大事な大事なお人形4
「ところがある時私の娘に近づくあのクソガキが……」
声のトーンがいきなり低くなる。
「この人形を娘から奪い取ろうとして娘は抵抗したのです。
そうした結果人形が壊れてしまいまして。
触ってみてください」
言われてテディベアを触ってみる。
表面は柔らかくて気持ちがいいのだけど中が固い。
大体こういうのは中にワタが詰まっていてふわふわとしているはずなのに、押すとわずかに凹むぐらいしかしない。
「本当はもっと柔らかかったのです」
フドワはショウカイがテディベアを触ったのを確認して話を続ける。
このテディベアはフワフワとして触り心地が良く、フドワも小さい頃姉がテディベアを持っていっていない時にはこっそり抱きしめたものだった。
「首のところから裂けてしまい、中に入っていた白いものが風に飛ばされて無くなってしまいました……
なんとか直そうとして、布などを詰めてみたのですが以前のような柔らかさはなくなってしまい……」
フドワはテディベアをくるりと回転させてショウカイに背中側を見せる。
背中は大きな縫い跡がはっきりと見えるようにあって、中からチラリと詰めた布が見えている。
これを直したというならショウカイも違うと否定してしまうだろう。
オーガたちは服を着ているがその実裁縫が得意ではない。
器用さがないのではないが手も大きく人間用の裁縫道具では上手く扱えないのである。
それでもなんとかしようとした気概はテディベアから感じられた。
「普段私たちの服などは交流のあるドワーフにお願いしているのですがこの人形の修復は『こんなもの俺たちが出来るか!』と断られてしまいました。
それとこの人形にはもう1つ特徴があったのです。
この人形は魔法がかけられたものだったのです」
「魔法ですか?」
「はい、この人形魔力を込めると魔力を込めた人に歩いてついてくるんです」
「へぇー」
それはちょっとスゴい。
子供にとってテディベアが付いてくるなんて凄くいいおもちゃではないか。
見た目も可愛いこのテディベアが後ろをついてくることを考えると凄く可愛くて良い。
「けれど人形が壊れてしまった時に魔法も機能しなくなってしまいました。
見た目も直しきれてしませんし人形が動かなくなって娘は非常に落ち込んでしまいました。
もしこれが直らなかったらあのクソガキ殺してやる……」
ちょいちょいフドワが怖い。
「お願いしたいのは他でもありません。
この人形を直してほしいのです」
テディベア越しのフドワの真面目な目。
いや無理です。
ショウカイは断る言葉を言うことができなかった。
リキナの言うクーちゃんとはこのテディベアのことだろう。
あんな顔して直してくれるの?なんて言われてもしまったので出来ませんなんて言えるはずもない。
とりあえずテディベアを預かり、ショウカイはそのままオーガの村に一晩泊まることになった。
オーガの村のみんなは人間であるショウカイを警戒していた。
特に警戒すべき能力なんてショウカイにはないのだけれど魔物にとって人間は敵だし、テラリアスナーズの代わりに来てなんだかマギナズにいたく気に入られているしで距離感が分からないでいた。
「お兄ちゃん」
そんな中リキナだけはニコニコと近づいてきてくれる。
お兄ちゃんと呼んで慕ってくれるのでショウカイもニッコニコだ。
ちょっとだけフドワの目が怖いけどそんなつもりはないから安心してほしい。
将来は人間から見ても美人さんになりそうだけど。
「それでここが私のお家!」
村の家をグルリとリキナに案内されてまた戻ってきた。
ミクリャはリキナの肩に乗って楽しそうにしていた。
そのままフドワの家に泊まり、オーガの料理も心配していたのだけど普通に肉とか出てきてほんとに料理だった。
少しだけオーガの話を聞いたのだけれどオーガが皆こんな風に文化的なわけではないそうだ。
森にいて生活が安定的なこととドワーフと交流を持っていることがここのオーガの生活を生んでいた。
「クーちゃん直してあげてね……」
そんな目で見られても出来ない気がする。
大きなテディベアを抱えて、ショウカイは一度テラリアスナーズのところに戻った。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます!
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
評価ポイントをいただけるととても喜びます。
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。