準備と襲撃7
泥棒が侵入したこと、それに気づかなかったばかりか客の1人がそれを倒した事の重大さに顔を青くしていた。
被害がなくてよかったといえるがこれは大きな問題だ。
「人を呼んでまいります、申し訳ありませんが少々お待ちください」
自分だけで対処していい問題でない。
ルードは慌てたように階段を降りていき、すぐに年配の男性とルードよりも少し年上に見える女性を連れてきた。
来たのは店の主人とその娘らしく、部屋の様子を見ると娘は死体にショックを受けているのに対して主人は流石と言ったところか顔色1つ変えずに指示を飛ばしていた。
「お客様大変申し訳ございません。当宿におきましてこのようなことがおきますとは……お詫びのしようもございません」
ルードは他の階の巡回に行き、ショウカイは宿の主人と娘に頭を下げられていた。
まさかショウカイが勇者で、侵入者が暗殺者だとは思わない宿の主人は疑問点はありつつもショウカイの言葉を信じることにした。
死人に口なし。ショウカイの言葉の他に確認しようもないのでどうしようもない。
お客を疑うわけにいかないし何にしても夜中に侵入された落ち度はある。
死体の荷物を調べたが身分を証明できるものはなく、他に忍び込んで盗んだ様子もなかった。
他の客室も調べたいところではあるがまだ夜中であるし騒ぎを大きくしたくない宿の主人はリスクを天秤にかけて他の客には黙っていることにした。
「もう少しで衛兵が来ますのでお話を聞かれることもございますでしょう。お部屋につきましてはこちらはしばらく使えないでしょうから別のお部屋をご用意させていただきます」
「ありがとうございます。頭を上げてください」
なんだか申し訳ないなとショウカイは頭をかいた。
騒ぎを起こしたのも、そもそも騒ぎの原因も自分なのに主人は相当責任を感じているようだ。
そうして通されたのは最上階の1室。
本来は予約客が止まるゲロッカの中でも高い部屋、いわゆるスイートルームのような部屋。
たまたま予約客が来ずにキャンセルとなったので空いていた。
こちらは2人部屋なのであるが広さは四人部屋よりも広く、備え付けてある家具も豪奢でベッドも元の部屋よりもフカフカであった。
荷物を運ぶ込み、すぐにでも寝てしまいたいショウカイであったが程なくして衛兵が部屋を訪ねてきた。
最初は衛兵も王国側の人間でまずいことになったかもしれないと考えたが衛兵はショウカイのことを知っている様子もなく淡々と質問をするだけだった。
衛兵に話した内容も単に泥棒に入られ返り討ちにしたと嘘を突き通す。
いきなり3階に泥棒が入った理由とかどう見ても強くなさそうなのに泥棒を倒せた理由とか、泥棒に動きに疑問はあったみたいだけれど科学捜査もないこの世界ではショウカイの証言が大きな割合を占める。
多少怪しむ素振りはあったものの昼間少し派手にお金を使ってしまい目をつけられた可能性や1人だったことを相手が知っていた可能性などそれとなく伝えてみると納得したようであった。
正確には納得というよりも考えることを放棄したというべきか。
「まぁ……単なる泥棒ならそこまで騒ぎ立てる必要もないでしょう。ここもそう騒ぎを大きくしたかぁないはずてすし」
ペンのおしりでガリガリと頭を掻く眠そうな衛兵は真面目さからは程遠い人物のようだ。
普段なら殺されかけたのにこの態度の不真面目な人物にイラつきを感じるところかもしれない。
しかし時間が経ってずっと高鳴っていた心臓が落ち着いていくと冷静になり、色々な思惑が合致していることが分かった。
ゲロッカは泥棒が侵入して部屋で死んだことを隠したい。
衛兵は面倒で煩雑な手続きを出来るだけ少なく済むようにしたい。
ショウカイは泥棒が泥棒でないことを突っ込まれたくなくできればさっさと処理してほしい。
結果として暗殺者たちは泥棒として、しかもゲロッカではなくゲロッカ裏の路地で死んでいたことにされた。
死体は一応衛兵で引き取ってくれたがおそらく身元の確認すら行うこともないだろう。
家族やなんかいたら可哀想だとは思うが暗殺なんて卑怯な行為に手を染めた末路といえる。
「では泥棒は死んでいた、そういうことでよろしいですか?」
「……はい」
「分かりました。こちらとしても、ゲロッカさんにしてもそれがありがたい」
隠すつもりもなくのたまう。
それで良いのかと思わなくもないがショウカイもそんな思惑にのるしかないのであって、ひとまずこれで事態は収拾した。
こんな形で暗殺者がいなくなれば王女様たちもすぐに把握は出来ないはず。
とんとん拍子に話が進んでしまったが上手くいった方だと思う。
「それでは失礼します」
衛兵が去ってショウカイはベッドに倒れ込む。
これでしばらくは安心できるはずである。
城は城で周りの目があったり人の家に泊まっているようで落ち着けなかった。
少なくとも、今夜は暗殺の心配もない。
ようやくグッスリと眠れる気がした。
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