魔塔へ4
母親の顔に迷いが見える。
Sランクが凄いのは分かるのだけどソリアはどう見ても若い女性だ。
剣帝なんて二つ名を持つ冒険者のことを田舎の村の人は知りはしない。
ソリアがいかに強いのか計りかねている。
「何があったのかお話いただけますか?」
「あっ……は、はい」
「待ちなさい!」
ソリアのことは分からないが一般の人がSランク冒険者の圧に勝てるはずがない。
無理にでも聞き出そうとしたソリアに待ったをかけたのは1人のご老人。
なんだか厄介ごとのにおいがする。
「話は聞かせてもらったが本当にSランク冒険者なのか?」
「そうです、おじいさん」
「……ワシの家に来い。
話が聞きたいならな」
「…………ショウカイさん」
そんな捨てられた子犬のような目で見るな。
すっかりショウカイの存在を忘れて事態に首を突っ込もうとしていたソリア。
どうするんだろうとジッと見ていたショウカイの視線を非難の視線だと勘違いをして気まずそうにしている。
あのおじいさんのセリフももう来ること前提の言葉じゃないか。
ここでいかないことなんて考えられない。
女の子の言葉も耳に残っている。
「才能があるからSランクになっただけじゃなくなんだかトラブル体質もありそうな気がするであるな」
「本人には言うなよ」
なんの躊躇いもなく問題に関わっていく姿勢は良いというのか悪いというのか。
剣帝として有名になったのはもちろん力量もあるのだろうがこんな風にトラブルに関わっていっていたからもあるのではないかと思えてきた。
スーハッフルスのことも冒険者なので関わらなくても良いといえば関わらなくても良いことだ。
剣帝の話を聞くと結構人助けの話も聞こえてくるから普段からこんなんなんだろうな。
「行こっ、おじいさんの話だけでも聞いてみようか」
ソリアがいれば解決できない問題の方が少ない。
パワーアップしたノワールもいることだし人形を直してくれみたいな話でない限りは大丈夫なはず。
「ショウカイさん……」
世直し旅をするつもりはないけど関わってしまったら最後まで責任は取る。
ソリアほどでなくてもショウカイにも正義感はあるのだ。
「なんのもてなしも出来なくてすまないな」
「大丈夫です」
「それで本当にSランクの冒険者なのか?」
「はい、こちらを……」
「いや、武器を見せてほしい」
「武器ですか?」
おじいさんはソリアの見せる冒険者証ではなく武器を見せろと言った。
不思議なお願いにソリアも面食らった顔をしている。
ソリアは腰に差した剣を鞘ごとテーブルに置いた。
命とも言える武器であるが何かの意図があってのことだろうとソリアは躊躇いなく武器も差し出したのだ。
「失礼するよ」
おじいさんはソリアの剣を手に取ってスラリと抜く。
ソリアの剣も美しさを感じるほど鋭利でシンプルな剣。
どんなものなのかショウカイには分からないけれどSランクの冒険者が扱う剣なのだからそんじょそこらの剣ではないはずだ。
「いい剣だ」
「ありがとうございます」
一通り剣を見るとソリアに返す。
「そちらのお方もいいかな?」
「わかりました」
別にショウカイはSランク冒険者でもなんでもないのだけど思うけどとりあえず剣を渡してみる。
「こ、これは!」
剣を抜いておじいさんは目を見開く。
抜かれた熊公は何回見ても綺麗だ。
美術品にも劣らない芸術性が剣にあるだなんてショウカイは熊公で初めて知った。
熊公を見るおじいさんの手が震えている。
ソリアの剣のようにまじまじと観察することなく、すぐに鞘に剣を戻す。
「お主……これをどこで手に入れた?」
「これ?
知り合いが頼んで作ってくれたんだ」
「これを作ったのはドワーフではないか?」
「そ、そうです……」
おじいさんの目が怖い。
「ワシは今は引退しているが鍛治師であったのだ。
ドワーフの作った武器といえは作る側にとっても憧れの品だ……
まさしくSランクにふさわしい品である。
疑って悪かった、2人ともSランクであると認めよう」
言うまでもなくショウカイはSランクではない。
それどころかもっとしたのランクで昇格試験をずっとほっといている。
さっさと終わらせるつもりだった昇格試験。
荷物の中にはずっとストーンリザードの尾っぽがしまいっぱなしである。
Sランクを偽証なんてすればギルドから追われるのでそんな愚か者いるはずもないが冒険者証に記載されたランクだけで人を信頼もできない。
強者には強者なりの武器がある。
おじいさんは冒険者証ではなく自分の長年培ってきた目でもって相手を判断した。
Sランクでなくてもドワーフは認めない相手には武器を作らない。
少なくとも信頼のおける相手であるとは判断する材料にはなる。
「助けてほしい……今この村だけでなく、この周辺にある村も同じ状況だろう」
「お金などの見返りは求めません。
何があったのか話してもらえますか?」
「……このような高潔な人物を疑ったワシが恥ずかしいよ」
おじいさんは村の置かれた状況を話し出した。
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