歩いて行こうよ、のんびりと4
頑張ったのでノワールを撫でる。
地面に寝転がったまま腕だけを伸ばしてノワールの中をモフモフと触る。
ノワールもわずかに体を傾けて受け入れ体勢をとる。
そっとノワールがショウカイの上に前足を乗せてくるので前足も触る。
ノワールは脚を触られても嫌がらない。
肉球はほんのり湿っていてプニプニとしていて嗅ぐと表現の難しいかぐわしい香りがする。
「トリシアさんは無事ですね。
ケガもなく、私たちよりも何ともないです」
一応ソリアもトリシアの様子を確認してくれていた。
トリシアは気を失っているが衝突したショウカイとソリアよりもケガもなく、スヤスヤと地面で眠っていた。
ミクリャが頬をツンツンしても身動き1つしないのでしばらく目を覚ますことはなさそうだ。
「どうしますか?」
「どーしよか?」
この旅の中心はトリシアだ。
もう1回断崖絶壁にトライするのか、諦めて次に行くのかも分からない。
「おいしょ」
起き上がって崖から下を覗き込む。
意外と崖は高くてお腹の辺りがヒュンとする。
ゆっくりと見ていると崖の岩肌に生えている花やなんかがちらほらと見える。
「うーん、みんな」
「何であるか?」
「トリシアが気絶してる間に薬草取っちゃおうか」
今ならチャンスなんじゃないかと思った。
ミクリャとシュシュの糸を用いてノワールもいれば安全に崖での採取ができそうだ。
トリシアが起きたらまたみんなは隠れなきゃいけない。
まさしくトリシアが見ていない今がみんなの力を借りるチャンス。
ショウカイは身体に糸をつけてもらい、崖を降りる。
万が一のためにソリアにも待機してもらいながらか崖の岩肌に生えている薬草を取った。
『ドリガウド
根に猛毒がある危険な植物。
調べても原因がドリガウドだと判別することは難しく、誰かを暗殺したい時に適している。
使い方によっては難病を治す薬草にもなる。』
『ジガラン草
断崖絶壁の岩肌に時折生えている花。
そのものに治療効果はないが他の薬草と混ぜると薬効を大きく向上させてくれる。
食べるとほんのりと甘い。』
『ユバ
お湯で湯がくと美味しい植物。
一部で愛好家がいる。
薬にはならない。』
意外と断崖絶壁にも生えている草の種類は多かった。
詳細鑑定を使って見てみると薬にならなそうなものもあったり、毒草もあったりと素人のショウカイにはどれが目的のものか分からない。
いくつか生えているものがあってどれが正解か分からないのでとりあえず色々と取っておいた。
トリシアに何をとるのか聞いておけばよかったと少し後悔した。
手当たり次第に取りはしたが全部取っちゃいはしない。
こういうものは後々のために全部取っちゃいけないとショウカイも知っている。
「おーい、上げてくれー」
「了解であるー!
ノワール、頼むである」
「ゆっくり、ゆっくり」
勢いよく引き上げるとどうなるかはソリアの時に分かった。
ショウカイをあんな目に合わせるわけにはいかないのでノワールはゆっくりと糸を引いてショウカイを引き上げた。
「よいっしょっと」
みんなの力があれば断崖絶壁もなんてことはなかった。
「おかえりなさい」
「ただいま」
トリシアはまだ気を失っていて起きない。
だからその日はそこで野営することにした。
「こらこらミクリャ、あんまりつついちゃダメだよ」
「ん?」
ーーーーー
「いつまでそうしてるんですか?」
トリシアはニモツモッチー君にまたがって移動していた。
両手で顔を覆い、俯き気味で暗い雰囲気を漂わせていた。
恥ずかしくてやってるみたいだけど、この姿はむしろ恥ずかしいだろう。
目を覚ましたトリシアは醜態を晒したことに瞬時に気がついた。
その上ショウカイが薬草を集めてくれたと知って立つ瀬もなかった。
わがままで人を関係のないところに連れていった挙句に失敗して助けられて、薬草まで取っていただいた。
申し訳なさや恥ずかしさでトリシアは死んでしまいそうな気分であった。
でも2人を放っておいて歩みを止めて恥ずかしさに悶えているなんてこともできない。
結果的にセルフ市中引き回しで移動しながら恥ずかしさに悶えることにしたのであった。
「ううぅ……ごめんなさいぃぃ〜」
「別に誰も怒ってませんって」
「優しい言葉をかけないでください……こんななら逆に怒ってくれた方がマシですぅ」
2人の優しさが痛い。
ショウカイもソリアも呆れはしたけど怒っておらず、トリシアに慰めの言葉をかけた。
それがまた申し訳なくて、文句の1つでも言われた方が気が楽だった。
「ご主人様を私なら乗せることができますよ?」
「そうだな、また今度頼むよ」
またしてもニモツモッチー君に対抗意識を燃やすノワール。
いいんだよ、ゴーレムに対抗しなくても。
「それで次はどこに行くんだ?」
「……次はキノコを取りに行きます」
しかし失敗しても諦めないトリシア。
この不屈の精神が魔塔の魔道士である。
魔法を探究するためにどれほど失敗しても諦めないという精神力が求められ、恥ずかしさはありながらも道中寄れるところは寄ってポイント稼ぎをしたかった。
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