大事な大事なお人形3
ざわざわとしだすオーガたち。
「人間……」
「あれ人間だよな……」
「なぜマギナズ様に抱かれているのだ?」
「そもそもなんで人間がこの森に」
「あの人間が抱えているのはなんだ?」
「女王様とはどういう関係なんだ?」
オーガの会話が聞こえてくる。
言っていることがわかる時点で知能の高さも魔力の強さも分かるのだけど今だけは分かりたくなかった。
当然の疑問がオーガの口々に飛び出してきて、居た堪れない気持ちになる。
よく考えてみると魔物のど真ん中に人間が1人だけいるなんて異常すぎる光景である。
「よく聞け!
こいつは人間だが女王様と私の大切な友人だ。
手ェ出したらぶっ殺すから気をつけろよ!」
めんどくさい説明を一切省いたシンプルなお言葉。
強そうなオーガでさえもマギナズには敵わないのだろうか。
「分かりました。
その人間には手を出さないように皆に言いつけておきます」
「うむ、お前たちの問題もこいつが解決してくれるからちゃんと気を遣えよ!」
「はい、そのようにいたします」
「とりあえず降ろしてくれないかな?」
このまま抱えられた状態で全てを進めるのはご遠慮願いたい。
「えー、いいじゃねえか」
「よくないねぇ」
「ちぇ……分かったよ」
マギナズから解放されてようやく地面に降り立つ。
足が地面についてるって素晴らしい。
降りて見てみると普通の人ぐらいに見えたオーガの人もショウカイよりもデカかった。
「私はフドワと申します。
よろしくお願いします、女王様の代理殿」
「あっ、はい。
俺はショウカイって言います。
解決できるか分かりませんができる限りのことはします」
「このようなところで話をするのもなんなので中にどうぞ」
囲いの中は完全に知性が感じられた。
しっかりと建てられた家があり、1つの村になっていた。
外見だけではない。
中もちゃんと家。
ショウカイにとっては大きめなイスに座るように促されて席につく。
体の大きなオーガのため家も家具もかかなり頑丈な作りになっていることが見て取れる。
自分が子供になったような感覚になってくる。
「わざわざご足労ありがとうございます。
今回問題になったものを持って参りますので少々お待ちください」
フドワが席を外す。
「ん?」
何か視線を感じて振り向くとバチリと視線があった。
別の部屋から頭だけを出してショウカイを見ているオーガの女の子がいた。
「人間さんクーちゃん直してくれるの?」
「クーちゃん?」
「うん。みんなじゃ直せないからじょーおー様に聞いたら人間なら直せるって」
「うーん?」
「あとその子は魔物?」
「ああ、そうだよ」
その子とはミクリャのこと。
「可愛いね」
ニッコリ笑って見せるオーガの女の子。
こうして会話していると普通の人間と大きな変わりがない。
「ありがとう。
君も可愛いよ」
「えへへ、そう?」
容姿としてはかなり人に近いタイプのオーガ。
お世辞でもなくショウカイの目から見ても可愛らしい女の子であった。
額に角のある黒髪のオーガの女の子は照れたようにモジモジとしている。
可愛くてほっこりする。
「おいで」
ミクリャを抱きかかえてオーガの女の子の方に向ける。
パタパタとミクリャはオーガの女の子に手を振り、パッと笑顔になったオーガの女の子が近づいてくる。
「この子はミクリャ。
アラクネだよ」
「はじめまして、リキナです!」
「ん!」
ミクリャはほんと人見知りも物怖じもしない。
降ろしてやるとミクリャはリキナに近づいて頭を下げた。
「えっと?」
「抱っこしてあげて」
「いいの?」
「ミクリャもそうしてほしいって」
「わっ!」
ミクリャがぴょいとリキナにしがみつく。
「お待たせしました……リキナ!
申し訳ありません、ご迷惑をかけていませんか?」
慌ててリキナがミクリャを抱きかかえるとちょうどフドワが戻ってきた。
「いえいえ、ミクリャもリキナが気に入ったようです」
「かーわーいー」
キャッキャッと回るリキナとミクリャ。
「お父さん、この子と遊んできていーい?」
「ええと……」
「大丈夫ですよ」
まあ何か問題が起こることはあるまいと思う。
「……家の中だけにしなさい」
「わーい!」
リキナはミクリャを連れてパタパタと2階に上がっていった。
というか2階があるのか。
「ありがとうございます。
すっかり落ち込んでいたのにあんなに笑顔になって……」
「俺は何もしてませんよ」
再び席につくとフドワがテーブルに人形を置いた。
それはクマのぬいぐるみだった。
いわゆるテディベアというやつなのだけどオーガサイズなのかショウカイでも抱えるぐらいの大きさ。
向こうに座るフドワの姿が見えなくなる。
「ケラティス……他の部族との衝突が起きたのはこれが原因なのです」
顔が見えなくてもフドワは平気で話を始めた。
まるでテディベアが低い渋い声で話しているようでなんだか面白い。
「この人形は私のところに代々伝わる物でいつからあるのかも分からないのですが、私の姉も子供の頃この人形をいつも持って歩いていました。
当然のことながら今ではこの人形は受け継がれて私の娘のリキナのものになっています」
代々伝わるというほどのものだろうかという疑問は口にはしない。
テディベアの向こうの表情は見えないがとても真剣そうな声色で話しているのでショウカイもまじめに話を聞く。
最後まで読んでいただきましてありがとうございます!
もし、少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、
ブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。
評価ポイントをいただけるととても喜びます。
頂けた分だけ作品で返せるように努力して頑張りたいと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。