妖精の感謝1
気にしたことがなかったけどマジックボックスのカバンはかなり優秀な代物だった。
そのままにはしておけないが証拠として残しておきたかったフェアリーイーターの死骸はショウカイのカバンの中に吸い込まれてしまった。
大概のことはファンタジーだが巨大なフェアリーイーターが小さなカバンの中に吸い込まれて収まる光景は驚きを隠せない。
トリシアは何とか一命を取り留めて回復した。
しかしみんな体はぼろぼろで体力の限界だったので妖精たちの住処でのんびりと休んでいた。
妖精たちはショウカイたち恩人を世話してくれて、不思議な果物なんかを持ってきてくれたりした。
「妖精の粉ですか?」
「うん、実は妖精の粉が欲しくてここまで来たんだ」
「分かったわ、女王様に伝えておくわ」
テントで休んでいるショウカイの胸の上にスーがいた。
ショウカイが起きたらもういたので一体いつからいたのだろうか。
ショウカイの胸に両手で頬杖をついてうつ伏せに寝転がっているスーは女王様に伝えにいくと言ったのに動く気配もなく、ニコニコしている。
「何を見てるんだ?」
「あなたの顔よ」
「俺の顔なんか見て楽しいか?」
「うん、とても楽しいわ」
「同感です。
主君のお顔はいくらでも見ていられます」
「確かに、舐めたくもなります」
「それはノワールだけである」
「ん!」
「ミクリャもショウカイ様の顔が好きであるな」
ショウカイは1人で寝ているのではない。
さほど広くもないテントの中でノワールとシズクとミクリャとシュシュとも寝ていた。
テントミッチミチにノワールが大きくなってその上にショウカイが乗り、ぷにっと感とフィット感の増したシズクを枕にしていたスーよりも下のお腹にミクリャは乗っていて、シュシュはノワールの毛の中にいた。
悪くないモテ期だとショウカイは思う。
みんな可愛いし、慕ってくれるし、こんなに大事に思ってくれる。
それが例え職業の効果だったとしても、今そう思ってくれていることに変わりはないのだからなんでもいいのだ。
最終的には広い土地と広い家でも買って、みんなでのんびりと暮らすのも悪くない。
「失礼しま……」
「よっ、トリシア」
「なんて言うか、ちょっとだけ羨ましいですね……」
固いゴーレムに囲まれてもあんまり嬉しくはないがフワフワでプニプニした魔物に囲まれているショウカイはなんだか幸せそう。
「どう表現するのが正しいのか分かりませんが、魔王みたいですね」
「魔王っているのか?」
「いませんよ。
でもお話の中では度々登場しますね。
悪い魔王から良い魔王まで色々といますよ」
勇者もいるなら対となる存在として魔王もいる。
そう言えば自分も魔王を王とする国と戦うために呼ばれたんだったなとショウカイを思い出す。
じゃあ魔王も存在するはずなのにトリシアは魔王がいないと言う。
「魔王はいるんじゃないのか?」
「えっ?
いませんよ。
魔王っていうのはそれぞれ定義が若干異なりますが現代において魔王と呼ばれる人はいません」
「ええっ?」
じゃあショウカイは何と戦われそうになっていたのだろうか。
確か隣の国が魔王の国でって話だった気がするのに。
「ユニシア王国の隣に……」
「ユニシア王国ですか?
……ああ、確かシュザウ族が魔人族なんて呼ばれ方をしていたりもしますね。
魔法が得意な種族でとても強いのですが心優しい人たちですよ。
魔人族なんで呼び方がややこしいだけで全然魔王なんて人たちじゃないです。
まあ、魔人族の王だから魔王と呼んでも別に差し支えはないかもしれませんね」
「…………そっか、ありがとう」
魔王はいない。
胸にざわりとした違和感が残る。
「それでなんか用事があった?」
「あっ、いえ、私もそろそろ体も癒えましたし、このままずっとここにいるわけにもいかないかなと思いまして」
「そうだね、そろそろ帰らなきゃいけないな」
「それでは邪魔しちゃ悪そうなので私は失礼しますね」
トリシアは以前より少しだけ堂々としているようになった。
オドオドとした感じがあってショウカイやソリアにもどこか引けたような態度を取ったり、いきなり我を見せたりと不安定な感じがあった。
回復したトリシアは自信満々とはいかなくても自信なさげで不安定な態度を取らずに、少し明るく安定していた。
「ねえ、ショウカイ君」
「どうした、スー?」
「……もう、行っちゃうの?」
少し拗ねたような表情を浮かべたスー。
「そりゃいつまでもここにいるわけにはいかないからな」
「そう……」
「どうした、寂しいか?」
「うん」
少し冗談めいたショウカイの言葉にスーは素直にうなずいた。
「私……私本気なのよ?」
「……何が?」
「仮にみんなを助けてくれることができたら私はあなたのものになるって話。
ううん、違うの。
私はなんだかあなたと一緒にいたいの……」
「スー……」
『ハイフェアリースーがあなたに従属しても良いと考えています。
従属スキルを使いますか?』
「いいのか、スー?」
「うん……なんでか分からないけどそうしたい気持ちがすっごい大きくて、あなたと一緒にいたいと思うの」
「分かった。
……うっ!」
身体の中から魔力が抜ける。
魔物と繋がる感覚は何回味わっても不思議なものだ。
実はハイフェアリーだったスーはショウカイに服従して新たな仲間となったのであった。
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