てってけてーと戦って5
このイノシシを無罪放免とするかどうかは後回しで状況を確認する。
ノワールの方は問題がない。
ヤンキーたちが可哀想なぐらいだ。
「ソリア、大丈夫か!」
しかし問題はソリアの方だった。
てっきりリーダーの男を制圧しているものだと思っていたソリアは劣勢を強いられていた。
ーーーーー
「はあっ!」
リーダーに切りかかる。
ショウカイの方にもいかなきゃいけないので早めに勝負を決めるつもりでソリアは手加減をしなかった。
「おー、速い速い」
殺すつもりで首を狙ったソリアをリーダーは最も簡単に防いだ。
「ふっ!」
胸に小さな驚きが広がるが戦いの最中に一度防がれたぐらいで動揺してはいけない。
瞬く間3回剣を振った。
ヤンキーたちでは到底反応できない速度。
3回金属音が鳴り響く。
リーダーはその場から動きもしないでソリアの剣を防ぎきった。
「終わりか?
なら、次は俺の番だな」
「くっ!」
ソリアにも負けない速さでリーダーが距離を詰めた。
4回。4回リーダーは剣を振り、ソリアはそれを全て見切って受け止めた。
手が若干痺れている。
力も速さもソリアに負けず劣らずだった。
これは油断が出来ない。
手を抜いたわけじゃないが本気を出したわけでもなかったソリアはリーダーに危険を感じ取った。
速度を上げて切りかかっていく。
「ここまでの相手は久々だな」
絶え間なく金属音が鳴り響く。
リーダーの周りを周りながらソリアは何度も切りつけるが一太刀もリーダーの体に剣は届かない。
「そろそろ俺も相手しようか」
チラリと部下たちの様子を確認するがそちらは明らかにヤンキーたちの方が劣勢。
加勢しなければいけないと思っているのはソリアもリーダーも同じだった。
一度大きくソリアの剣を弾くとリーダーの方も動き出した。
速い。
ソリアを持ってしてもギリギリだった。
後にシュシュは言った。
『ワタクシにはあの戦いがどうなっていたのかあまり分からないである。
剣がぶつかる音が聞こえるであるが一瞬でその場所が変わり、とても目で追えなかったである』
激しい切り合い。
先にケガをしたのはソリアだった。
突き出したソリアの剣をかわしてリーダーがソリアを切った。
ソリアもかわしたのだけど見切りきれずに頬が浅く裂けてしまった。
「あなた……何者ですか」
Sランクであるソリアが押されている。
いくら切りかかってもあしらわれてしまう。
能力にそんなに差があるようには思えない。
リーダーの方が剣の腕が熟練しているのであって、それ以外のところで大きく劣っているのではない。
仮にもSランクの冒険者。
冒険者全体を見渡してもソリアはトップクラスの冒険車である。
それにもかかわらずリーダーは未だに余裕の表情を浮かべてソリアを相手している。
もしかしたらまだ実力を隠しているのかもしれない。
だとしたら能力的にもリーダーに敵わない可能性まである。
「俺か?
俺の名前はジュードだ。
チッ……誰かアレ呼んでこい!」
「ジュード……」
「まっ、知らないと思うけど……」
「ジュード・エルリアロンか?」
「おっ?」
一部の犯罪者にも冒険者のような等級がつけられている。
犯罪の重さだけでなくその強さも含めてつけられるもので主に冒険者ギルドが等級を決めている。
同時に等級を付けられた犯罪者には捕らえると賞金もつくので、要するに等級が付くことは賞金首になるということなのである。
冒険者の中にはそうした賞金首を狙う賞金稼ぎの人もいる。
賞金を出さなきゃいけないので賞金首だと認定することに冒険者ギルドは消極的なのであるが、積極的に賞金首に認定される時もある。
それは冒険者の犯罪者の時である。
冒険者ギルドの身内とも言っていい者から犯罪者が出た。
早く捕らえて終わらせたい冒険者ギルドは冒険者の犯罪者に対しては賞金首の認定の基準が緩かったり、犯罪やその実力に比べて等級を高めに設定して高い賞金を設定していたりする、
冒険者ギルドの中でも現在の汚点とされる冒険者の犯罪者は少なくない。
さらにSランクの等級が与えられた犯罪者なんて限られた一部の人間だけであり、一攫千金も夢ではない賞金が与えられるので狙われてもいた。
その数少ないSランクに認定された犯罪者。
元冒険者としてもSランクでイカれた大量殺人者。
いくらか年は取っているが指名手配の似顔絵をソリアは思い出した。
当時最高峰の実力を誇った剣の名手。
人格さえまともだったのならおそらく英雄にでもなれた人物。
国を守り強大な力を持つ魔物を倒したジュードに支払いを渋り払うべき金銭を値切ろうとした王族を皆殺しにして世界から追われることになった。
実は一度ギルドに捕らえられているのだがどうやってなのか逃げ出したこともある。
同じSランク冒険者でもソリアが聞かされたことがあるジュードの実力は飛び抜けていた。
こんなところにいるなんて。
「嬉しいな。
俺の名前をこんな若い子が知ってくれているなんて」
「ロージアの悲劇を知らない人はいないだろう。
それにSランクともなればあなたの名前は嫌でも聞かされる」
「若いのにSランクか。
ロージアのことは……愚か者がどうなったかを教える教訓話にはなるだろう」
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