妖精を喰らうもの7
「で、でも妖精の言葉を分かってらしたようですし」
じゃあ、この目の前の魔物たちはなんだろう。
妖精使いであること以外に妖精の言葉を理解出来る人はいないはず。
そもそも魔物と一緒にいるとはどういうことであるのか。
トリシアも知識量は豊富な方であるけれどショウカイが何者で、どうやって魔物を従えているのかの知識はなかった。
ソリアは取り乱していないし知っていたようだとトリシアにもわかる。
「わ、私を、どど、どうするつもりですか!」
優しくて穏やかだったショウカイがいきなり知らない人になったような恐怖感がトリシアを襲う。
何かの策略だった。
もしくはショウカイは魔物で、Sランクのソリアまで倒してその姿を乗っ取った。
妖精もグルで騙された。
体が動かなくて頭の中でばかり考えが巡るけれど合理的な理由が説明できる答えを見つけられない。
「トリシア、心して聞いてほしい」
「あ、あの……」
「俺は、サモナー……」
「食べないでください!」
「はぁ?」
「私なんて細くて美味しくないですしもっと他にもたくさんいい人がいます!
お願いだから食べないでください!」
「……ぷっ、はははっ!」
耐えきれずに笑い出したのはソリア。
「そ、それはショウカイさんが、もったいつけた言い方したのが悪いですよ!」
お腹を抱えて笑うソリアを怪訝そうな顔をしてみるトリシア。
笑い事ではない。
「……トリシアを食べやしないよ」
ーーーーー
「ええと……ショウカイさんはサモナー、なんですか?」
「うん。
隠していてごめんね」
「私こそ取り乱してしまって……」
人間焦るととんでもないところに思考が飛んでしまう。
ここまで一緒に旅してきてそんなことをするチャンスなんていっぱいあった。
それなのにそうしなかったということはショウカイはトリシアに危害を加えるつもりがないことなど冷静になれば簡単にわかることだ。
なんでショウカイが人を食べるだなんて思ったのか思い出しただけで顔から火が出るほどに恥ずかしい。
本気で食べられると思ったんだけどどこをどう考えたって食べる要素がない。
ショウカイはトリシアに自分がサモナーであることを話した。
周りにいるのは自分が従えている魔物で、職業の影響で妖精のみならずある程度の知能と意志を持って相手に伝えようとする言葉が分かることを説明した。
悩みに悩んだけれどトリシアの人の良さに期待して、全力を出してフェアリーイーターを倒すために打ち明けた。
今ノワールたちはテントの外で妖精たちと遊んでいる。
妖精たちも一度大泣きして落ち着いたらしくノワールの背中に乗って走り回ったり、糸に吊るしたミクリャを持って飛び回ったりしていた。
「あー……食べないでって……」
ソリアは涙を拭っている。
トリシアの勘違いがよほどツボに入ったのか珍しく大笑いしていた。
「やめてくださいよぅ……」
「プププ……」
思い出すと笑えてくる。
よく見ればノワールもミクリャも可愛くてとても人を食べるなんて思えないしショウカイなんて尚更そうは見えない。
「でもサモナーってあのサモナーですか?」
サモナーはトリシアも知っている。
よく言えば謎の多い職業。
何が出来るのか誰も知らない。
サモナー本人でさえも知らないが故に使えない職業とされる。
研究者としては興味をそそられるところではあるけれどサモナーそのものが貴重な職業だし仮に分かったところで知的好奇心が満たされるだけでお金にもならないだろうと誰も研究もしない。
サモナーが魔物と話せるなんて話も聞いたことがない。
「あの……」
「ダメだ」
「まだ何も言ってない……」
「色々聞き出そうとしてるだろ?」
目を輝かさせて口を開こうとしたトリシアを止める。
「う……」
「必要だから話したんだ。
俺は研究対象になるつもりも実験体になるつもりもない」
「そんなつもりないですけど……
この好奇心どうするんですか?」
「知らん」
「人でなしー!」
「シュシュ」
「ばあ!」
「にゃあああ!」
ペタリとシュシュがトリシアの顔面に張り付く。
好奇心を持つことは悪くないが嫌だと言うのだから話すつもりはない。
単純に全部話していくのが面倒なだけの話だがトリシアの好奇心を満たすためだけに話すのはより面倒だ。
人でなし呼ばわりしてくれた罰としてシュシュ顔面張り付きの刑に処す。
ショウカイもそうだったようにトリシアもクモはあまり得意ではない。
シュシュに顔に張り付かれたトリシアは悲鳴を上げてシュシュを剥がそうとする。
しかしシュシュは糸に飛び移ったり頭を移動したりしながら巧みに再び顔面に張り付く。
「ご、ご、ごめんなさーい!
許してぇ!」
「シュシュ」
「なんだか納得いかないであるな……」
好きでこんな見た目に生まれたのではない。
ひっそりとイケてる方の見た目をしていると思っていたシュシュはここ最近の扱いに納得がいっていなかった。
ピーにもなんかバカにされたし、ミクリャは受け入れられているのにシュシュは悲鳴を上げて逃げられる。
罰ゲーム的な扱いも納得済みではない。
「ありがとうシュシュ。
いつも感謝してるよ」
「ふん、ならしょうがないであるな」
なんで若干ツンデレ風なんだと思うが実際シュシュは割と頑張っている。
「とりあえずだ、フェアリーイーターがどんなやつであれ全力を尽くして戦う。
トリシアも頼むよ」
「……はい」
秘密を打ち明けてまで戦うことを決めた真面目なショウカイに、トリシアも顔を拭うのをやめて頷き返した。
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