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夏詩の旅人

決戦のエッグメン! (夏詩の旅人 「風に吹かれて…篇」4話)

作者: Tanaka-KOZO

東京 表参道 青山病院


AM1:46


「ふぅ~…、心配させやがってぇ…」

病室のベッドに身体を起こしているタカに向かって、彼が安堵の声を出す。


「ヤマギシは大げさなんだよ…(苦笑)」

ベッドの脇に立つヤマギシあゆみに、ギプスに巻かれた左腕を吊っっているタカが言った。


「だって…、だって…」

そう言うヤマギシの隣には、彼女のカレシ、ミッチーが立っていた。


「しかしさすがだな…、車でぶつけられて、左腕の骨折だけで済むなんて…(苦笑)」(彼)


「ラグビーやってましたからね…。元々、衝撃には強いのもあるし、とっさにタックルの要領で、横っ飛びして、かわしましたよ(笑)」(タカ)


「それでも大したもんだ…。とにかく命に別状はなくて良かった…」(彼)


「腕の骨折だけだから、明日には退院できますよ…」(タカ)


「そうか…。ところでヤマギシ…、タカをやったやつらはどうなった?」

タカに向けていた視線を、ヤマギシに向けた彼が聞く。


「分からない…、動揺してたから…」(ヤマギシ)


「あいつらは、クリヤを抱えて逃げて行きました…」(ミッチー)


「そうか…」と、ミッチーに言う彼。


「あいつも無事で済まないでしょうよ…(笑)、俺のパンチを顔面に何パツも喰らったんだから…、まぁ、顔面骨折は免れねぇはずっス…」


「これで、あいつらの戦力がまた減りましたよ…。あとは、池田ジンだけです、こーさん(笑)」


ベッドから身体を起こしているタカが、彼にそう言った。


「こーさん…」

するとヤマギシが彼に言う。


「何だ?」と、ヤマギシあゆみに振り返る彼。


「こんな時に言うのもなんだけど…、やつらは来週のエッグメンで、ベルサイユ・ローゼスを襲撃するみたいよ」(ヤマギシ)


「マサシとハチのライブかッ!?…、やはりバウンスの記事を見たんだな…」(彼)


「こーさん、どうします?」(タカ)


「俺は行く…、そこでやつらと決着させる…」(彼)


「無理だよッ!、タカさんがこんな状態なのにッ!」(ヤマギシ)


「タカは連れてかない…、俺だけで行く」(彼)


「自殺行為だよッ!」

ヤマギシがそう言うと、ベッドのタカが、突然ボソッと言った。


「俺は行く…」(タカ)


「タカ…、片腕じゃ無理だ…、お前は来るな」(彼)


「行くよッ!(怒)」

そう言って彼を睨みつけるタカ。

彼は神妙な顔をして、タカを無言で見つめる。


「私も行くッ!」(ヤマギシ)


「お前、何言ってる…?」

彼が驚き、ヤマギシに向かって言った。


「俺も行きますッ!…、元はと言えば、俺のせいでタカさんが…」(ミッチー)


「あんたのせいじゃねぇよ…、悪いのはサドンデスだ」

ミッチーに彼が言う。


「俺も行くッ!…、カノジョが行くって言ってて、俺だけが、おとなしくなんて、してらんないよッ!」(ミッチー)


「カノジョを止めないのか…?」(彼)


「こうなっちゃったら、俺が言ったって聞きやしませんよ、こいつは…」

そう言ってミッチーは、ヤマギシを指して苦笑いした。


「ふむ~~……」


彼がそう言って考え込む。

みんなが彼を見つめている。


「分かった…。俺に作戦がある…。それに協力してくれ…」

沈黙後、彼が口を開いて言った。


「作戦…?」(一同、口を揃えて言う)


「ああ…、そうだ作戦だ…」(彼)


「どうするの…?」(ヤマギシ)


「恐らく当日のライブは、俺とやつらの乱闘になるだろう…」

「そうなったら、タカにはエッグメンのエントランスを封鎖しておいて欲しい…」


彼がそう言うと、タカが「俺も戦うよッ!」と怒鳴った。


「聞いてくれタカ…、この封鎖は重要な役割なんだ。これが上手くいくかどうかで、状況は一変する」(彼)


「重要…?」(タカ)


「ああ…、乱闘になればエントランスに、数百人もの観客が一斉に大挙するはずだ。それをタカには抑えていて欲しい」


「そして、乱闘の知らせを受けた警察が、エッグメンに現れるギリギリまで、エントランスを封鎖しておくんだ」

彼がそう言うと、タカが「なぜ?」と聞く。


「俺がそこへ戻って来たタイミングでドアを開放する!、俺たちは数百人の観客たちと一斉に、どさくさに紛れて、そこから逃げるんだ」

「そのタイミングを間違うと、俺たちまで警察にパクられちまうからな…(苦笑)」


「だから到着した警察が、入口を開けろと言ってきても絶対に開けるな。俺が戻るまで待っててくれ!」

「いいかタカ…、これは重要な役目なんだ。今のタカなら、喧嘩に参加するよりも、その方が遥かに役に立つ…!」


彼がタカにそう言うと、タカは不承不承と納得した様な表情をした。


「だからミッチーも、タカと一緒にエントランスを守ってくれ…。数百人の観客を足止めさせておくのに、怪我を負ったタカ1人じゃ無理だからな…」

彼がそう言うと、ミッチーが無言で頷いた。


「それからヤマギシ…、お前は、警察に電話だ…」

今度はヤマギシに振り返り、彼が言う。


「電話…?」(ヤマギシ)


「そうだ…。この計画はタイミングが重要だ」

「お前は、当日、俺たちがエッグメンに入るのを確認したら、その30分後に渋谷警察に電話して知らせるんだ」


そう言うと、ヤマギシが「30分後…?」と彼に聞く。


「そうだ30分後だ…。それまでに、俺がやつらを殲滅させておく…」(彼)


「そんな上手くいくの?、だって相手は多数なのよ!」(ヤマギシ)


