歩いて行こうよ、のんびりと6
弱い風が吹いて胞子を吹き飛ばして徐々に2人の姿が見え始める。
「大丈夫か!」
2人は地面に倒れていた。
ショウカイが近づいて確認すると2人とも息をしている。
キノコ相手だったから毒も心配したけれど命に別状はなくて安心した。
「ショウカイ……さん?」
「ソリア!
気分はどうだ?
大丈夫か?」
湿った地面に2人をそのまま寝かせるわけにいかない。
ショウカイはとりあえずテントを立ててそこにトリシアを放り込んだ。
次はソリアだと肩に手を回して抱えたらソリアが目を覚ました。
「なんだか頭がぼんやりします……」
「ほら、とりあえず濡れないようにテントで休んで」
「…………」
「ソリア?」
ソリアを降ろして少しなんか温かいものでも作ろうと思ったらソリアに腕を掴まれた。
力が強くて腕が動かなくなる。
降ろした体勢だから中腰で辛いのでせめて真っ直ぐ立たせてほしい。
「ショウカイさん……私って女性としての魅力、ありませんか?」
「ええっ?
いきなりどうしたんだ?」
ソリアの目はトロンとしていて、頬は赤く高揚している。
いつもの凛とした声ではなく、少し甘えたような、そんな声。
様子がおかしい。
「答えてください……私って女性として魅力的ではありませんか?」
「それは……」
答えを間違えたら死ぬ。
腕が鬱血し始めて、ミシミシと音を立てている。
しかし正解の答えがショウカイには分からない!
血が巡らなくて指先の色が悪くなってくる。
「そ、その前にどうしてそんなことを聞くのか聞いてもいい?」
そんなことないと褒めればいいのか、改善点でも指摘すればいいのか。
頭の中の考えがまとまらなくて答えを先延ばしにする。
「私もショウカイさんと別れたあと頑張ったんですよ」
ソリアは信頼できるまでは分からなくても、人と接しなければ信頼できる人かも分からないと思った。
その時近づいてきたのがジェシェンだった。
ジェシェンはソリアが前の剣帝と武者修行をしている時にたまたま助けたことがある女の子だった。
実はソリアに変化が訪れる前からちょいちょいお近づきになれないかと狙っていたりもしていた。
そんなジェシェンはソリアが変わろうとしているのでそそのかす、もとい色々としてあげた。
ショウカイとまた会った時のような格好こそなかったけれどもうちょっとラフな格好を試したりしていた。
「可愛い格好して、色々お化粧とか習ってみたりもしたんですよ。
……なのに」
「なのに?」
腕がダメになる前に早く話してほしい。
「……なのに誰も声かけてくれないんですよ!」
「へっ?」
「ジェシェンは私の容姿も悪くないから可愛い格好すればみんな声をかけて、その……」
「ナンパされると?」
「そ、それは……そう、なんですけど…………」
ジェシェンがだいぶほめそやしたおかげで正直モテるものだと思ったのに誰も声すらかけてこなかった。
ナンパされたいわけじゃないけど誰も声をかけてこないのはそれはそれでショックだった。
スーハッフルスではソリアはあまりにも有名すぎた。
Sランク冒険者であることが分かっているのに声をかけるアホはいなかったのだ。
「私ってそんなに魅力的でないですかね!」
「う……ソ、ソリアは魅力的だよ!」
手にさらに力が入り、ショウカイの腕が悲鳴を上げる。
このままでは右腕が使い物にならなくなる。
なんとかしないと。
「ほ、本当ですか?」
「本当だよ……」
だから腕を離してください。
「その……ナンパされたら最後にはエッチなことをすると聞きました」
「誰に?」
「ジェシェンに」
「……それは間違って、お、おっ、おおっ!?」
ソリアが腕を離してくれた。
と思った瞬間ショウカイの服が破れた。
破ったのはもちろんソリア。
ショウカイの服に手をかけて真ん中からビリッと引き裂いたのだ。
そのまま破けた服を掴んでソリアはショウカイと体の位置を入れ替えて、ショウカイの上にまたがる。
「ソ、ソリア?」
「ショウカイさんなら……」
そっとソリアの手がショウカイの体に触れる。
「ソリア、ソリア!
力強っ!」
ソリアは左手1本でショウカイの両手を掴んで離さない。
片手と両手なのにどれだけ抵抗しても一切勝てる気がしない。
「いいですか、ショウカイさん?」
その質問に答えがどうであれ止まる気はないソリア。
「へ、へループ!」
ソリアの顔がゆっくりとショウカイの顔に迫る。
「何をしているのですか?
ご主人様が嫌がっていますよ」
「いいところなんですから邪魔しないでください」
「ふむ、確かにいいところであったのであるが」
人型になったノワールがソリアの頭を鷲掴みにして無理矢理止める。
ノワールの目が怖い。
「無理にキッスはダメであるぞ」
「無理じゃないですねー、ショウカイさん!」
ノワールのアイアンクローもなんのその、再びソリアの顔が迫り始める。
「クッ、武力行使だ!
シュシュ、ミクリャ、糸で拘束するんだ!」
「んっ!」
「イヤです!」
「逃がしません!」
ショウカイの服を掴んで逃げようとするソリアとその腕を掴まえるノワールで力比べが始まる。
短い時間拮抗すれば十分だった。
ミクリャがムッとした表情でソリアをあっという間に糸巻きにして木に吊し上げる。
「イヤです!
私も手を繋いだり、1つの食べ物を食べさせあったり、キスしたりしたいです!」
糸でグルグル巻きにされたソリアはわめき散らす。
「なんなんだ……あっ!」
押さえつけられた手首が赤くなっている。
いくらそんな怪力なソリアでも体を何重にも糸で巻かれては抜け出せまい。
暴漢に襲われたような悲惨な状態になったショウカイは服を変えようとテントに行こうとソリアに背を向けてそれを見つけた。
木の影からそっとショウカイたちを覗くキノコの魔物がそこにいた。
『トウヒキノコ
キノコのような見た目をした魔物。
性格は大人しく滅多に人に手を出さないが攻撃されると胞子を撒き散らして目眩しして逃げようとする。
死ぬ際にも胞子を撒き散らして爆発し、仲間を逃がそうとする。
ただ水を上げれば満足して離れていく。
胞子は強力な幻覚作用があり、人の心の奥にある望みを強く刺激するが効果は長く持たない。』
「……水あげるからいなくなってくれ」
つまりあれはソリアの願望なのだ。
ナンパされたいというよりも女の子として扱われたいという思いがある気がした。
まだソリアが抱える闇というのは深いのだなとショウカイはソリアを怒る気にはなれなかった。
ショウカイは皿に水をあけて、トウヒキノコの近くに置いておいた。
「捕らえたである!」
「ぎゃあああああ!」
「……今度はなんだ?」
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