魔塔へ2
魔物には人の言葉を話すものもいる。
元々人間だったリッチや人を騙すタイプの魔物などは人の言葉を操ることがあるのだけど、あくまで一部の例でありそうした特殊な魔物に限るとされている。
人に何かをするわけでもないのに人の言葉を話すことのできる魔物がいることはソリアにとって衝撃だった。
人の姿になることができる魔物がいる。
人の言葉を話すことができる魔物がいる。
この2つのことを合わせるともはや魔物の侵入を防ぐことは不可能ではある。
スパルタスの連中がシキのことを怪しいと思いながらも魔物だとは気付くことはできなかったように、見た目が人で言葉も人なら違和感はあってもおかしな奴にしかならない。
しかも今話しているのは小さいクモである。
クモ系は虫種の魔物中でも比較的頭が良いとされているがこのような魔物が話すのを見て驚かないわけがない。
この大きさなら普段はそばに居ても居ないように見せることができても不思議でない。
テラリアスナーズとマギナズだけが仲間だと思っていたソリアにはノワールも驚きだったのに、まだまだサプライズがあった。
「軽い冗談なのであーる。
よろしくお願いしますである」
「よ、よろしくお願い、します」
「アラクネの子がミクリャでクモがシュシュ、そんでこの子がウルフでノワール。
本当はもう一体いるんだけどちょっとお休み」
ノワールが巨大化した姿のウルフになる。
素早くミクリャがノワールに登って跨り、ドヤ顔する。
「か、かわいいですね……」
どうにもミクリャはソリアのお気に召したようだった。
ショウカイがマギナズにされていたように抱きかかえられるミクリャ。
他種族見知りしないというよりは自分を害するかどうかを見抜く能力が恐ろしく高いのかもしれない。
あんなに魔物を敵視していたのに人は変わるもんだ。
「……失礼を承知でお聞きしますがショウカイさんのご職業は何ですか?」
思い悩んだ顔をしていたソリアが思い切って質問をぶつける。
魔物を従えている人間なんて聞いたことがない。
通常の人間の能力とはとても考えられない。
だれでも魔物を従える方法が確立されていたら今頃世界は一変している。
そんな方法があるとは思えないので職業が関係している可能性があると考えた。
自ら話もしないのに相手の職業を聞くのはご法度である。
嫌がられることも承知の上で聞いてみた。
ノワールたちを紹介した時点でこうなることも予想はしていた。
どうやって魔物を従えているのか気になることは当然の疑問である。
「絶対に秘密にしていただけますか?」
「……はい、必要ならば誓いも立てましょうか?」
「いや、話さないというなら別にそれで良いんだ」
漏れたら漏れたでも別に構いはしない。
特にまだ完全にどこかに根を下ろしたのではないので問題が起きたらどこか遠くに移動するだけだ。
ワチカミとかとは離れることになるけれど仕方のない側面はある。
むしろそれで迷惑かけちゃうぐらいなら離れる方を選ぶ。
「俺の職業はサモナーだ」
これまでは人に言うのも怖かったけどみんなと出会って、いろんな魔物と出会ってきて、それなりに自分のサモナーという職業も悪いもんじゃないと思えるようになってきた。
正体不明のよく分からない弱小職業ではないのだ。
ただ魔物を従えるという特性上その能力が分かったとしても受け入れられ難いものである。
そのことはどうしようもない。
サモナーの強さが分かっても分からなくても人社会にあまり馴染まないでいる職業なことは間違いない。
「サモナー……ですか?」
聞いたことのない職業だった。
特に他の人を職業で考えたことのないソリアは職業の種類についても詳しくはなかった。
ショウカイも勇者としてハブられていた時もよく分からない職業であるからそんな目にあっていた。
詳しくてもサモナーが何をできる職業であるのか知ってある人はいない。
知らなくても無理はない話である。
「サモナーとは何ですか?」
「サモナーってのはね……」
サモナーがなんだか自分でもよく分かっていない。
調べても情報は出てこないし自分のこと一例だけをあげてそれがサモナーの全てだとも思えない。
「魔物にもいろんな奴がいるって分かる職業だよ」
でもこれは言える。
サモナーはただ魔物と戦うためだけに与えられた職業ではない。
魔物にもいろんな性格の魔物がいて、いろいろな事情のもとに生きている。
そんな魔物の世界の一端を覗き見ることができるのがサモナーという職業なのではないかとショウカイは思っている。
まだまだサモナー本人にも分からない不思議な職業。
今となっては割と楽しくていいと思ってる。
ショウカイは横を歩くノワールの頭を撫でる。
今はまたウルフ姿のノワールの頭を撫でているとノワールも気持ちよさそうだしショウカイも手が気持ちいい。
「……サモナー、ですか」
ショウカイとノワールは側から見ていても信頼しあっていることがわかる。
例え人でなくても強く信頼ができる相手がいてソリアは少しショウカイが羨ましく思った。
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