魔塔へ5
元々この辺りは平和なところだった。
魔物の襲撃もなく穏やかに暮らしていた。
ところがある時この辺りに強力な魔物が現れた。
村人では到底太刀打ち出来る相手でもない。
冒険者に依頼するお金もない村々は領地を治める領主に助けを求めて嘆願した。
もちろん領主も魔物討伐の私兵を送り出してくれた。
ここまではよかった。
結果的に討伐は失敗した。
事の真相は生存者がいないので不明であるが領主の討伐隊は魔物に負けて全滅してしまった。
領主はそれを受けて、全滅したことを隠した。
もっと上に助けを求めるでも冒険者ギルドに依頼するでもなく領主はこの話を握りつぶした。
完全な失態を誰かに知られることを恐れたのだ。
討伐隊が帰ってこなければいつかは誰かが気づく話なのに領主は一時の感情で領民を見捨てたのである。
しかしそれで終わりでもなかった。
そんな時に現れた人たちがいた。
鉄血団と名乗る素行の悪そうな者たちであったが魔物を追い払ってやると言い、実際に魔物を追い払ってくれた。
村人たちは喜んだのだが鉄血団はこう言った。
『あくまでも一時的に追い払ったにすぎない。
ここは奴の住んでいたところであるし必ず戻ってくるだろう』
再び訪れた平和に喜んでいた村人たちはまた不安のどん底に突き落とされた。
また魔物が来たらどうしようと心配になる。
領主はもう期待できない。
魔物は追い払ってしまったのでいつ来るかも分からず冒険者に依頼できるのかも分からない。
村人たちが不安になったタイミングを見計らうように鉄血団の頭は言った。
『ならば私たちが守りましょう』
その時は鉄血団のことをガラが悪いなどと思ったことを後悔した。
村が差し出せるだけのお礼を差し出し鉄血団は村々を守ってくれた。
魔物は何回か村の周りに現れてその度に鉄血団が魔物を追い払ってくれた。
そしてその度鉄血団の要求はエスカレートしていった。
段々と村の事情も悪くなってきてとうとう鉄血団の要求を突っぱねる村まで出てきた。
後日その村は魔物に襲われて全滅した。
何かがおかしいとようやく村人は気づいた。
けれどもうどうしようもないところまできてしまっていた。
村は本来領主に納めるはずの税分を鉄血団に渡すことにした。
どうせ領主は守ってくれはしない。
苦渋の決断であった。
度重なる魔物の襲撃、そして鉄血団が追い払い、要求は重たくなる。
もう村は限界だった。
「そして最近奴らは若い娘を要求してきおった……」
おじいさんは頭を抱えた。
元鍛治師であったおじいさんも持っていた武器を全て差し出した。
もうそんな人を差し出すなんて要求を突っぱねるほどの余裕も考える気力もなかった。
「みんなはもう現実から目を背けて家に引きこもっておる……
ただワシは忘れられんのだ……あの子の顔が」
村のためならと自ら進んで身を差し出した娘の顔が忘れられない。
天涯孤独の身であるおじいさんにとってその娘は孫のような存在だった。
「今ワシは後悔している……
どうか、どうかあの子を助けてはくれないか」
膝をつき、頭を床につくほど下げるおじいさん。
ショウカイはソリアを見て、ソリアはショウカイを見る。
ショウカイは魔塔の場所も知らずにソリアについてきた。
紹介状も結局ソリアが行くことになってもらえなかったし、ソリアがいなきゃ何も始まらない。
だからソリアが行くというなら行くしかないのである。
ここで見捨てられるほど冷めきってもいないので助けても良いと思っている。
ソリアがこうしてできた目的はショウカイを魔塔まで案内して仲介することである。
ショウカイを第一優先にすべきなのであるがこんな風に関わってしまった以上は放ってはおけない。
ショウカイがいいというならこのまま首を突っ込むつもりであった。
互いが互いに主導権を譲り合う。
「……やろう」
どっちが主導権を握ったとしてもやることに変わりはなく、助けるために動くことになるのだ。
また捨てられた子犬みたいな目をするソリアにショウカイが折れた。
「ありがとう!
今日はウチに泊まっていくといい。
もてなしは出来ないが雨風は防げるからな」
「さすがです、ショウカイさん!」
ソリアがいるからやるのであって1人なら手は出さなかった。
だから持ち上げないでほしい。
「では早速そのてってけてーみたいな奴らのこと聞かせてください」
「鉄血団な」
語感は多少似ているかもしれないけど語感しか似てないぞ。
なんだ、てってけてーって。
……大丈夫だろうか。
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