隣国へ2
ぶつぶつと何かを言いながらいくつかの道を指で辿る。
一本道とはいかず、また、ただ最短ルートでもなく途中町や村など補給が出来そうな道を選んでくれている。
いくつかルートが定まったら今度は先が二股に分かれたコンパスのような木の道具を取り出して数字を数えながら再び道を辿っていく。
コンパスの幅が1日で移動できる距離で3回当てる毎に1つさらに数を加算する。
およそ3日に1回、町なり村なりによって補給と休息をする。
正確に3日に1回どこかによるのではないけれど不測の事態や補給のための時間など道程に余裕を持たせて計算している。
作業を眺めているが手を止めることはない。
やる気がないだけで能力は低くないようだ。
「良さそうな道はこの3つ。それぞれ危険度と日程が異なります」
受付の男が指でなぞったルートはおおよそユニシアの中での分岐でリテュウスとの国境にあたる大きな川を跨ぐ橋までがそれぞれ違っていて、リテュウスに入ってからは首都まで同じ道が良いようである。
「ここから依頼料との相談になります。
今回は護衛依頼なので単独でなくパーティー指定で依頼料は受けるパーティーのランク、通る道の危険度、日数で計算されます」
「道の危険度ってなんだ?」
「地図を見てもらえれば分かると思いますがギルドで地域毎に危険度を設定しています」
そう言われて地図に目を落としてみると小さくではあるが道や森、平原などにアルファベットでEやDと書き込んであった。
出現する魔物の強さや種類、頻度、周りに都市があるかなどでギルドが独自にその場所の危険度を出しているらしく、大きな都市の周りでは危険度は低く、少し離れたところになると同じような道でも少し危険度が高かったりしている。
「危険度が高いところをいくならパーティーのランクによっては多少その区間の報酬を高く計算する必要もあります」
「……最短ルートがいいんだけど危険度は高いか?」
「最短ですと……ここ、森を突っ切る道になりますがこの森はCランク相当の危険度になります。パーティーにもよりますがDランクパーティーならかなり割高にCやBでも割増です」
「うーん、Cランクパーティーでこの道をいくならいくらぐらいになる?」
正直なところ金に糸目はつけないつもりのショウカイである。
どうにも金貨の価値ははるかに高く現在相当お金持ちなことが分かったので少々ぼったくり価格でも気前良く払ってしまおうと思っている。
「これだと20日、Cランクが1日……」
サラサラと紙に書いて依頼料を計算していく。
電卓なんて便利なものもないために手書きで計算していくしかない。
計算自体は難しいものではない。
1日当たりの金額はランクで決まっているのでそのルートにかかる日数をかければいい。
危険度による加算がちょいちょいあって細かく足していかなきゃいけないのは面倒そうであるが。
「はい、大体銅貨700枚ほどになりますね」
銅貨700、銀貨にして7枚。
命を20日間も守ってもらう対価としてはもっと払っても良いぐらいだ。
「道中の経費を払うとのことですので、実際に必要な額は倍ほど見ておいてください。
後はギルドの仲介手数料、依頼を張り出すための料金もかかります。
とりあえずの金額なのでパーティーの応募具合や相手方の要望次第では増減することも考えられます」
どうしますか、と受付の男がショウカイを見る。
銀貨14枚ともなれば大金。
まず断るだろうと付き合っておきながら受付の男も考えていた。
「分かった。ギルドに護衛の依頼を出そう」
「えっ、ああ、はい」
まさか本当に依頼するとは。
「ええととりあえず依頼書を貼り出しまして、募集をかけます。
申込がありましたら詳細な金額の計算いたしまして、ご依頼人様にどのパーティーが良いか選んでいただきます。
依頼料は前払い、ギルドにも仲介手数料をいただきますがよろしいですか?」
「はい」
ショウカイはうなずいて答える。
「お急ぎとのことなのでとりあえずすぐにでも張り出してみますね」
必要に応じてもう少しゲロッカに泊まるのを延長しなければいけないかなんて考える。
「ええと、道中の経費はご依頼人様持ち、火の魔法が扱える、でよろしかったですね? これなら今日の夕方のラッシュ時にはいくつか申込があるかもしれないですね」
「そんなに早く?」
「良い依頼は取り合いですよ。
最近は北の停戦地域に兵力を割り振ってる関係でここいらでも魔物が増えて冒険者も多い。
逆にそんな国の状況を嫌がって国外に出たがる冒険者もいるので依頼も兼ねて移動できる護衛依頼なら最適ですから申込がないことはないと思いますよ。
1日じゃちょっと分かりませんけど」
「ま、早く決まるとこちらとしてもありがたいです」
「あまり申込が多くても困りますので一定数申込ありましたらこちらで締め切らせていただきます。
金額の算定が終わりましたらギルドの者がお呼びに向かいます。
今日申込があれば明日の昼ぐらいにはいくこともあり得ます」
最終的にはご依頼人様とショウカイのことを呼び、最初の態度が嘘のような受付の男に見送られながらショウカイはギルドを後にした。
ーーーーー
「お待ちしておりました」
翌日まったりと寛いでいたショウカイのもとにギルドからの遣いが来て連日ギルドに赴くことになった。
早いかもしれないとは聞いていたけれど本当に翌日呼びに来るとは。
ギルドに着いて奥に通されるといつもの受付の男ともう1人年配の男性がいた。
「私は当ギルドのサブマスターを務めさせていただいております、ヒンガと申します」
「サブマスターがわざわざなんで?」
「この度護衛の依頼を受けたと聞き及びまして。何分護衛依頼はギルドの中でも大きい仕事になりますのでこいつだけでは不安と言うことで私も少々手伝うことに」
「チッ、俺だけでも十分なのに……」
受付の男はやや不満そうだがショウカイとしてはちゃんとしてくれるならそれに越したことはないので人員に口を出すこともない。
「とりあえず昨日の時点で5組の申込みがありました〜」
やる気の削がれた受付の男は対面に座ったショウカイの前の机に5枚の紙を並べる。
それぞれ依頼に申し込んだ5組の冒険者パーティーの概要が書いてあるようで、昨日の今日でこんなに早く申込があるとはショウカイも意外だった。
「上はBランクパーティーが1組、Cランクが2組、Dランクが2組となってます」
この世界では1番上がAランクでB、C……と下がっていくのでBランクとなれば上から2つ目のパーティーになる。
流石王国の王都だけあっている冒険者のランクも高い。
しかしそんな高いランクのパーティーからも申し込みがなんて確かに護衛依頼は意外と人気があるようだ。
ひとまずショウカイは下のDランクパーティーから見てみることにした。
当然写真はなく書いてあるのはパーティーメンバー個々人の職業とランク、ギルドの評価である。
Dランクの1組は男ばかりの4人パーティーでもう1組は混合の4人パーティー。
男パーティーの方には1人Eランクがいるがその他は全員Dランクでどちらの職業の編成もやや前衛ぎみな組み合わせになっている。
混合パーティーはバランスが良いけれど最近Dランクに上がったばかりで実力に疑問が残る。
依頼料はどちらも銅貨620枚。
ショウカイの選んだルートだと危険度Cの場所があるために危険手当がついているためDランクにしてはやや割高。
やはりDランクでは少し不安があるし費用効果としては損が大きいかもしれない。
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