初めてのドワーフ4
「ドワーフはまだあまり裁縫については得意とは言えないわ。
これほどのものを作れるのはむしろ人間の方でしょうね」
ドワーフは鍛治の分野に関しては他の追随を許さないほど卓越した種族である。
けれど他の分野ではどうだろうか。
めしは上手くない。
食えればいいし、腹が満たされればいい。
ドワーフの飯を食うなら残飯を漁った方がマシだと人間には言われている。
建築はかなりいいところまでいっている。
元々はこうした穴ぐらに住んで鍛治の設備さえあればよかった時代比べるとだいぶ進化した。
でもこれも人間からの技術の輸入である。
それに人間の住環境を豊かにする熱意には及ばない。
細かい意匠の作り込みはドワーフの方が上だと自負できるが。
裁縫技術についてはどうか。
ドワーフはあまりそこらへんが得意ではない。
武器の鞘や鎧も作ったりするのに服に関してはなぜなのかあまり作ってこなかった。
人の町に住んだり近くにいるドワーフは服やなんかは人に頼っている。
長らくドワーフは武器を作り、それ以外を人が作ったものに依存する生活を続けてきた。
そんななのでドワーフの裁縫の腕前は優秀とは言えなかった。
ここは人里離れたドワーフの町なので人に頼った生活はできない。
なので裁縫の方もそれなりに自分たちでやってきているのだけれどまだまだ人間には敵わない。
ドワーフでも子供用に人形などを使うこともあり、人と離れたこの町では自分で作ることもあるのだけれどここまでのクオリティのものは作ることができない。
「それにちょっと失礼して手を突っ込んでもいいですか?」
「手ですか?
大丈夫ですけど」
「よいしょ」
シーダはテディベアの裂け目から腕を突っ込む。
布をかき分けてグッと奥に腕を入れる。
これ以上裂け目が広がらないように気をつけながらテディベアの中をまさぐり、腕を引き抜いた。
シーダの指先には白い塊が摘まれている。
「中身も本来は布ではなくてこれですね」
フワフワとした手触りで弾力があり布を詰めただけでは再現することは難しい。
綿のようにはショウカイには見えた。
「これは魔物の素材ですね」
「えっ」
「なんでしたっけ……メットンとかそんな名前の魔物から取れるものだと思います」
「ただの植物じゃなくて?」
「ただの植物のものもありますけどこれは多分魔物の方ですね」
テディベア直しの雲行きが怪しくなっていくぞ。
「この手触りの良さは魔物のものでしょう。
それにもう一つ理由もあります。
このテディベア、何かしらの魔法がかけられていましたね?」
「分かるんですか?」
「私たちは武器を作る時に魔力を込めることが出来ます。
だから私たちの作る武器は重宝されるのですが今言いたいのはそう言うことではありません。
魔力を込められるということは物の魔力に対して敏感なのです。
人形にも魔力を感じます。
この感じは多分何かの魔法がかけられていたんだと私は思います」
「その通りです。
なんだかこれ、魔力を込めた人の後ろをついて歩くっていう魔法が……」
なんだその顔とツッコみたくなる。
話を聞いていたく怪訝そうな顔をするシーダ。
「間違いなく人間作です。
そんな変な魔法作り出すのは人間しかいないので使えるのは人間しかいません」
「えっと、じゃあこれを直したいと言ったら……」
「ドワーフじゃ無理です。
こういうのを作る裁縫がすごい人と変態みたいな魔法を扱うことの出来るすごい人を探してください。
その上で中綿なんですが魔法に耐えられるように魔物の素材でなくてはいけません。
メットンなら最適でしょうけどメットンでなくてもふかふかしていれば代用はできるのではないですかね?
なんかふかふかした魔物の毛とか」
「ふかふかした魔物の毛……」
いかにも私だろ?みたいな顔しているけどマギナズの毛ではちょっと硬いかもしれない。
あれはあれで気持ちがいいのだけどマギナズの毛を固めて入れたらゴワゴワとした感触になってしまいそうだ。
とりあえずメットンなる魔物とぬいぐるみ作りに長けた裁縫上手な人と人の後ろをついてくる魔法を使える人を探す必要がある。
裁縫上手な人以外探すのに苦労しそうな気配がビンビンである。
「森にメットンいない?」
「いないな。
私ならいるぞ」
「うーん、マギナズさんの毛はちょっと不向きそうでしたね」
「……やってみないとわからないだろ?」
なぜそこで食い下がる。
後で一応マギナズの毛も試してみようかとは思うけれど結局ここまで来てまた人間の町に戻らなきゃいけない。
テディベアを直すための糸口は掴めたもののテディベアを直すために町中をテディベアを持って歩くことを考えるとショウカイは気が遠くなる思いがする。
シーダとデミオにお礼を言ってドワーフの町を離れる。
テラリアスナーズに報告する義務もないけどこのままではテラリアスナーズにノワールを任せてまた人間の街に向かわなきゃいけない。
再び茹だるような暑さの中を歩いて森の奥にいるテラリアスナーズのところまでショウカイは戻っていったのであった。
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