隣国へ1
「起きられましたか?」
「あっと……ルード、さん?」
目覚めはかなり良かった。
人を殺した罪悪感で悪夢でも見るかもなんて寝る前にふと思ったりもしたけれどそんなことはなく、窓から外を覗いてみると日が真上に昇っていた。
もうちょっとまどろんでゆっくりしていたい気持ちもあれどそうもいかない身。
連日暗殺者を仕向けてくるとは思えないけれどいつまでたっても報告がないと気づかれる。
相手に本当に殺す気があったことがはっきりとわかったので早めに行動しなければならない。
なぜ勝手に呼び出されて、殺されなければいけないのか。
いつか覚えてろよという薄ら暗い考えが浮かぶことは止められない。
昨日買った防具や剣を少し手間取りながら取り付けて部屋を出ると声をかけられた。
ゲロッカの警備を担当しているルードだった。
「おはようございます」
「まさかとは思いますが一晩中そこに?」
「ええ、奴らは泥棒ということでしたので、まさか仲間はいないだろうとは思いますがもしいれば復讐にくる可能性もありますので」
ルードの足元にはランプが置いてある。
つまりルードはショウカイが寝ている間ずっと部屋の前で警護してくれていたのである。
「あと主人から残りの2日この部屋にお泊まりいただいてください。追加のお代ももちろんいただきませんとの言付けがありました」
「ありがとうございます」
最上階の高級部屋はさぞかし高いのだろう。
すでに止まれないところまで来ているのでとことんまで図々しくいくだけである。
こういう対応を見るにつけて多少高くても良い宿に泊まっておいて良かったなと思う。
ルードと別れてショウカイは冒険者ギルドに向かう。
想像よりも早く襲撃してきたことで早く国を脱出しなきゃいけないという思いと逆に一度襲撃を乗り越えたから今が動いてしまうチャンスだという思いがショウカイを国外脱出に駆り立てる。
しかしショウカイも馬鹿ではない。
大きな荷物を背負って単身町を出発しようものなら襲撃者はおろか魔物にも襲ってくれと言っているようなものだ。
どうしようもなければ単独行動も辞さないのだけれど出来るなら国外に出るまでは1人でいることは避けたい。
ただしならばどうするのか。
この世界にバスや電車というものがないのは分かっている。
ある程度の目処は付けているがこんな方法があるだろうと予想しているだけで、本当にあるのかもどう利用するのかも分からない。
そこでショウカイは冒険者ギルドに向かった。
国外に出れば2度と会うこともないから恥ずかしい質問だとしても聞いてしまえばいい。
昼過ぎのギルドはやや閑散としている。
受付には最初に対応してくれた愛想のない若い男が眠そうに座っていた。
ショウカイに気づいても男は立ち上がったりせず、座ったまま受付に肘をついている。
「あーはい、いらっしゃい。今日は何の用?」
「今日は聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと?」
「ちょっと事情があって、この国を出て行きたいんだけど……」
「出てけばいいじゃないですか?」
「そうなんだけどどう出ていくかが問題であって」
眠いところに来たせいなのかやたら態度が悪い。
「どうったって移動の方法なんて歩くか馬車で移動するかだ。
腕に覚えがあるなら歩いてきゃいいし、そうじゃないなら金払って乗合馬車か、冒険者なら護衛依頼として商人についてきゃいい」
「馬車……どこに行けばいい?」
「はぁ? そんなん知るかよ。どの門のところにも馬車はある。あんたがどこに行きたいのかも知れないんだから好きなとこに行けよ」
段々とショウカイの物の知らなさに苛立ってきている受付の男。
この態度で大丈夫なのかと思わなくもないショウカイだが変に興味を持たれたりするやつよりはマシだと自分に言い聞かせ苛立ちを抑える。
「馬車について細かいこたぁ馬車を扱ってる奴に聞いてくれ。
あとはそうだな、あんた金持ってそうだし護衛依頼を自分で出すのはどうだい?」
「護衛依頼?」
やや馬鹿にした言い方だったがショウカイはその内容に興味を引かれた。
聞きたかったことドンピシャの内容のことをあちらから言ってくれた。
「依頼人として冒険者にどっかの町まで護衛してくださいって依頼出すんだよ。金はかかるが国を出たいなら馬車より早いだろうぜ」
「馬車より早いのか?」
「へえ……興味あるんだ。
馬車は大きな町から町へ、それに出発も人揃えるために間隔が空いてる。だから速度は歩くより速くてもタイミング次第では出発に時間はかかる。
その点護衛は雇い主の好きにできる。
わざわざ大きな町に寄る必要もないなら、途中で補給さえ出来れば短いルートで好きなとこに行けるのさ」
「なるほど」
「ただその分これはかさむ」
受付の男は親指と人差し指で輪っかを作ってみせる。
その仕草がお金を意味することはショウカイにもすぐに分かる。
人を雇って護衛させるのだから安いはずもない。
「冒険者のランクや通るルートでもいくらかかるか変わるし、条件によって金額も来る冒険者も変わる」
「条件ってなんだ?」
これ以上聞いたらもうどうするのか半ば決まったようなもんだけどそれでもいいか。
気になることはどんどん聞いていく。
「例えば町についたらたとえ安宿でも出してくれたり、食料代とか……前に火の魔法が使えるから協力するってたら割と問い合わせのある人気依頼になったこともあったな」
「ほう……じゃあある程度の宿代、食費、俺は簡単な火の魔法が使えると依頼したらいくらになる?」
「待て待て待て。本当に依頼するつもりか?
……なら少し待て」
そう言って受付の男は席を立つとギルドの奥の部屋に行ってすぐに大きな丸めた紙を持って戻ってきた。
受付の机に広げたそれは簡単に国の形と大きな都市の名前が描かれた地図であった。
「そうだな、依頼人とあっちゃあ俺もやる気を出したいんだけど……」
そう言いながらショウカイをチラチラとみる。
最初は意図が分からなかったが手の動きを見てそれとなく察する。
「やる気っていうかあまり物を知らなくてな。親身になってくれたら助かるんだが」
ショウカイは袋から銅貨を5枚出すとそっと受付に置く。
食品なんかの金額から見るとそれなりの金額になる銅貨を見て受付の男がニヤリと笑う。
さっさと話しを進めたいし適当なことをされては困る。
信用はおけなさそうだがお金には忠実そうだ。
「分かりました。ご満足いただけるご依頼にしましょうか」
素早く懐にお金をしまうと先ほどとは180度変わった態度を取り始めた。
「ひとまずいくらかはどこに行くのか分からないと出せません。どちらか希望の行き先はありますか?」
「いや……地理にも疎くてね。出来れば安定している国がいいんだけど」
受付の男の変化に戸惑いながらもショウカイは答える。
「安定している国……なら南東の方角にあるリテュウスという国がいいかもしれませんね。現在の国王になってから非常に安定して国が運営されているところです」
紹介されたリテュウスはこの国と大きな川を挟んで国境を接している国。
達筆気味でショウカイにはやや読みにくいがリテュウス王国と書かれている。
あまり地理というものを気にしたことがなかったがよくよく見ると今いるユニシア王国は周りと比較してもそこそこ大きい。
魔王の国はユニシアの北にあるビクニシアンという国だったはずなので魔族との争いから逃げるのにもリテュウスはちょうど良い。
「他国の内情までは知らないのでとりあえず首都に向かうといいでしょう」
「じゃあひとまずリテュウスの首都を目的地にするよ」
「目的地が決まったら次は道……」
受付の男は今度はユニシア周辺だけの道なども書き込まれている地図を広げた。
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