頑張って直そう4
単についてくるというだけなら難しくはないが本当についてくるだけだったか分からないので調べる必要がある。
やっと役に立てそうな感じがしてトリシアも気合が入っている。
ぬいぐるみパーティーな部屋に他人は入れられないし、巨大な熊のぬいぐるみを持って部屋にも戻れない。
オルテの作業はそのままトリシアの部屋で行うことになった。
雑に縫われた裂け目部分の糸を丁寧に切って開く。
中に詰められた布を抜いていく。
本当にいらない布を詰め込んだ感じで布の種類もバラバラである。
巨大なテディベアなので取り出した布をテーブルの上に置いていくと小さい山になる。
なんとかしようとした心意気は買うが心意気だけじゃどうにもならない。
布を全部抜いたら今度はメットンを抜いていく。
こちらは散らばらないように袋の中に入れながら抜いて、中身を全て抜かれたテディベアはペタリと萎んでただの一枚の布になる。
「物の修復自体は割と早めに終わりそうだな」
趣味なだけあって手慣れている。
作業も早くて自分のものでもないのに非常に丁寧で愛しみすら感じる。
ただここからノワールの毛やメットンを詰めて終わりではない。
メットンだけの感触とは違ったものになってしまうことは避けられないしノワールの毛でどれほど再現できるかも分からない。
幸いにしてノワールの毛はかなり素材として上質なことが分かったのでオルテの考えでノワールの毛とメットンを混ぜ、さらにそこに普通の素材も混ぜることで感触を良くすることにした。
どれぐらいの比率で混ぜれば感触が良くなるかは試し試しやっていくしかない。
そこはオルテが細かく調整をするので多少の時間はかかることになった。
その横でトリシアは唸りながら師匠であるローデンバルドの残した本を解読している。
内容の難解さよりも独特なクセのある文字の解読が難しくて唸っているのだ。
「することありませんね」
「ですねぇ」
トリシアとオルテが頑張ってくれている間、ショウカイとソリアはすることがない。
人の部屋で好き勝手することもできずに大人しく椅子に座っているが作業を眺めているだけでは飽きも早い。
ノワールかシズクが出せれば寝転がっていたいところずっと座っているのでちょっと体も痛くなってくる。
「あの……お手隙でしたら何か買ってきてもらえませんか?
こ、こんなことお願いするのは申し訳ないんですけどお腹すいちゃって……」
キューと可愛い音がした。
少し顔を赤くしてトリシアがショウカイたちにお願いをする。
ノワールの毛取り作業に夢中になって忘れていたが外はもう暗く、気づけば夜の御飯時も過ぎていた。
体だけじゃなくて頭も使い始めて、トリシアは急激にお腹が空いてきていたのであった。
「なんだ、まだ飯食ってなかったのか?
そうだ、なんか買いに行くならちょっとつまめるもん買ってきてくれ。
甘いのか、辛いのかどっちか」
「分かった。
俺もお腹すいたな」
「あっと、私も行きます」
魔塔の一階には結構大きめの売店がある。
町から離れているので食料や日用品などのものから、他の魔道士が売った素材や魔道具まで置いてある。
自分は出たくないけど誰かがやってくれるならと素材集めの依頼やトレードの希望なんかも出すことが出来る。
割と万能で基本的に必要なものはなんでも揃っているのが魔塔の売店であった。
階段をゆっくりと降りていく。
日中だと騒がしいぐらいに人が行き交っていたが夜になると流石に落ち着いて人数がだいぶ少なく、急いで階段を上り下りしている人もいなくなる。
「ソリアはまたスーハッフルスに帰るのか?」
「そうですね……そのつもりです」
テディベアを直すのが終わった後の話。
ソリアはどうするのか気になった。
スーハッフルスに戻るのだとは思っていたがスーハッフルスでは冒険者というよりも治安維持部隊の一員のように活動している。
再び冒険者として活動するってことももちろんあり得ることだと思っていた。
フェアリーイーターを倒した後の宴で持て囃されるソリアを見て、Sランク冒険者は世に必要とされているのだと思った。
「まあ、でもスーハッフルスもだいぶ安定してきましたし、冒険者として活動するのも悪くないですしもしかしたら……その、ショウカイさんと……活動するのも悪くないかな……なんて
あっ……ご迷惑なら今のは忘れて……
……ショウカイさん?
あれ、ショウカイさん!?」
ちょっとした勇気を出したソリア。
しかしその横にショウカイはいなかった。
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