「その辺も、ちゃあんと考えてある…」

彼はそう言うとニヤリと微笑むのであった。



 その日の午後。

彼は大学の軽音サークル部室で、ギタリストのカズとジュンに、サドンデスが週末のエッグメンで、マサシとハチのバンドを襲撃するという情報を伝えていた。


「お前、マサシとハチを、ホントに助けに行くつもりなのか?、あいつらは俺たちを裏切ったんだぜ」

机の上に座っているカズが言った。


「別にあいつらの事だけで、エッグメンに行くワケじゃない…。サドンデスのバンド狩りのせいで、今や都内のライブハウスは、出演者も客も集められなくなって来ている」


「このままじゃ、ライブハウスは消えて行っちまう…、俺は誰もが安心して音楽を楽しめる東京に、早く戻したい…、そしてマリノの様な人を、これ以上増やしたくないんだ」


「その為には、お前の協力がいる!、お前の正確な射撃が、どうしても必要なんだ!」


彼は、カズを力強い眼差しで見つめながら、そう言うのだった。


※カズはサバイバルゲームの名手で、エアガンの早打ちと、正確な射撃に自信を持っていた。


「分かった行こう…、手を貸すぜ…」(カズ)


「私も行くッ!」

その時、歌手デビューを控えている高校生の櫻井ジュンコも言った。


「ジュン…、お前は来るな…。お前はデビュー前の大事な時だろ…」(彼)


「デビューするかどうかは、まだ決めてないわ!」

ジュンが彼を睨みながら言う。


「お前が来たところで何が出来る?」(彼)


「私にだって、何か出来る事があるはずよッ!」(ジュン)


「ダメだ!」(ジュン)


「じゃあ私、もうデビューなんてしないッ!…、それなら良いでしょッ!?」(ジュン)


「いいかげんにしろ…」(彼)


「あなたが無事に戻って来ない限り、私はデビューなんかしないわッ!」(ジュン)


「ったく!…、好きにしろ!」

ため息交じりにそう言った彼の言葉に、顔が晴れやかになるジュン。


「だがな…、危ないから離れていろ。お前は安全な場所にいるんだぞ!」

そう言って念を押す彼に、ジュンは「わかった」と言うのであった。


「なぁ…、やつらの襲撃は、何時頃から始まるんだ?」

今度はカズが彼に言う。


「ヤマギシの情報だと、やつらは必ずライブが始まってから2曲目辺りにバンド狩りを実行するらしい…、だからライブ開始が午後4時だから、その15分後くらいが目安かな…?」(彼)


「なんで2曲目からなんだ?」(カズ)


「分からん…?、恐らくは、当初、やつらがバンド狩りを始めた切っ掛けは、ステージを乗っ取り、自分たちの演奏を客の前でやるのが目的だったろ?、たぶんそれの名残じゃないかな…?」

そう説明した彼にカズは、「ほぉ…」と、頷いた。


「それまでは客に成りすまして、大人しくライブ観戦をしてるみたいだな…」(彼)


「じゃあ俺たちは、やつらより先に会場入りして、迎え撃つ準備をしておこう!」(カズ)


「そのつもりだ…。カズ…、当日は3時に宮下公園に集合する。遅れンなよ!」(彼)


「分かった!、エアガン2丁と、BB弾をたんまり用意して行くぜ!」(カズ)


「頼んだぞ…」

カズにそう言った彼を、ジュンは不安な表情で見つめるのであった。



 そして数日後、ついに運命の日がやって来た。


1987年7月の第2土曜日、午後3時

渋谷 宮下公園


「お~!、待ったかぁ~!」


カズが遠くから、ジュンと一緒に小走りで向かって来る。

ジュンは学校を途中で抜け出して来たのか?、制服姿のままであった。


「これで全員か…?」

木刀の入った竹刀袋を肩に掛けた彼がそう言うと、集まったメンバーは無言で頷いた。


この日に集結したメンバーは、彼を入れて全部で7名だった。


ギタリストのカズは、エアガン2丁を所持し、彼の後ろから援護射撃をする。


エントランス封鎖担当は、金髪ソフトモヒカンのタカと、ヤマギシのカレシのミッチー。


警察への連絡担当は、ヤマギシあゆみ、それと担当がまだ決まっていない、ロン毛テコンドーのヤスと、高校生の櫻井ジュンコだ。



「よし!、行くぞ!」

彼がそう言うと、一行はエッグメンのあるNHK方面へと歩き出した。



ライブハウス「エッグメン」の近くまで来た一行。

その時、ヤマギシあゆみが、彼に言った。


「こーさん、待ってッ!」(ヤマギシ)


「どうした?」と、ヤマギシに聞く彼。


「ほら…、あそこ…、サドンデスが…」

そう言ってヤマギシが指す方には、サドンデスが既に会場前へ現れている姿があった。


「ヤロウ…、随分と早いじゃねぇか…」

彼が鋭い眼光で、会場入口の周辺で、たむろしているサドンデスを遠くから見つめる。


「でけぇッ!、あれが池田ジンか!?」

ロン毛のヤスが、中でもひときわ目立つ大男を指差して言った。


(マズイ…ッ!、あんなバケモノが相手じゃ、こーさんでも一溜まりもねぇ…、てか…、俺とヤスと、3人掛かりでも無理だ…ッ!)

タカは、池田ジンを眺めながらそう思う。


「やつらは、ライブが開始してから現れるんじゃなかったのか?」(カズ)


「あれを見て…、あれがやつらの目的よ!」

そう言ったヤマギシの指す方を見る一同。


「ははぁん…、そういう事かぁ…」(納得する彼)


「何だよ?」と、彼に尋ねるカズ。


「あれを見てみろ…、やつらは会場にやって来た観客たちを脅してチケットを奪ってるんだよ」

彼が言った通り、確かにやつらは観客と思われる人々から、チケットを奪っている姿が見えた。


「何の為にですか?」とヤスが彼に聞く。


「俺、ずっと不思議に思ってたんだよ…。バンド狩りに現れるやつらが、一体どうやって会場に潜り込んでいたのかをさ…」(彼)


「あ!、そういう事かぁ!?、金払わないで会場に入れば、その時点で警察に通報されて捕まっちゃうから、バンド狩りが出来ないと!?」(ヤス)


「ナルホド!…、客から奪ったチケットで入場してたんだ!」(カズ)


