準備と襲撃6
それならと逃げと回避に特化して大切なところを守るだけの軽い装備にすることにした。
部屋に戻る頃には日も暮れ始め荷物を置いてベッドに横になると疲労で体がずっしりと重かった。
「くぅ……旅をなめてたな」
セールストークに乗せられた側面も否めないが買い物の最初の方で買ったリュックはパンパンになっていた。
これでも火に関しては初級レベルとはいえ扱えるためにいくつか購入するのを減らしてなのだ。
衣類はかさばるし食料品は当然日持ちしなきゃいけないから青果はダメで硬く焼いたパンと何の肉かもわからない干し肉がメイン。
怪我のための包帯や効果もあるか分からない塗り薬、濁った色をした怪しいポーション。
快適なんて求める物ではないと分かっていてもあまりにも不安が付きまとうのでいろいろ買ってしまった。
「なんとか……なるかな?」
悩んだところでどうしようもない。
明日の事は明日考えることにしてショウカイは寝ることにした。
「さてと……これをこうしてっと。ふう、せっかくのベッドなのにな」
ーーーーー
この世界の夜は暗い。
一応外灯はあるが魔力で運営されていて日が暮れてから2時間ほどまでしか点いていない。
その間に帰って寝る支度をして寝るというのがこの世界の大都市の流れになり、田舎では外灯すらないから基本はお日様と共に生活をしている。
だから夜中になると外灯が消えるのだがこの世界にも月と同じようなものがあって月よりも明るく、かつ空気が綺麗なのか星もよく見えるほどである。
だから暗いけど明るい。
何か多少のことをするぐらいなら十分な明かりが差し込む3ー2の部屋の扉が静かに開いた。
フードを目深にかぶり顔を隠した2人の男性。
音を立てないように歩く男たちはこの部屋を借りている住人ではない。
「おーおー、よく寝てやがる。自分がこれからどうなるのかもしれずによぅ」
「おい、あまり声を出すと起きるだろう」
「だーいじょぶだって。それに起きたところでサモナー……それに戦いも普通のやつなんだろ? 2人も相手に勝てるわけもない」
「それもそうか」
「ほら、今だってみじろぎ一つしない」
やや声を潜めつつ男たちは4つあるベッドのうち奥側のどう見ても人が寝ているような膨らみのあるベッドに近づいた。
「まあ大声出されちゃこっちも困るからさっさと死んでもらおうかな!」
よく喋る方の男が手に持ったナイフを振り上げて、ベッドの膨らみに一気に突き刺す。
「よし、後はどんな顔で死んでるのか確認して、金を回収して……ちょっとぐらいちょろまかしても大丈夫だと思うか、あいぼ……う」
男が布団をめくってもそこに目的の人物はいない。
同時に後ろからドサリと重たい音、まるで誰かが倒れたような音がして男の顔から笑みが消える。
振り向いた時には目の前には黒い塊。
胸にはナイフが突き刺さり塊と一緒にベッドに倒れ込みナイフが根本まで深く刺さる。
武器だったナイフはベッドに刺しっぱなしで今男の下敷きになっている。
ろくに抵抗も出来ないままに絶命した男が最後に見たのは最後になんの感情もなく冷たい目をして自分を突き刺しているショウカイの姿であった。
「あ…………ぁ……ガッ……」
何か言葉にはならない音を発して男は死んだ。
再び音が消えショウカイは自分の心臓が破裂しそうなほど鼓動の音を大きく感じていた。
やはり来たというのがショウカイの感想。
そもそも確信はないが何故か付き纏われているぐらい何回か姿を見る奴がいる気がすると思ったのがきっかけだった。
人を鑑定で覗き見るのは良くないことかもしれないと思いながらも何気なく鑑定してみて驚いた。
まさしく付き纏われていた。暗殺者たちに。
人通りの多い町中では襲ってこないだろうとは思っていても気が気ではなかった。
襲ってくるなら夜なはずだと少し早めに買い物を切り上げて早めに仮眠を取ることにした。
その際もただ起きて待っているだけでは返り討ちにあう。
だからショウカイは少し作戦を弄した。
奥のベッドの1つに他のベッドの布団を丸めて入れて人がいるように見せて、自分は泣く泣く手前のベッドの下に隠れた。
ちょうど夜中に目が覚めたタイミングで様子を伺っていれば昼間見た暗殺者たちである。
