脱出1
長い苦しみから解放されて、二度と開けることはないと思った目を再び開けた時、そこは異世界だった。
「よくぞ呼びかけに応じてくださいました! あなた方4名の勇者様方……4?」
「勇者は4名のはずでは……」
「過去の資料では確かに4名ではある」
「過去に呼び出されたのがたまたま4名だっただけで勇者召喚に決まった数はなかったというのか」
「いったいどういうことなんだ」
飾りも窓もない真っ白な部屋。
ど真ん中に大きな魔法陣が描かれていて、魔法陣を囲むように10名ほどの人が魔法陣の真ん中にいる6人に視線を向けている。
金髪碧眼のややキツそうな顔つきをした女性が一歩前に出て歓迎の意を示すが予想外の事態に戸惑いを隠せない。
その会話から察するにして、本当なら4名のはずなのに6名いるというのが周りにいる人たちからすると予想もし得なかった事件とでも言うべき出来事なのだろう。
これは良く見る小説のやつじゃないかと思ったのも束の間、真っ白なローブを着た高齢の恰幅の良い男性が前に出てきた。
「まあまあシェラン王女様、こんな事態を想定していたわけでありませんがこのようなことのために私がいるのです」
「そうですね、皆様、これからこちらのサヴォイ神父が皆様を簡易鑑定いたします。
体に害があるものではなく、これにより皆様の、神により与えられた職業が分かります」
「それでは1人ずつ前に」
前にとは言われても各々顔も知らない初対面。
シェランと呼ばれた人もサヴォイと呼ばれた人も誰と指定するわけでもない。
だからそれぞれお互いに視線を交わしたまま誰も動かない。
明らかに周りを囲う人間と囲われる人間は違う。
まだ敵味方に分類はできないがあえて分類するなら囲われているほうが仲間に見える。
そこから1人前に出ろと言われてもはばかられてしまう。
「じゃあ僕が行こう」
そう言って金髪のイケメンが手を上げてサヴォイの前に歩み出た。
すらっとした長身で整った顔立ちの爽やかなイケメン。
サヴォイの指示で片膝をついたイケメンの頭にサヴォイが手をかざす。
これは卑怯だ。
誰がどう見てもいわゆる主人公オーラというやつが溢れ一枚の絵のような雰囲気を醸し出している。
サヴォイが何かをつぶやくと手がポワッと淡く光り、満足したようにニヤリと笑みを浮かべた。
「冬木真。職業剣聖、称号召喚されし勇者!」
やや不安そうに見つめるシェランに目で返事をしたサヴォイが声高に告げた鑑定の結果に歓声が上がる。
簡易鑑定とやらは職業というものも分かるらしく、ついでに勇者かどうかも分かるようである。
しかも剣聖とやら、正確には何なのかよく分かっていないけどとても凄そうなのな確かであり、その後に続いてざわつきは鑑定の間ずっと収まらない。
聖女、サモナー、錬金術師、聖騎士、賢者。
職業は異なっているが結局6人全員が全員が召喚されし勇者という称号を持っていてサヴォイの声も5人目から明らかに動揺したものになっていた。
「よくぞ私たちの呼びかけに応じてくださいました、勇者様」
呼び出された勇者たちはともかく周りまで混乱してしまい収集がつかなくなってしまった気まずい空気を切り裂いてシェランがとりあえず先へと進める。
当初の予定と違っていることはさておいて本来の流れ通りに進めてしまおうというのだ。
動揺はさておきシェランが状況を説明しだした。
鑑定云々よりもそれが先ではないのかと思ったり、立ったままではなくもっと落ち着いた場所で説明してくれてもいいのではないかと思ったりもしないわけでもない。
まずこの状況がなんであるのかというと、魔法陣の中にいる6人は勇者召喚という特別な魔法で呼び出された人たちで、それを囲っているのが呼び出した人たちである。
呼び出された国はユニシア王国というそこそこ規模の大きく自然豊かで経済的にもそれなりに発展した国である。
そのユニシア王国の代表として勇者召喚を行ったのがシェランであり、シェラン王女は正真正銘のユニシア王国の王様の娘、王女様で間違いない。
隣国は魔王を王とする国で長いこと平和にやってきたのだがある時に魔王が侵略を開始して領土に攻めてきた。
もちろん兵を挙げて抵抗をしていたが戦争の最中に王様が怪我を負ってしまい状況が悪くなってしまったことから代々伝えられてきた勇者召喚を敢行することにした。
というのが話のあらましでいかにもありがちなストーリー。
「もちろん俺にできることならやらせてください」
ザ・主人公オーラ剣聖イケメンのマコトが真っ先に答える。
他の勇者たちは困惑しきりであるにもかかわらず、だ。
理解が早いのはいいことかもしれないが表面をなぞっただけのような説明で勝手に代表者面されて快諾されても困る。
「あ、あの! 私たちは元の世界に戻れるのですか?」
瀬名雪子とか呼ばれていた錬金術師の女の子がおずおずと手を上げながら質問した。
活発タイプの学級委員長みたいな見た目の子でこういう場面でもちゃんと言葉を言える度胸があるようだ。
当然の疑問だと思うのだけれどマコトはいきなり正義感に溢れて帰れるだろうかなんて頭からすっぽり抜け落ちていた。
ユキコの質問にマコトもはっとしたようにシェランを見る。
「その質問につき、私はお答えする権限がございません」
氷のような冷たい視線をユキコに向けてシェランが答える。
どうにもマコトとユキコでは態度が違って見える。
明確に甘いわけでもないけれどマコトに対して少し目つきが柔らかく見える。
「ひとまず細かい説明は他の者がいたします。勇者様方を案内しなさい」
ーーーーー
この世界に来て一月。
長いようで短い時間。
現在起きている時間の多くを戦うための訓練に費やしていた。
剣術は剣聖と聖騎士、魔法は賢者と聖女がよく伸びている。
一方でサモナーと錬金術師は悪いとまでいかないのかもしれないが他の4者に比べてしまえば優秀とはどうしても言えない。
その4人に向けられるのと違う視線、なんとなく感じ始めていた不穏な空気。
それが明確になりつつあった。
「くぁ……」
何度目を覚しても元の世界には戻っていない。いまだにこれが夢の続きのような感覚が抜けない。
目を覚ますとそこは病室で、なんて恐怖がある。
上半身を起こすとと1人で使うにはやや広いといえる部屋が目に入る。
明らかに病室ではなくほっと胸をなでおろす。
電気で夜通し明るく出来た以前とは違い、この世界では基本日が沈めば眠り夜が明ければ起きるのが普通である。
そんな生活を一月も続ければ自然と身体も慣れてくるもので窓の外を見てみれば日が昇ったばかりであり、体が自然とそのぐらいの時間に起きてしまうようになった。
ベッド横のテーブルに用意してある桶に水属性の魔法で水を張り、火属性の魔法で少し温める。
自分で張った水でバシャバシャと顔を洗い、タオルで顔を拭いてサッパリしたところでもう1度ベッドに横になる。
こうした水も来た当初はメイドさんが用意していてくれたものなのだけれどいつの間にか自分で用意するようになっていた。
他の勇者は未だメイドさんが用意していてくれるらしいのだけれど気づいたら放っておかれていた。
楠木匠海は深いため息をついた。こうなった原因は分かっている。
自分のサモナーという与えられし職業がため。
そもそもヒソヒソと周りがしている噂で何となく分かっていた。
ついこの間の自由時間に図書室に赴いて職業図鑑なる分厚い本を読んでみて驚いた。
見知らぬ文字が読めることもそうであったし何しろサモナーのページの少なさにだ。
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