変えて鋭く尖った槍のような形になる。
水の槍が門番さんに向かって飛んでいく。
「ふむ」
門番さんが手を振った。
周りを飛ぶ虫でも払うかのように緩慢で脅威にも見えない動き。
なのにそれだけで暴風が荒れ狂った。
「シズク!」
水の槍を暴風が消し、シズクをも弾き飛ばした。
壁に叩きつけられそうになったシズクをノワールが体で受け止める。
人の形を保てなくてドロドロと流れるように地面に落ちていくシズク。
「ん!」
天井を伝って門番さんの上に回り込んだミクリャがブワッと糸を広げる。
いつものように細くて見えないような糸で拘束するのではなく真っ白な糸が広がって門番さんを包み込む。
「良くわかんないけどやるよー!」
真っ白な糸に包まれた門番さんに向かってスーが魔法を放った。
真っ赤に燃える炎が渦を巻いて門番さんに迫る。
ミクリャの糸ごと燃え上がり、赤い炎が門番さんを包む。
なぜ魔物を連れているのか知りたかったけれど手加減している余裕もなさそうな相手だったのでしょうがない。
「ほっほっ……やるではないか」
「ウソだろ……」
部屋の気温が上がるほどの炎がおさまった後でも門番さんはそこにいた。
床は焼け焦げているのに門番さんは着ているローブに焦げ目すらなく、イスも無事であった。
「……ふむ、謝罪しよう。
どうやらお主はウソをついていないようじゃの」
ノワールがショウカイの前に出る。
立ち直ったシズクやミクリャ、スーもショウカイを守るように立ちはだかっていた。
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