大事な大事なお人形1
「俺って乗り物酔いしやすいのかな」
乗ったところまではよかった。
いざ飛んでみると振動がすごく、不規則で落ちないようにショウカイは必死にノワールの毛の塊にしがみついた。
結果、酔った。
ノワールの上で吐くことはしなかった。
というかそんな余裕がなかったので吐けすらしなかった。
人に見つかるかもしれないと隠し身のマントを自分の下に敷くようにして魔力を込めてせめて少しでも隠そうとしたけど周りを警戒することもできなかった。
効果があったのか、人がいなかったのか、見つかってもスルーされたのか知らないけれど何とかバレずに森までやってきた。
話し合って戻ってきて3日だったので近いとばかり思っていたけれど曲がりなしにも魔力を持った鳥であった。
鳥たちの飛行スピードは速かった。
障害物のない空を飛ぶことはこれほどまでに速いのかと思った。
ただテラリアスナーズの暴走機関車で多少鍛えられたのか気絶まではギリギリしなかった。
気絶してたら落下してたかもしれないし。
「よく来たな!」
グッタリとするショウカイの前にはデカいクマ。
ちょっとだけ久々のマギナズである。
テラリアスナーズのところまでは侵入禁止になっているのでその手前まで鳥たちに運ばれてきた。
下ろしてもらったショウカイは地面に倒れ込み、マギナズに覗き込まれていた。
ファルバラン以外の鳥たちはサッと解散していき、ファルバランだけが残っている。
「……それでこいつはナニモンだ?」
ミクリャはマギナズにしがみついている。
毛足が長めでマギナズにミクリャは半分埋まってしまっていた。
デカいマギナズに興味津々のミクリャは恐れも知らず毛の中に埋まってみていた。
マギナズも引き剥がすこともできずに困惑している。
「そちらはミクリャ様である」
「ミクリャ?
初めて見るけどこれもショウカイの仲間……ウヒィ!」
サワサワと動き回るミクリャがくすぐったくて変な声を出す。
「初めて見るって言ったけどほとんど姿が見え……くすぐったい!」
「ミ……ミクリャ、おいで」
ショウカイの呼びかけでミクリャがピョンとマギナズの上からショウカイのお腹の上に着地する。
「マギナズが気に入った?」
「ん!」
「だって」
「だってじゃねぇし……」
両手を上げるミクリャ。
マギナズが気に入ったようである。
「それで俺はこれからどうするの?」
とりあえず連れてこられた感がある。
特に計画を立てたわけでもないのでこれからどうするのかも決まっていない。
「とりあえずノワールを女王様のところまで運ぼう。
こっちだ」
卵を盗まれた経験から不要な輩はテラリアスナーズのところまで行かせられないけれどショウカイは別。
ノワールも当然顔見知りだしテラリアスナーズのところに行っても大丈夫だと判断した。
マギナズは四足歩行の状態から立ち上がるとノワールの毛の塊を持ち上げた。
のっそのっそと歩くマギナズを慌てて追いかける。
森の奥に進んでいく。
乗り物酔いで気分が悪かったけれど森の空気は澄んでいてすぐに気分が落ち着いていく。
マギナズについていくと森の空気が変わってくる。
森自体に変化はないのだけど少し呼吸がしにくくなるような感じがした。
それが何であるのかすぐにわかった。
魔力である。
森の奥に行くに従って魔力がどんどんと濃くなっていっている。
魔力が濃すぎるために少し息苦しさまで感じるのである。
生活する分には何ら困りはしないのだけど意識してしまうと余計に息苦しさがある。
「あら、ショウカイ様」
木々が大きくなってきて、森の中にいると薄暗く感じられるほどになってきた。
そんな中に周りの木々の上の方が寄り集まってできたドーム状の開けた場所に出た。
真ん中に巨大なカメと大きな卵がある。
テラリアスナーズとその子供である。
「よいしょ」
マギナズが卵の横にノワールを置く。
ノワールの毛の塊もデカいと思っていたけれど卵もデカい。
こんなに大きかったかわからなくなる。
「こちらが?」
「そうです、ノワールです」
「あらあら……私の血のせいですかね?
中で魔力が渦巻いていますね」
テラリアスナーズには中の様子まではわからなくても中で魔力がどうなっているのかは分かる。
自分の魔力はすでにノワールのものになっているけど、どことなくまだ自分の魔力に近い感じがあるのでよく感じられる。
「そう進化が終わるのも遠くはないですよ」
「本当か!」
「ええ、重要な山は越えているみたいです」
魔力が規則を持って渦巻いている。
まだ進化が始まったばかりの段階なら規則を持たず吹き荒れるように魔力が渦巻くはずだけど、だいぶ落ち着いている。
すでに進化の方向性は定まっていて、形になりつつある。
テラリアスナーズの言葉を聞いてショウカイが顔を明るくする。
終わりが見えない進化待ちも期待が持ててきた。
「それにここは魔力が濃い場所なのでより進化も早まるでしょう」
「……ノワール、待ってるぞ」
そっと毛の塊を触る。
まだショウカイにはなんの変化も感じられないけれど着実にノワールは進化をしているようだ。
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