「確かに、バンド狩りをやる度に、いちいち金払ってちゃぁ、割に合わねぇからな…」(彼)


「セコイ野郎だ!」(ヤス)


「ねぇ…、サドンデスの中にいる、あのピエロの集団は何ッ!?」

その時、異変に気付いたジュンが、やつらを指して言った。


「……ッ!、ジョーカーだ…ッ!」

ヤマギシのカレのミッチーが、それを見て怯えながら突然言う。


「ジョーカー??」

一同が聞き返す。


「なんで…!?、なんでやつらもここにいるんだ…ッ!?」(ミッチー)


「おいミッチー、なんだジョーカーって…?」(彼)


「名古屋のパンクバンドです…。東京のサドンデスと同じ様な事をしてる、極悪バンドだと言えば分かりますか…?」(ミッチー)


「間違いないのか?」(彼)


「間違いありません…。だって俺のバンドが以前、名古屋へ行った時に襲撃されて、そのライブが中止になった事あったから、忘れませんよ…」(ミッチー)


「無事だったのか?、そん時は…?」(彼)


「まだ出番前だったから、楽器持って一目散に逃げましたから…。やつらは恐ろしいグループです。サドンデスに、とんだ助っ人が参入したという事です…」


そう言ったミッチーの言葉を神妙な顔で聞く彼。


(くそう…ッ!、俺が腕を骨折してなきゃ…ッ!、どうすんだよ!、こーさん!、あんた大ピンチじゃねぇか…ッ!)

無言のタカが、心の中でそう呟く。


「ヤマギシ…、計画時間の変更だ。俺たちが入ってから30分後に、警察に電話しろと俺は言ってたが、やつらが先に会場入りしたら、その時間帯が読めん!」(彼)


「やつらが暴れ出してから、警察に電話する役のヤマギシに、それを伝える手段が無いと…?」(タカ)


「くそう…ッ!、こんなとき、トランシーバーでもあったらなぁ…」(彼)

※ケータイ電話が、まだ普及してない時代でした。


「俺が、あゆに知らせます!」

その時、ヤマギシのカレシのミッチーが言った。


「そうか…、エントランスの封鎖担当のミッチーなら、逃げ出して来た客の動きで、乱闘が始まったか分かるというワケかぁ♪」

彼がそう言うと、ミッチーは、「はい!」と険しい表情で頷く。


「よし!、ヤマギシは、エッグメンの近くで待機してろ!、場所はミッチーと決めておいてくれ!、ミッチーが乱闘開始を知らせに来たら、それから…、そうだなぁ…?、20分!、20分後に、渋谷警察に電話してくれ!」(彼)


「分かったわ!」(ヤマギシ)


「ヤス…、そうなると数百人の観客を、怪我を負ったタカ1人で抑えとくのは無理だ。ヤスもエントランスで封鎖の担当に入ってくれ!」(彼)


「え?…、でもそれじゃ、こーさん1人で、サドンデスとピエロの、相手しなきゃなんないスかぁ…?」(ヤス)


「俺は大丈夫だ…。それよりも最後に、エントランスを開けるタイミングの方が重要だ!、頼んだぞヤスッ!」(彼)


「はぁ…」と頷くヤスは『大丈夫なのかなぁ…?』と、不安に思う。


(こーさん…、さてはあんた、俺たちだけ逃がして、自分はやつら諸共、捕まるつもりなんじゃ…?)

タカは彼の真意を、そう受け止めるのであった。



 PM3:40


「よし!、あいつらがエッグメンに入った!、俺たちも入るぞ!」


サドンデスとジョーカーが入場して行く姿を見届けた彼が、みんなに言う。

そして全員が、エッグメンへと入って行く。


「気をつけてね…」

ヤマギシが、最後尾にいたカレシのミッチーに言った。


「うん…」

ミッチーはそう言って頷くと、エッグメンに入り、地下階段を降りて行った。



エッグメンのフロント


「すまない…、責任者と内線でつないでくれ…」

受付の女性に彼が言う。


「え?」と女性。


「早くしてくれ!、時間がないんだ!」

彼がそう言うと、女性は、「は…、はい!」と言って、急いで内線を掛けた。



「何だい君らは…?」

しばらくすると、責任者の男性が現れた。


「今日、ここでベルサイユ・ローゼスの襲撃が行われる…」


彼がそう言うと、責任者は「え!?」と、驚いた。


「ホントなのか…?」(神妙な顔つきの責任者)


「本当だ…。今、サドンデスとジョーカーが入場して行った」

彼がそう言うと、責任者は考える様に黙り込む。


「信じてくれ、こんな事、嘘ついたって何の得にもならん!」(彼)


「じゃあ、警察に…」(責任者)


「チケットを持ったやつらを、どうやって捕まえる!?、やつらが暴れ出してからじゃないと警察は動かない!、でも、それじゃ遅いんだ!、警察が現れる頃には、もうやつらの目的は果たされちまうんだ!」


彼がそう言うと責任者は、また黙ってしまった。


「あんただって、サドンデスのせいで散々泣かされて来たんだろ…?、でも、やつらの報復を恐れて、今まで何も出来なかったんじゃないのか!?」


「俺たちに協力してくれ…!、俺がやつらを全員、警察に明け渡す!、今日でこんな事は終わりにしたいんだ!」


彼がそう言うと責任者は、「なぜ君は、そんな事をするんだい…?」と聞いた。


「俺の大事なひとが、やつらに店を潰された…。それは、そのひとの夢だったんだ…」


「だからこれ以上、そういう犠牲者を出したくない…、誰もが平穏に音楽を楽しめる、そういう以前の街を取り戻したいんだ…ッ!」


責任者の目を見つめ、彼が言った。


「分かった…。君たちを信じよう…」(責任者)


「ありがとう!」(笑顔の彼)


