てってけてーと戦って3
しかしただショウカイも見ているだけではない。
熊公を抜いて自分も戦う。
実際に熊公を扱ってみるとその性能の高さに驚く。
熊公に魔力を通してみると自分の体かのようにスッと魔力が剣先まで通る。
普通の剣なら無理矢理押し流すような抵抗感があるのに熊公にはそんなもの一切ない。
剣に魔力を通すような基礎中の基礎もまともに出来ていないヤンキーの剣で熊公を止めることはできない。
横に掲げた剣もノーガードも変わらない。
ショウカイが剣を振り下ろすと防いでいたのにも関わらずあっさりと剣を振り切れてしまった。
相手の方が実戦経験は豊富で強そうなのに全く剣ごと切られるなんて相手も思わなかった。
「こ、こいつらも何者なんだよ!」
基本的にはノワールが暴れてショウカイは防御に徹する。
「変な技を使いやがるぞ!」
「なんだよこれ!
魔法なのか!?」
ショウカイならいけそうだと襲いかかる連中もショウカイの戦いの異様さに気づき始めていた。
特別な能力もないショウカイのどこが異様なのか。
それはショウカイに近づくと足を引っ張られて転んだり武器を振り上げた手がいきなり動かなくなるからである。
これはショウカイのせいとも言えるけどショウカイがやっているわけではない。
よく見ると、本当によく見ると見えるだろう。
細いクモの糸が。
ほとんど見えないクモの糸がヤンキーたちの動きを妨害していた。
戦いが始まる前にシュシュはリュックの中から出ていた。
そしてヤンキーの上空、家々を繋いでクモの糸が張られていたのである。
さらにミクリャもリュックの中ではなくショウカイの懐に潜んでいた。
お腹のところにしがみついていてショウカイが動くたびにチラリと見える外の様子から状況を把握していた。
時にヤンキーの足に糸を飛ばして転ばせ、時にヤンキーの手に糸を飛ばして上空のシュシュが張った糸と繋げて動きを妨害していた。
ショウカイにはミクリャとシュシュがやっていることなので心強い支援だと思っている。
ヤンキーたちからすると何が起こったか分からず、ショウカイが不思議な技を駆使しているように感じられた。
「チッ……誰かアレを呼んでこい!」
ソリアと戦いながら状況を見ていたリーダーは舌打ちして指示を飛ばす。
ヤンキーの1人がショウカイを囲む輪から離れていって家の中に消える。
甲高い笛の音が聞こえてきて、ヤンキーたちがアレと呼ばれる何かを呼ぼうとしていることが分かった。
笛の音を聞いてからヤンキーたちが消極的になる。
何かを呼んだので攻める必要がなくなったのか囲んで逃さないようにするだけで攻めてこなくなった。
ノワールも攻めてこないのでショウカイの側を離れられなくて手をこまねいている。
「ははっ、これでお前らも終わりだ!」
地鳴りがして、やがて地面が少し揺れ出す。
「あれはイノシシかな?」
どこからかイノシシが走ってくる。
けれどおかしい。
「……デカくないか?」
遠くから走ってきている時は気づかなかったが近づいてくるとそのイノシシはデカかった。
大型の車ぐらいある体格に口元には巨大な二本の牙。
「とま、止まれ止まれ!」
余裕綽々な顔をするヤンキーの一部を轢き飛ばしながらイノシシは地面に轍を残して止まる。
「おい、お前の敵はあの2人だ。
子供を助けたきゃおとなしくいうことを聞け!」
ほんの一瞬こいつらも魔物を操ることができるのかと身構えた。
けれどどうにも様子が変だ。
何というか、イノシシが怒りをこもった目を向けているのはヤンキーたちであるように見えた。
ヤンキーたちもイノシシに信頼を置いていなくて微妙な距離を保っている。
頼もしい味方としているにしては距離感がある。
「早くやれ!」
「いつか、いつか殺してやる……」
イノシシの言葉が分かった。
「えっ……」
ヤンキーたちは何とも思っていない。
つまり、ヤンキーたちには何と言っているのか理解できていない。
「我慢だ……我慢するんだ」
イノシシは怒りのこもった目をショウカイとノワールに向けた。
事情は分からないけどイノシシはヤンキーたちと前向きな協力関係ではない。
むしろヤンキーたちを殺したいほど憎んでいる。
だけど何か協力しなければいけない事情があるようだ。
「恨みはないけど死んでもらうよ!」
ほとんど助走も必要なくトップスピードに乗ってイノシシがノワールに突っ込んでいく。
「ノワール!」
「ぬん!
……負けません!」
「ノ、ノワール!?」
ノワールの胴体を串刺しにせんと迫る牙を掴んでノワールがイノシシに力勝負を挑んだ。
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