妖精の感謝2
「この不思議な感覚……これが愛、なのね……」
「違います。
ご主人様が愛してくれているのは私です」
「あらあら、主君が愛を注いでいるのはこの私でしょう」
「ん、ん!」
「まあ、少なくともワタクシではないであるな」
常識的なお前が好きだぜ、シュシュ。
やんややんやと言い合うみんな。
誰が1番愛されているかの言い合いだけど結論は出ない。
ノワールやシズクが喋るたびにほんのりと揺れてそれもまた心地よい。
「ご主人様」
「主君」
「ご主人君」
「ん?」
「「誰が1番?」」
モテる男は辛いな。
「俺はみんなが大好きだよ。
フワフワのノワールもプニプニのシズクもフニフニのミクリャも、そしてサラサラとしたスーのことだって大好きだよ」
心の底からみんなを愛しむ感情が湧き起こってくる。
大好きになるのに理由なんかない。
みんながショウカイのことを好きなように、ショウカイもみんなのことが大好きであると心の底から思うのである。
「ちなみにシュシュのことも好きだからな」
「キュンである」
最初はクモだから体に引っ付かれるのも嫌だったのにいつの間にかシュシュが顔面に張り付いていても平気になった。
未だにミクリャの母親であるアラクネに忠誠を誓い、ミクリャを守ることに命を捧げているシュシュなのでショウカイの配下にはならないがほとんど従属しているのにも変わらない。
「みんなが大好きな俺じゃ……ダメか?」
少し悲しそうな顔をしてみる。
誰かに決めなきゃいけないというのは非常に難しくショウカイには出来ない。
だからみんな大好きで、みんな愛してる。
「ダメ……じゃないです!」
「主君にそんな顔させてはいけませんね」
「私が1番になれるように頑張るわ」
「んー!」
ノワールがショウカイの頬をベロリと舐め、シズクが逆の頬に軽く唇を当てる。
ミクリャがショウカイの服の中に入って首のところから顔を出した。
スーは新入りなのでちょっとだけ控えめに微笑んで下剋上を宣言していたのであった。
ーーーーー
「行ってしまわれるのですね……
スーのこと頼みます」
ちょっとだけげっそりしたアンジェ。
それだけでなく他の妖精もぐったりしている。
というのもお礼として要求した妖精の粉は妖精の羽から取れる分泌物で、自然に発生するものなのだ。
全ての妖精から妖精の粉を貰ったのだけど、量が足りずにもうちょっと欲しいところだった。
実は裏技的な妖精の粉発生の方法があって、それは運動すること。
妖精が魔力を使わず運動すると妖精の粉が生み出されるのだ。
妖精の粉って何なんだと思うところだけど、深く突っ込んではいけない。
とりあえず妖精たちは久々に羽を使わずに走ったり飛んだり跳ねたり大運動会をして、要求以上の妖精の粉を渡してくれたのだ。
傷も癒え、体力も回復し、妖精の粉も貰えた。
出発の時。
「またいつでも遊びに来てください。
皆様は私たちの恩人ですのでいつでも歓迎します」
「ありがとう」
「いいえ、感謝すべきは私たちです。
あのままフェアリーイーターのお腹の中で朽ちていく私たちを救ってくださった恩は忘れません」
ショウカイたちは妖精の棲家を出発した。
「みんなー、私が代わりに恩返ししとくから!」
「おねえーちゃーん、頑張ってねー!」
「ピーも次会った時にはハイフェアリーになってるんだよー!」
「うん、頑張るよー!」
えっ、ピーとスーって姉妹だったのという驚きを抱えつつ、再び靴がぐちゃぐちゃになる湿原を抜けた。
「なんていうか寂しくなるな」
妖精たちは数も多く、みんな賑やかだった。
妖精の棲家を離れた途端に急に静かになってしまったような感じをどうしても持ってしまう。
「なんて言っているかは分かりませんが動きだけでも賑やかでしたからね」
「私も妖精がなんて言っているのか理解できたらよかったのにと思います」
ソリアとトリシアも少し寂しさを感じていた。
妖精たちの天真爛漫な明るさは見ていて気持ちがよかったので、またいつか妖精のところにお土産でも持って訪れたいと思う。
「でも……なんだか夢みたいな時間でした」
トリシアが感慨深そうに呟いた。
フェアリーイーターなんてSクラスの魔物と戦い、妖精の棲家で妖精に囲まれて過ごしたなんて話、誰が信じてくれるだろうか。
自分で思い返してみても夢なんじゃないかと思うようなとても濃密で貴重な時間だった。
「あれ……なんか人がたくさん見えますね」
「えっ、どこにですか?」
「あっちの方です」
「…………見えませんけど」
「まあ、かなり距離ありますからね」
ソリアは目もいいのでショウカイやトリシアが何も見えない距離のことも見えている。
ソリアの目には遠く離れた向こうからゾロゾロこちらに向かってくる、武装した集団の姿が見えていたのであった。
「なんでしょうかね、あれ?」
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