「さあ…、中に入ってくれ…」

責任者がそう言うと、彼らはゾロゾロと通路に向かって歩き出すのであった。



 PM3:58

エッグメン内のオフィス


「それで、君はどうするつもりなんだい…?」

オフィスに戻った責任者が、彼に聞く。


「やつらがバンド狩りを始めると同時に、出入口を封鎖する。そしてその後、たぶん30分程で渋谷警察がやってくる」


「俺はやつらを会場に引き付けておくから、そのタイミングで警察に突入させて、やつらは全員、現行犯逮捕だ」


彼がそう言うと、責任者が「観客は?」と聞いた。


「エントランスを封鎖するから、警察の突入まで、そのまま出口の前で待機していて欲しい…」(彼)


「そんな事できないよ!」(責任者)


「あんたがやるんじゃない!、封鎖するのは、俺たちが勝手にやってるんだ!」(彼)


「え?」(責任者)


「俺たちが勝手にやった事にすればよい!、そうしなければ、やつらに逃げられるかも知れないし、俺に協力してくれた仲間たちも捕まってしまう!」


「だから警察を入れると同時に、観客を逃がせば、そのどさくさで、俺たちはここから逃げる事ができる」


「頼む…、協力してくれ…」


彼がそう言うと、責任者はタメ息をついて、「分かったよ…」と、諦め顔をしながら微笑んだ。


「ありがとう…。じゃあ早速なんだがオーナー、ここのステージの見取り図はあるかい?」(彼)


「見取り図…?、ちょっと待っててな…」

責任者はそう言うと椅子から立ち上がり、後ろの棚を漁り出す。


「これで良いかな…?」

見取り図を用意した責任者が、机の上でそれを広げた。



「なるほど…、中はこうなってるのか…」

彼は見取り図を眺めながら、脱出ルートを考える。


「ん?」

その時、見取り図から顔を上げた彼が、オフィスの隅に立て掛けてある、大きなブリキのタライに気が付いた。


「あれは何だ?」と彼が責任者に聞く。


「あ、あれ?、いやぁ…、実は最近息子が生まれてね…、それで僕の自宅がエッグメンから近いもんだから、たまにこの辺の銭湯え息子を連れて行くんだよ(笑)」


「まだ赤ん坊だから、銭湯の熱い湯に入れないから、ああいうタライに、少し冷ましたお湯を入れて赤ん坊を風呂に入れるのさ…」


責任者がそう言うと、彼は少し考えてから、何かをひらめくのであった。


「オーナー!、あのタライを貸してくれないか?」(彼)


「え?、タライを…?、まぁ構わないけど…」(責任者)


「それから、ステージの照明の配置を記した見取り図はないかい?」(彼)


「照明の配置図をかい…?、これがそうだけど…」

そう言って、照明の見取り図を広げるオーナー。


「これ、電球が切れた場合、どうやって交換してるのかな…?」(彼)


「工事会社の人を呼んで、やってもらってるよ」(責任者)


「どこから?」(彼)


「ここから脚立で登って、このバーを伝わって電球交換してたね…」

見取り図を指で差しながら、責任者が彼に説明する。


「つまり、ステージの真上まで、ここを伝ってけば行けるワケだ!?」(彼)


「まぁ…、そう言う事になるね…」(責任者)


「よし!、ジュン!、お前の仕事が出来たぞ!」

彼がジュンに振り向いて言った。


「何?」とジュン。


「ジュンは、あのタライを持って、この天井のバーを伝って、ステージの中央まで移動してくれ」

「ステージ中央の真上にある、この「5M」と書かれた照明の場所まで移動するんだ!」


彼が見取り図を見せながらジュンに説明をすると、彼女は「ええッ!!」と、驚くのだった。


「その場所からジュンは、あのタライをやつらの頭目がけて落とすんだ!、ほら、よくドリフのコントでやってるだろ!?、あれだ!(笑)」


「俺がやつらをステージ中央までおびき寄せる、そして俺が合図したら、ジュンはタライを上から落とすんだ!」


彼がそう言うと、「そんなんで、相手を倒せるワケないじゃないッ!?」とジュンが怒鳴る。


「タライで仕留めるつもりはない…、俺の木刀で仕留める為に、タライを落とす。タライの衝撃で隙が出た相手を、俺が木刀で仕留めるんだ!」(彼)


「いッ…、嫌よッ!」(ジュン)


「どうしたジュン…、俺に協力してくれるんだろ?、それに下は乱闘が起これば危険だが、上にいれば安全だ…。分かってくれ、君を危険な目に合わせたくないんだ」

ジュンに微笑みながら彼が言う。


「ゼッタイ嘘ッ!、私の心配なんてしてないくせにッ!」(ジュン)


「嘘なもんか…、君の事が心配なんだ…(笑顔)」(彼)


「嘘よッ!、だってカズの目が笑ってるもんッ!」

そう言ったジュンの指摘通り、彼が振り返ると、後ろに立つカズの目が泳いでいた。


「ああッ、もうッ!、なんで嫌なんだよッ!?」(彼)


「だって私、スカートなんだよッ!、パンツ見えちゃうじゃないッ!?」(ジュン)


「お前、なんでこんな時に、短いスカート穿いてくんだよッ!」(彼)


「しょうがないじゃない、制服なんだからぁッ!、学校を途中で抜けて来たんだからぁッ!」(ジュン)


「大丈夫だ…。お前のパンツなんて誰も見やしねぇよ…」(彼)


「何よ!、バカにしてッ!」(ジュン)


「ジュン…、大丈夫だ。俺たちは今、そんな余裕なんか無いから安心しろ…」← (嘘、見る気満々!)

ギタリストのカズが、微笑んでジュンに言う。


「そうだよジュンちゃん…、俺たちはそんな事しないよ…」← (嘘、チャンスだと思っている!)

