妖精を喰らうもの5
いきなりスピードを上げたピーに付いていく。
走りにくい地面をかけてピーを追いかける。
なんとか置いていかれないように追いかけていくと木が密集して生えたようなところにピーが入っていった。
不思議なほど木が密集していて、横にならないと中に入っていけない。
木々の間を縫うように抜けていくとパッと木の生えていない円形の開けた場所に出た。
真ん中には小さい池があって自然が生み出している空間なのだけど自然の空間には見えないような幻想的な雰囲気がある。
「みんな……みんな!」
「ピー!」
木々の間や池の周りの草の中からワラワラと妖精たちが出てくる。
「みんな無事……」
近づいてきた妖精たちを見回してピーがハッとする。
「女王様……女王様はどこ……
どこにいるの!」
「女王様は……うぅ、グスッ」
「女王様食べられちゃった!」
「うぁーん!」
「ウソ……ウソでしょ!
誰か説明……説明してよー!」
妖精たちが一斉に泣き出す。
ワンワンと泣いて、状況を聞き出そうとしていたピーもそのうちに泣き出してしまった。
「これは……」
「何というか……」
ソリアとトリシアには妖精たちの言葉はわからない。
とりあえず泣いていることは分かるのだけどなんで泣いているのかは分からない。
でもこれだけは分かる。
妖精たちがひどく悲しんでいる。
悲しみに涙を流す妖精たちの姿に言葉が分からなくても心が痛む。
なぜ妖精がこんなに悲しまねばいけないのか。
ソリアとトリシアの心に妖精を悲しませるフェアリーイーターへの怒りが生まれた。
「……分かってるよ」
『ミクリャが怒っています!』
ショウカイのリュックの中にいて、まだ感情表現が下手なミクリャの代わりにショウカイのスキルがミクリャの感情を伝えてくれた。
ミクリャは短い旅の間にピーと仲良くなっていた。
完全にクモのシュシュは糸で縛られたこともあって苦手なようだけどミクリャの方とは打ち解けた。
同じ人型であることが功を奏したのかすっかり仲良しさんであって、そんなピーが泣いていることにミクリャは怒っていた。
ただ言われなくともショウカイもみんなと同じ気持ちだった。
小さいからだろうか、子供たちが泣いていて守ってあげたくなるような感情が胸を占める。
妖精たちが泣き止むまでしばらく時間がかかった。
まるで子犬か何かのように集まって重なりあって妖精たちは眠ってしまった。
ピーも旅を終えて疲れていたところにさらに大泣きしてしまったので他の妖精に囲まれて寝ている。
「あなた不思議な魔力をしているわね」
起きている妖精の1人がフワリとショウカイに近づいてくる。
ほとんどの妖精が泣いていたけれど冷静な妖精や泣き疲れても寝ていない妖精もいた。
起きている妖精たちに許可をもらってテントを張って休んでいたショウカイのお腹にお淑やかに座る。
見てみるとピーよりも一回りほど大きな妖精。
緑色の透き通るような髪が美しい妖精だった。
寝転がるショウカイのお腹の上に寝転がってショウカイの顔を眺める。
「んー……?
あなたの魔力かしら?」
「ふふ、君の勘は当たってると思うよ」
おそらくこの妖精はショウカイではなくショウカイの近くにいるみんなの魔力を感じ取ったのだ。
「あら、そうなの?」
「……何があったか教えてもらってもいいか?」
みんなが落ち着いたら話を聞こうと思っていたが落ち着いた妖精もいるなら早めに話を聞いてもいいだろう。
「…………ピーが連れてきて、私たちの言葉が分かる人間さんなら大丈夫ね」
ここは妖精たちの女王様であるフェアリークイーンが作った場所で妖精たちの棲家。
妖精たちはひっそりと楽しく暮らしていたのだけどある時どこからか妖精たちのことを嗅ぎつけてフェアリーイーターが現れた。
何箇所かあった棲家が襲われて妖精たちは慌ててこの棲家に身を寄せた。
勝てないことは分かっている。
だからフェアリークイーンは魔法でこの場所を隠してフェアリーイーターが諦めるまで耐え忍ぶつもりでいた。
ピーや何人かの妖精に助けを求めさせに外に出したが妖精が誰の助けを得られるのか大きな期待もなかった。
フェアリーイーターは近くに妖精がいるはずだと諦めずに近くに居座った。
長く続いた忍耐勝負。
ここでタイミング悪く妖精の一団がフェアリークイーンの元に身を寄せようと向かってきてしまっていた。
人間の土地開発のために棲家を追われた哀れな妖精たちであった。
そんな妖精たちがフェアリーイーターに見つかった。
「王女様は妖精たちを助けに行ったまま……戻ってこなかった」
さめざめと泣きながら緑の妖精は起きたことを話してくれた。
「お願いします、人間さん」
「あっ……それは……」
「私たちを助けてください!」
誰が教えてるんだその作法。
緑の妖精はショウカイのお腹の上でうつ伏せに寝転がる。
顎をひき、しっかりと頭を下げるそれは妖精に伝えられた間違った人間式お願い作法であった。
「……対価を望むなら全てが終わった後私を売り飛ばしてもいいわ」
妖精は人の容姿に近く、さらに美人な顔立ちをしている。
そのためにカゴの中で観賞用の愛玩動物として飼いたがる貴族も中にはいる。
裏のルートで美しい妖精は高値で取引がされていた。
「私たちは高く……売れるはずだから」
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