妖精を喰らうもの4
ここで逃げたら一生後悔する。
トリシアの頭のどこかでそんな考えが強く主張している。
トリシアはわがままで色々寄ったり足手まといになって迷惑をかけてきた。
それでも2人は怒ることもしないでトリシアを手伝ってくれた。
トリシアは自身の師匠がいなくなってからというもの周りの目が冷たくなったことを感じていた。
研究も上手くいかなくて停滞し、魔法だって優れているのでもない。
この2人のことを放って行ってしまったら情けなくて何もできない自分だけが後に残って、忘れられなくなる。
別にここで変わろうなんて考え持っていなかった。
けれどついていくか、ついていかないかで大きく変わる、そんな気がしたのだ。
「……行こうか」
迷いで揺れる瞳。
行きたくないことが滲み出ていたのに同行することを申し出た。
ショウカイは理由を聞かなかった。
きっと勇気を振り絞っただろうことはわかった。
ついてくるというものを止めることなどできない。
「でもいざという時のために伝えとかなきゃいけないな」
倒せないだろうなんて弱気なことは言わないけど保険はかけておく必要がある。
真っ直ぐにネヴァンデル大平原のホーラン湿原に向かうのではなく途中どこかに寄ってフェアリーイーターのことを伝える必要がある。
「ええと……ちょ、ちょっと歩く速さを落としていただけると……」
トリシアは地図を取り出す。
最低でも冒険者ギルドがある方が話が早いはずだ。
なくても手紙のやり取りなどは出来るので報告するだけなら出来るけど直接伝えることに勝る方法などない。
規模が小さい町では冒険者ギルドがないこともある。
わざわざ地図上に冒険者ギルドがありますよなんて書いてもないので経験則から町の規模で冒険者ギルドがありそうか予想するしかない。
大回りにならなくて道中にあり、かつ冒険者ギルドがありそうな規模の町を見つける必要がある。
ネヴァンデル大平原のホーラン湿原までそんなに遠くないので間にある町の数は限られている。
転ばないか心配になるほどトリシアは地図と睨めっこする。
候補は2つに絞られた。
ただし道を見ると両方をうまく通っていくルートはなくてどちらか一方だけ寄る方が効率的である。
「うーん……こっちです!」
比べた時に町の規模はやや小さいけれど道を見るとネヴァンデル大平原のホーラン湿原に近い方がいいとトリシアは選択した。
もはや覚悟も決まった。
散々寝たのだし寝不足でおかしな判断を下したのでもない。
自分で決めたのだ。
「行きましょう!」
「なんか元気になったな」
自分の居場所は自分で作るものだ。
そう師匠に言われたことを思い出した。
ーーーーー
「ソリアの名前も添えたし動き出すのも早いだろうな」
トリシアの予想通り町には冒険者ギルドの支部があった。
Sランク冒険者が来たと騒がしくなる冒険者ギルドにフェアリーイーターのことを伝えると受付は顔が真っ青になっていた。
比較的平和な地方にある冒険者ギルドが抱えるには大きすぎる相手であり、国のギルド本部か、冒険者ギルドそのものの本部に情報を送るようにお願いした。
冒険者ギルドの人はソリアを止めた。
Sランク冒険者のソリアならフェアリーイーターを倒せるかもしれない。
他の冒険者と協力すれば。
訳の分からない低ランク冒険者と魔塔の魔法使いでなく、もっと物理寄りで高ランク冒険者を揃えればフェアリーイーターとでも戦える。
しかしソリアは笑顔で静止を振り切って行ってしまった。
Sランク冒険者を死なせるわけにはいかない。
間に合わないかもしれないけど冒険者ギルドは大慌てで大きな冒険者ギルドにソリアの伝えたことを送った。
休む間もなくショウカイたちは冒険者ギルドを出発して旅路を急ぐ。
ネヴァンデル大平原は広い。
地図で見るとネヴァンデル大平原は大きく分けて4つの地域からなる。
基本的には属する国の国境線によって4つに分けられていて、その中でホーラン湿原は国に属さないネヴァンデル大平原の小さめの地域部分である。
ショウカイたちは東側から入り、ネヴァンデル大平原を横断する道を真ん中ほどまで行ってそこから北上してホーラン湿原にたどり着いた。
明らかに地面の質が変わった。
水気を多く含んだ地面に足を取られる。
靴の中が濡れていて気持ち悪いが防水の靴でもなければ変わらない。
湿原と聞いてこんなことを予想できていなかったのは完全にミスだった。
今から靴を買いに戻る時間もないので足元の不快感はそのままに奥に進んでいく。
「こっちだよ!」
ピーはショウカイたちを急かす。
これまでもヤキモキしていたようだけど近くまで来たら我慢ならないようだ。
進んでいくと平原の湿原だったところが木々が増えてきて森の湿原に変わってきた。
「えっ……ウソ!」
「ピー!」
「ウソウソウソ!」
それなりに歩いてきた。
地面が濡れているので休憩するのもはばかられる。
でもちょっとぐらい立ち止まって休もうかとみんなが思い始めていた。
そんな時にピーの様子がおかしくなった。
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