ロン毛のヤスも、穏やかな表情でジュンに言う。


「ならもう良い…、俺がやつらに殺されて良いんなら登らなきゃ良い…」(彼)


「な…ッ、何よぉ~ッ!、分かったわよッ!、登ればいいんでしょッ、登ればぁッ!」


ジュンがそう言うと、後ろにいたカズとヤスが小さくガッツポーズをした。(※無表情で)



PM4:15


「これで良し…!」

ジュンの身体にタライを結わえ付けた彼が言う。


「これじゃ、まるで亀仙人ねッ!」

背中にタライを背負ったジュンが、ふて腐れ気味に言った。


「じゃあ早速準備に取り掛かってくれ!、俺はステージがどうなってるか、ちょっと見て来る…」


彼がそう言ってステージの方へ小走りで向かうと、ジュンはオーナーが用意した脚立を登り始めた。


「しっかり押さえててねカズッ!」

天井に向かって登るジュンが、ギターのカズに脚立が揺れない様に指示をする。


「分かったぁ~!、しっかり押さえてるから大丈夫だぁ~!」

脚立を上がるジュンを見上げながらカズが言う。


「ちょっとぉッ!、カズッ!、あたしのスカートの中、覗いてないッ!?」

片手でスカートを押さえたジュンがカズに言う。


「お前、こんな時に何言ってんだぁ~!、大丈夫だぁ~!、暗くてなぁんにも見えん!」←(嘘、ばっちり見えている)

脚立を押さえながら、カズが上にいるジュンに真顔で言う。


「ホントに見えてなぁいッ!?」(ジュン)


「ああ、大丈夫だぁ~!、全然見えないぞぉ~!」とカズ。←(嘘、早くスカートを押さえた手をどけろと思っている)


「ジュンちゃぁ~ん!、大丈夫~?」←(どさくさに紛れて、こいつも覗きに来た)

ロン毛のヤスが、真顔でジュンを心配そうに見上げる。


「大丈夫~!、もうバーの上に登ったから、脚立外して良いよ~!」

ジュンが下にいる2人に言った。


「カズさん…、ジュンちゃんは高校生のくせに、黒いパンティを穿いてるんですね…?」(隣に立っているカズにヤスが言う)


「違うよヤスくん…、あれは、ブルマだよ」(カズ)


「なぁんだ!、ブルマですかぁ~(笑)」(ヤス)


「あのヤロウ、見られない様にガードしやがった…(苦笑)」(カズ)


「でも…、これがホントのブルセラですね?(笑)」(ヤス)


「確かに…!(笑)」(カズ)


はははは……!(笑う2人)


「おまぇらッ、やっぱ見てんじゃんかぁッ!」

上にいるジュンが、下で笑っている2人を怒鳴るのであった。



「どうでした?」

ステージの様子を見て戻って来た彼に、金髪ソフトモヒカンのタカが聞く。


「マズイ…、もうサドンデスはステージに上がってる!、急がねぇと!」

彼がそう言うと、後ろから通路を走って来る1人の男が見えた。


「ひぇぇぇ~~~~ッ!」

そう言いながら、彼とタカの目の前を通過する、虎刈り頭の男。


「何ですかありゃ?」(タカが彼に聞く)


「あれは、ベルサイユ・ローゼスのギターだ。やつらに坊主にされたんだ」

彼がタカに言う。


「よし!、カズ行くぞ!」(彼)


「おう!」(カズ)


「ジュン!、頼んだぞ!」

天井に登っているジュンを見上げて、彼が言う。


「分かったわ!…、ねぇ…、こーくん…」(ジュン)


「ん?」

顔を上げ、ジュンを見つめる彼。


「これが終わったら、海に連れてって…」

「この前、高野に付き合ってくれた時に買った水着、持ってくから…」

穏やかな表情でジュンが言う。


「分かった…」

彼が微笑んで言う。


「約束よ…」

ジュンは下にいる彼にそう言うと、四つん這いでバーを伝って進みだした。


(うわッ!、高い…、怖い…、でもッ!、でもッ、私がやらなきゃぁ…、私があの人を守らなきゃぁ…)


ジュンはそう思いつつ、天井のバーを伝って進むのであった。



「タカ、ヤス…、それとミッチー、もうエントランスに向かってくれ」

続いて、彼が3人に指示すると、ヤスが「うす…」と頷いた。


「こーさん…」

その時、左腕を骨折で吊っているタカが、彼に言う。


「なんだ…?」(彼)


「俺は絶対にエントランスを開けねぇ!、約束するッ、死んでもあそこを守り抜くッ!、だからあんたも約束してくれ…、必ず生きて戻って来ると…ッ!」

タカが彼を睨んで言う。


「タカ…、そんな心配すん…」(彼)


「約束してくれッ!」


彼の言葉をさえぎって、タカが彼を睨んで言う。

その表情を彼は黙って見つめる。


「分かった…。必ず戻る…。約束するよ…」

彼がそう言うと、タカは無言で頷き、エントランスへと走り出した。


「あ!、タカさぁんッ!、待って下さいよぉ~!」

ロン毛でガタイの良いヤスが、そう言ってタカの後を追って走り出す。


「どうか、ご無事で…」

ミッチーが彼にそう言って一礼すると、ミッチーもまた走り出した。

その後ろ姿を無言で見つめる彼。


「よし!、俺たちも行こう!」


隣に立つギターのカズに、彼は振り向いてそう言うと、ステージの方へと歩き出した。



 さて、ここでステージに立つ、マサシとハチは、どうなったのか!?

時間を遡って見てみよう。


PM4:15

エッグメンのライブ会場


ステージに立つ、ベルサイユ・ローゼスのメンバー。

彼らの1曲目の演奏が終わった。


キャ~~ッ!、マーシー!(※マサシだから)


きゃぁ~~~!、ポール~~~!(※ハチの本名が、牧 八郎だから)


キャァ~~ッ!、テリ~~~~ッ!(※新加入のギタリストが照井だから)


「みんなぁ~ッ!、どうもアリガトーッ!」

ベース&ボーカルのマサシが、観客に手を振って応える。


「今日はねーッ!、みんなにお知らせがありまぁ~す!」

笑顔のマサシが観客にそう言うと、観客が黄色い声で叫び出す。


「キャァーー♪、なに!?、なにぃぃ~~ッ!?」(女性客)


「実はねぇー!、タワレコのオリジナルレーベルと専属契約をしましたぁ~!(笑)」(マサシ)


キャ~~ッ!、マーシー!(※マサシだから)


「それでシングルCDを出しますッ!、タワレコ限定販売だけど、晴れて全国デビューとなりましたぁ~♪」(マサシ)


キャ~~ッ!、キャ~~ッ!、マーシィィー!(※マサシだから)