暗殺者ではあるもののプロ意識は低くそれなりの音量で会話しながら警戒もせずに無防備に偽のふくらみに近いていく。
2人が奥のベッドを見ている間にショウカイはこっそりとベッドの下から這い出して、ナイフを突き刺したのとは違う自分の近くにいた男の背中にナイフを突き立てた。
声を出されては気づかれてしまうので枕を後ろから回して顔に押し付けながら。
急所も分からない、加減も、どれぐらいで人が死ぬかも分からないショウカイは3度男の背中を突き刺し、ようやく男は倒れた。
そしてすぐさまもう1人の男にナイフを構えて突進。
倒れた音で気づかれたか、振り向いたが構わず胸にナイフを体ごと体当たりするように突き刺した。
ナイフを突き刺してはりつけにしていなきゃ反撃されそうで。
もはや手には力が入らずナイフを抜ける気がしないので今度は何回も刺す事はしないでジッと男の目から生気が抜けていくのをただ待った。
やがて体の力が抜けて男の体がだらんとしても少しの間ショウカイは動けなかった。
「人を殺した」
呼吸を整え手を引くとナイフは簡単に抜けた。
男の胸から血が流れ出し服を、ベッドを濡らす。
思っていたほどのショックは無い。
もっとグチャグチャした感情でも湧き上がるものかと想像していたけれどとてもあっさりとしていてただ人を殺したという感想があるだけ。
気が抜けてベッドに座り込む。
「あっけないもんだな」
せっかく安く譲ってもらった良いナイフの使い道がまず殺人とは皮肉なものである。
もしかして簡単に暗殺者たちを倒せてしまったのもナイフの質が良かったからかもしれない。
「さてと……」
これで終わりでは無い。
まさか死体二つを放置して横で寝るわけにもいかない。
落ち着いてきたためか血の匂いが鼻につき始め、こうしている間にも血の海は広がっていく。
事が終わり妙に冷静になった頭で考える。
最初は荷物を持って逃げてしまおうなんて考えていたが今はその逆をいこうと思っていた。
堂々と死体があると言ってしまうのだ。
もちろん殺したとか暗殺者とか全部本当のことは言わない。
奴らは泥棒。
そして筋書きは泥棒に入られてたまたま上手くそれをやっつけた。
そういうことにしてしまえばよいとショウカイは考えていた。
実際に死体を目の前にすると処理をするのも無理そうであるし隠すのも無理、逃げるのも宿の人に顔を見られすぎているので避けた方がいいだろう。
ならば逆に堂々としてしまうのだ。
堂々としていれば意外と人は疑いを持たないものだ。
「こんな夜更けにお出かけですか?」
部屋を一歩出た瞬間声をかけられて心臓が飛び出すほど驚いた。
声の方を向くとランプを持った若い男性がそこにいた。
ここであまり動揺して不審な態度をとってはいけない。
多少動揺していても状況が状況だけに自然には見えるかもしれないがあくまでも自然に見える範囲でなければいけない。
「あなたは……?」
「これは失礼。私はゲロッカの警備をしておりますルードと申します」
「警備……」
都合が良い、そう思った。
元よりゲロッカの主人のところに行って泥棒が入ったと言うつもりだったけれど警備がいるならそちらの方が手っ取り早い。
「夜間の巡回をしておりました。このようなお時間に何かありましたか?」
「……泥棒が入りまして」
「泥棒⁉︎ それはどういうことですか!」
「今部屋の中に、その、2人倒れてます」
ルードの顔つきが一気に険しいものとなる。
警備として泥棒が入ったとあればただ事ではない。
「私が寝ていると思ったのか油断していたらしくどうにか倒せたのですがどうしたらよいのか……」
内心は冷静に、だけど困惑や恐怖がなければおかしく見えてしまうために出来るだけそう見えるよう装う。
「……お部屋確認してもよろしいですか?」
「はい」
ルードが剣を抜いて部屋の中に入る。
部屋を覗くとルードはすでに倒れた遺体が動かないと見るとフードを取って顔を確認し、首に手を当てて本当に絶命しているかさらに確かめていた。
ゲロッカの従業員ではない見知らぬ顔だと確認して部屋を出たルードの顔は若干青い。
死体を見たからではない。
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