歩いて行こうよ、のんびりと3
「ミクリャとシュシュどっちがいいー?」
「えっ、なんだその質問!
えっと、ミクリャがいい!」
「はーい。
ミクリャ、ご指名だ」
「な、なんだ………………ほう?」
「んっ!」
腕が痺れてきたと思っているとスッとソリアの視界が暗くなった。
首を引いて見るとそれは逆さになったミクリャだった。
服がはだけないようにズボンタイプの服に上の服を雑に突っ込んで逆さになって糸を伸ばして降りてきた。
それができるなら普通に降りれるだろうとは思うのだけどミクリャはなぜか逆さに降りて行きたかったみたいだ。
「ちょ、み、ミクリャ!
な、なにを……」
一度顔の前で止まったミクリャだけど挨拶だけしてそのまま少しだけ下に下がる。
そしてソリアの体に引っ付くと腰回りをグルグルと周り出す。
くすぐったくてソリアが身をよじる。
Sランク冒険者といえどくすぐりに対しては弱いのである。
「うっ、あっ……」
耐えきれなくて剣から手を離してしまった。
「くっ…………うぅ?」
死が頭をよぎって目をつぶったがいつまで経っても体が落下しない。
そっと目を開けると剣とソリアの位置はほとんど変わらないところにある。
「な、何があったんだ……?」
「んっ!」
いつの間にかミクリャがソリアの肩に乗っていた。
ミクリャが下を覗き込んでいるショウカイに手を振る。
「オッケー、引き上げるよー」
「はっ?
ま、待って……あぶなぁああああ!」
引き上げると聞いて慌てて剣に手を伸ばす。
次の瞬間下ではなく上に加速する。
ギリギリ剣には手が届いた。
危うく断崖絶壁に剣を置き去りにするところだった。
崖の上を飛び越えて高く空中に投げ出されるソリア。
崖の上にはショウカイと巨大化したノワールが見えた。
「うわああああ!」
落ちるのも上がるのも永遠にはできない。
上がれば落ちる。
「ノワール、トリシアを頼む!」
気絶しているトリシアが地面に激突したら大惨事になる。
ジッとトリシアの動きを見ていたノワールはトリシアの落下地点を予想して移動する。
ボブリとトリシアがノワールの体に着地してそのまま地面に落ちる。
優しいアフターケアまではノワールのお仕事の範囲外です。
「はっ……!」
そんなことよりもショウカイの方に向かわねばならない。
ノワールのご主人様危険レーダーが危機を察知した。
「俺だってやるときゃやるんだ」
トリシアはノワールに任せた。
残るはソリアだ。
いくらSランクであっても地面に叩きつけられては無事で済まない。
ショウカイは覚悟を決めてソリアを受け止める体勢を取った。
人が1人落ちてくる衝撃たるや、甘く見ていた。
受け止めることには成功したが踏ん張れば受け止められるだろうなんて考えごとショウカイはソリアとぶっ飛んでいく。
「いたた……」
「くぅ……痛い」
二転三転としてようやく止まった。
2人して全身痛みはあるけれど大きなケガしなかった。
「ショウカイさん、大丈夫ですか!?」
魔法でも使えばよかったのに気が動転して普通にショウカイに身を任せてしまった。
「大丈夫……」
ソリアの下敷きになっているショウカイ。
完全に予想よりも衝撃が強くて己の貧弱さが恨めしくなる。
「おケガは……」
「まずはご主人様から降りてください」
触ってショウカイの無事を確かめようとした瞬間ニュッとノワールがショウカイとソリアの間に鼻を差し込んだ。
いつまでショウカイの上に乗っているのだと非難の目を向けられてソリアは慌てて立ち上がる。
「大丈夫ですか、ご主人様?」
ここぞとばかりにノワールがショウカイの横に伏せる。
湿った鼻で頬を突かれてショウカイは思わず笑う。
「大丈夫だよ、ノワール。
トリシアは大丈夫?」
「死んではいなかったと思います」
「……そうか」
「あのお嬢さんは気を失っているだけであるな。
大丈夫そうである」
ご主人様以外にもはや興味もない。
そっけない報告に苦笑いするショウカイにシュシュが補足してくれる。
ソリアが視線を下げると、空中を何かキラキラしたものが漂っているのが見えた。
それを目で辿っていくと自分の腰に繋がっている。
ソリアを助けたのはクモの糸であった。
しなやかで丈夫、そしてロープよりもはるかに自由が利く。
ソリアのところに下りたミクリャはソリアの腰回りに糸を巻きつけた。
その反対側は木に糸を張り付けてあった。
ミクリャがいいか、シュシュがいいかは、糸を巻き付けるのにどっちにやってほしいかという質問だった。
そして巻きつけたら今度はノワールの力で引き上げてもらった。
咥えて一気に引っ張った結果勢いがつき過ぎてソリアもトリシアも飛び上がってしまった。
なんとかケガなく2人を助けることに成功したのであった。
「にしても頭が良いんだか、悪いんだか……」
なんというか詰めが甘い。
ソリアがいなかったらトリシアは崖下に真っ逆さまだった。
後で引き上げるのにニモツモッチー君にロープを引っ掛けたのだけどちゃん結んでおくべきだった。
ニモツモッチー君が引きずられてしまうのも計算が甘い。
大丈夫だろうでいくには危険が大きすぎる。
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