「曲のタイトルも決まりましたぁ~ッ!、タイトルは“月下に照らされた麗しき赤い薔薇”でぇ~~すッ!」


笑顔のマサシはそう言うと、左腕に彫った、赤い薔薇のタトゥーを観客たちに見せるのであった。


キャ~~ッ!、キャ~~ッ!、キャ~~ッ!、マーシィィー!(※マサシだから)


女性客の悶え苦しむかの様な、張り叫ぶ声が会場に鳴り響く。


「ハチ…、見ろよ。あの観客の盛り上がり様…(笑)」

ドラムのハチに笑顔のマサシが言う。


マサシの言葉に、ハチは「そうだな…(笑)」と笑顔で言った。

その時、ギターのテリーが2人に言う。


「マーシー!、あれッ!」


テリーがそう言って指した方からは、ガラの悪そうなパンクスが、ステージに向かってゆっくりと近づいて来る。


「お~!、すげぇ、すげぇ…、大盛り上がりだな?、ベルサイユ・ローゼスさんよぉ…」


巨体の池田ジンはそう言いながら、ステージの前まで仲間と共にやって来た。

それと同時に、さっきまであんなに盛り上がっていた会場が、しんと静まり返る。


「君らは誰…?」(恐る恐る尋ねるマサシ)


「ジョーカーだぎゃぁッ!」(サジ)

道化師集団の中央に立つ男が言う。


「サドンデスだぁッ!、バンド狩りに来たぜぇぇぇッッ!」(池田)

そして池田ジンも、マサシたちに大声で叫んだ。


「お前らだろ…?、バウンスでバンド狩りするダセェやつらなんか、空手で倒してやるとか、ほざいてたのはよ?」

タワレコが出している音楽雑誌、“バウンス”を振りかざしながら、池田ジンが言う。


(うわぁぁ…、ホントに現れやがったぁ…)

顔面蒼白になったマサシが、うつむき加減でそう思った。


「見せてくれよ…、その空手とやらをよ…」

ジョーカーのメンバーの1人、イソメが、ステージに上がってマサシに言う。


(ここは、ハッタリかまして乗り切るしかないッ!)

そう思ったマサシは、イソメに言った。


「俺に近づくな…、血を見る事になんぜ…」

マサシがイソメを睨んで言う。


「ほぉ…」(イソメ)


「俺は空手をやっている…、悪い事は言わな…、うッ!」


ドスッ!


マサシが言いかけてる途中で、イソメはマサシにボディーブローを打った!


「や…、やめろ!、お前ら血を見るぞ!…、うぐッ!、うあッ!」

そう言ってるマサシへ、イソメは容赦なくボディーブローを打ち続ける!


「頼むッ!、やめてくれぇぇ!、俺にお前らの血を見させないでくれぇッ!…、うげぇッ!、あがぁッ!」

棒立ちのマサシが、イソメから連打を喰らい続ける。


「てめぇ…、ハッタリかぁ…?、見せてくれよ、お前らの空手をよぉ…」

腹を押さえてうつむいていたマサシの前髪を、むんずと掴んだイソメが言った。


(参ったなぁ…、今さら言えねぇよ…、空手は小学校の時に2年やっただけなんて…、俺もハチも、8級の青帯だなんて、今さら言えねぇよ…)


髪を掴まれて顔を上に向かされているマサシが、恐怖で引きつりながら、そう思うのであった。


 その時、ジョーカーのサジが、観客に向かって突然、叫んだ。


「パンパカパァ~~ン♪、レディス・アンド・ジェントルメン!…、お待っとさんしたぁ~!、これより、断髪式やろまいとおます~!」


そう言ったサジの言葉に、観客たちは互いの顔を見合わせて、ザワつく。

隣に立つ池田ジンは、腕を組みながらうつむいてクスクスと笑っていた。


「ほれ!、オミヤーら、正座しろ、正座!、断髪式やるんでな!、早よ!、早よ!」

ベルサイユ・ローゼスの3人に、そう言うサジ。


「うわぁぁ!、嫌だぁ~ッ!、俺はカンケーないッ!」

すると、ギターのテリーが身体を左右に振りながら、急に叫んだ。


「こいつらが、勝手に言ってたんだぁ~ッ!、俺は、その時、取材を受けていないッ!」

マサシとハチを指しながら、テリーが興奮気味に叫ぶ。


「おやおや…、仲間割れか…」

腕組みをしている池田ジンが、ニヤニヤと笑みを浮かべて言う。


「マーシーッ!、ポールッ!、お前ら何やってんだよぉッ!、ふざけんなよぉッ!」

「いつも勝手な事ばっかやりやがって…ッ、俺だってメンバーなんだぞッ!、それを相談もせずに、勝手に調子に乗るから、こうなったんじゃねぇかぁッ!」


マサシとハチを罵倒するテリーは更に言う。


「もっと、周りの人の事も考えろよぉッ!、それが出来ないで、何がリーダーだよぉッ!、そんな自分勝手にやってるお前なんか、リーダー失格なんだよッ!」(テリー)


「テリー…」

テリーの怒声に、マサシは茫然とするのだった。


「ほれ…、まずはオミャーからだ…、正座しろ…」

ハサミを手にしたサジが、ニヤつきながらテリーに言う。


「うぁぁ~ッ!、嫌だぁ~ッ!」

ジョーカーのメンバーに、両腕を押さえられたテリーが、身体を激しく揺らせて抵抗する。


「俺の美しい髪を切らないでくれぇぇ~ッ!、何年もかかって伸ばしたんだぁぁ~~ッ!」(テリー)


「テリー…、嫌ぁ…」

その光景を見つめている女性客が、シクシクと泣き出す。


ジャキ…。


ジャキ、ジャキ、ジャキ…。


「うう…ッ、ううう…」

髪を切られるテリーが、身体をブルブルと震わせながら泣く。



「終わっただに…」

テリーを虎刈り頭にしたサジが笑顔で言う。


「うう…ッ、俺は…、俺は関係ないのにぃぃ…、うう…」

坊主頭になったテリーが、身体を震わせて泣きながら言った。


「なら、オミャーは、ここまでにしといたる…」

サジのその言葉に、テリーは顔を上げて「え?」と聞く。


「坊主になった後は、リンチが待っとるだに…、それはカンベンしてやると言ったんだぎゃ…」

「そんとも、このままここに残って、オミャーも殴られたいか…?」


サジがテリーにそう言うと、テリーは「いえッ!、結構ですッ!」と、声を上げる。


「だったらさっさと消えろッ!、タコッ!」


池田がテリーに、そう恫喝すると、テリーは慌ててステージから降りて、「ひぇぇぇ…ッ!」と叫びながら、出口に向かって走ろ去って行くのだった。



 PM4:34

ライブ会場へと続く通路を歩く彼とカズ。


「なぁ…、お前さっき言ってたよな?、この街を元に戻す為にやつらと戦うってよ…」

カズが隣を歩く彼に言う。


「ああ…、あとマサシとハチを救い出すのもあるがな…」

彼が正面を向きながらカズに言う。


「でも、本当の理由がまだあるよな…?」(カズ)


「本当の理由…?」(彼)


「そうだ…。なぜそこまでして、お前がやつらと戦う必要がある?」

カズがそう聞くと、彼は無言で歩き続ける。


「復讐だな…?、マリノさんの…?」(カズ)


「違う…、そもそも復讐など、彼女は望んでいない…。復讐したところで、あの頃の時間に巻き戻せる訳じゃないと、彼女は分かってる…」(彼)


「なら何でだ…?」(カズ)


「街に平和を取り戻したいのは本当だ…。それは、いつかマリノが、この街へ戻って来た時に、彼女が平穏に暮らせる街にしておきたいからだ…」(彼)


「未だ行方不明で、戻って来るかどうかも分からない、彼女の為にか…?」(カズ)


「そうだ…。俺が彼女にしてあげられる、唯一の償いがこれだ…」(彼)


「償い…?」(カズ)


「俺はあの日、レイプされたマリノを置いて、サドンデスを追った。彼女が、行かないで傍に居て欲しいと頼んでも、俺は行ってしまった」


「だが、あれは間違っていた。あの時、彼女は、今さら報復したところで、どうにもならない事なんだと分かってた」


「だから、俺に傍に居て欲しかった…、レイプされた自分を、それでも受け入れてくれるのか、マリノは確かめたかったんだ…」


彼の言葉をカズは黙って聞いている。


「なぁカズよ…」(彼)


「ん?」(カズ)


「俺は今さら、マリノの心を取り戻そうとか考えていない…。彼女が今後、もし、東京で暮らす事になったときに、安心して暮らせる街にしておきたいんだよ」


「そして、彼女の心の傷がいつか癒えたとき、マリノが他の誰かと一緒になったとしても、俺は、彼女が幸せに暮らせるのであれば、それで良いんだ…」


「だから俺はサドンデスを潰す!、絶対にな…ッ」


彼がそこまで言い終えた時には、2人はライブ会場の出入口の前に着いていた。


「じゃあ、援護射撃たのんだぞ!、カズ…!」

彼がそう言うと、カズは「分かった!」と、力強く言うのであった。




PM4:41


その頃ジュンは、ようやくステージ中央の真上にある「5M」照明のある位置まで、天井のバーを伝わって移動して来ていた。


(うわぁ…、高っかぁ~…)


四つん這いになってタライを背負うジュンが、天井からステージを見下ろす。

その彼女からは、サドンデスとジョーカーに話し掛ける、彼の姿が目に映った。


「おい…、お前らいいかげんにしろ…。もういいじゃねぇか…。お前らの目的は達成しただろ…?」

竹刀袋を肩に担ぐ彼が、ステージ上のやつらに近づきながらそう言った。


(こッ…、こーさんッ!?)

それを見たマサシとハチが驚く。何でここに彼が居るんだと…。


「んだぁオミャーは?、こいつらのツレなんだぎゃぁ!?」

ステージで正座させられている、マサシの後ろに立つサジが、ハサミを手にして彼に言う。


「いや…、まったく知らん…。赤の他人だ…」

サジの言葉に彼がサラッと言う。


彼はマサシたちの事を、知らないと嘘をついた。

それは、出演者の知り合いだと、エッグメンを脱出しても後で足が点いてしまうからだ。


「だったらすっこんだれッ!、クソぎゃぁッ!」

サジがそう怒鳴ると、彼の目が座った。


「いいかげんにしろって言ってんだろぉ…。今どきバンド狩りたぁ、オメェらは団塊の世代かぁ…コラぁ…?」

低いトーンで彼が、サジを挑発する。


「オミャー、俺のこと知らねぇんだぎゃぁ?」

サジがニヤニヤしながら言う。


「知ってるよ…。マックのドナルドだろ?」

彼がニヤついて、サジをバカにした様に言う。


「おどれぇ…」

サジの表情が怒りに変わった。


「なぁ…サジ、あいつも一緒に殺っちまおうぜ…」

サジの隣に立つ池田ジンが言った。


「よし!…、イソメ!、ゴカイ!、ワーム!、やったれッ!」

サジがジョーカーの仲間に指示をする。


木刀を握ったサジの仲間たちが、ステージ上から降りて彼を睨みつける。

その様子を不安そうに、マサシとハチが見つめていた。


「なんだぁオメエらぁ、その細っちい木刀はぁ…?、修学旅行のお土産かぁ…?」

彼が睨み合っていたやつらを挑発する。


「たあけがぁ…」

敵の1人、イソメが呟く。


「俺のはそんな安モンじゃねぇぞ…」

彼はそう言うと、肩に掛けていた竹刀袋から木刀を取り出す。


スッと正眼(中段の構え)に構えた剣道三段の彼。

その構えに、素人ではないと悟ったやつらは、一瞬たじろいだ。


「援護頼んだぜ…」

彼の少し後ろに立つカズへ、彼がチラ見して言う。


「まかせとけ…」

両手にエアガンを構えたカズが言う。


「あんなやつ、俺1人で十分だぎゃ…」

ジョーカーのイソメはそう言うと、彼に向かって木刀を振り上げた!


「くぉらぁッ!」

イソメが木刀を振り下ろす!


ビュンッ!


それをバックステップでかわす彼。


バシッ!


「ぐぁッ!」(イソメ)


空振りして無防備になった相手の顔面に、木刀を叩きつける彼!

だがその横から別の敵が、彼に木刀で襲い掛かる!


パンッパンッ!


「ギャッ!」


次の瞬間、援護するカズのエアガンが、その男の顔に命中。

そこへ彼が、すかさず敵の側面を木刀で振り抜いた!


バシッ!


「がぁッ!」


「ヤロウ…」

それを見ていたジョーカーのサジが言う。


「まとめて行けぇ~ッ!」

イラつく池田が、サドンデスにも指示をした。


「うわぁああ乱闘だぁ~ッ!」

ライブに来ていた観客の1人が叫んだ。


わぁ~~~ッ!


きゃぁ~~~ッ!


観客たちが出入口に向かって一斉に駆け出した!


「警察だぁ!、警察を呼べぇ~!」

観客の誰かが逃げながらそう叫んでいた。


ぬぅおぉぉぉぉーーーーッ!


敵が彼目がけて一斉に掛かって来た!


パンッ、パパパパーンッ!


「ぎゃッ!」


「うわぁッ!」


「痛てッ!」


カズが的確な射撃で、敵の顔面を掃射する。


バシッ!


ガンッ!


ビシッ!


「ぐッ!」


「がッ!」


「うッ!」


動きが止まった相手の顔を、彼が木刀でなぎ倒す!


「行けッ!、行けッ!、行けッ!」

サドンデスの池田が、ステージに残ってる仲間にもそう叫ぶ。


うぉぁぁぁあああああーーーーッ!


襲い掛かって行くサドンデスたち。


パンッ、パパパパーンッ!、パパパパーンッ!、パパパパーンッ!


カズが敵目がけて連続でエアガンを放つッ!


「うッ!」


「痛てッ!」


「ぐッ!」


バシッ!


バシッ!


ビシッ!


ガンッッ!!


カズの援護射撃で動きの止まった敵へ、彼が次々と木刀を叩きこんで行った!


(しかし、あいつもよくやるぜ…。いくら俺の援護射撃があるとしても、たった1人で、あの人数とやり合うなんてよ…)

エアガンを掃射し続けるカズは、木刀で相手をなぎ倒している彼を見つめながら、そう思うのだった。



PM4:47


 場面変わってエッグメンのエントランス


わぁぁぁ~~~~~!


数百名の観客たちは、そう叫びながら、どっと押し寄せて来た。


「始まったみたいスね…?」

ロン毛のヤスが、金髪ソフトモヒカンのタカに言った。


「ああ…、ヤス…、ここを絶対、突破させるなよぉ…ッ」(タカ)


「うす…!」(ヤス)


「じゃあ、俺、あゆに知らせに行って来ますッ!」


ヤマギシあゆみのカレシのミッチーは、そう言うとエントランスを飛び出して階段を駆け上がって行くのであった。


うわぁぁ~~~~ッ!


きゃぁああああ……ッ!


ひぃいいいい~~ッ!


ライブ会場で突然始まった大乱闘に、観客たちは出口を目指して一斉に走り出して来た。


すると先頭を走る男性客たちが速度を緩めた。

彼が見たエントランス前には、ガラの悪そうな男たちが立っていたからである。



「おい…、ちょっと、そこをどいてくれよ…」(観客A)


「そこを開けてくれ…、出してくれ…」(観客B)


逃げ出して来た観客たちが、エントランスを封鎖している、金髪ソフトモヒカンのタカと、ロン毛切れ長目のヤスにそう言った。


「すまねぇが、みんなには、もう少しだけここで待っててもらいたい…」

タカが静かな口調で、逃げて来た先頭グループに言う。


「なんでよー!、そこを開けてよぉー!」(観客女性A)


「私たちやっと逃げて来たのよぉッ!」(観客女性B)


「すまねえ…、あと、もう少しだけ待ってくれ…」(タカ)


「何であなたに、そんな事いう権利あんのよぉッ!」

憤慨する女性客が言う。


「そうだ!、そうだ!、早く開けろぉ~ッ!」

後方からも男性の叫び声。


そうだ!、そうだ!


早く開けてぇーーツ!


開けろぉーッ!


次々と騒ぎ出す群衆。

その時、後方から、客の男性がキレて叫んだ!


「てめぇらぁッ、早く開けねぇとぶっ殺すぞぉぉッ!」(観客C)


「誰だぁぁーッ!?、今言ったやつぁぁーッ!?、前に出て来ぉいぃぃ…ッ!」

その観客の怒声に、ロン毛のヤスがキレた。


ヤスの迫力に、群衆の叫び声が急に止み、通路に静寂が走る。

その時タカが無言で、ヤスの事を手で制した。


そして次の瞬間、タカは通路の床に跪くと、そのまま観客たちに対し土下座を始めた。


「たッ…、タカさんッ…!?」

クールでプライドの高いタカの、土下座姿にヤスが驚く。


「すまねぇ…、もう少しだけ、ここで待ってくれ…、みんなの安全は、俺が保障する…、だからお願いだ…。もう少しだけ待ってくれ…」

声を震わせながら、タカが観客たちへ土下座して言う。


それを目の当たりにしたヤスは、すぐさま自身も、通路の床に跪き、無言のまま観客たちへと土下座をした。


目の前で土下座する姿を、唖然として見つめる観客たち。

彼らは無言のまま、方々の人たちの顔を互いに見合わせながら、おろおろとするのであった。



PM4:51


 一方、乱闘が起きているライブ会場の方では…!?


ぬぉぉおおおーーッ!


おりやぁぁ~~~ッ!


そう叫びながら、剣道三段の彼に襲い掛かるサドンデスとジョーカーの連合軍。

だがやつらは、たった1人で戦う彼に翻弄されていた。


パンッ、パパパパーンッ!、パパパパーンッ!


「ぐッ!」


「痛てぇッ!」


「あたッ!」


エアガンの名手、カズが放つ援護射撃がやつらの顔面を一掃する!

そして、その動きが一瞬止まった敵へ、彼が木刀を叩きつける、見事なコンビネーション!


バシッ!


ビシッ!


ガンッッ!!


「ヤロウ…、ふざけやがってぇぇ…」

初っ端にやられた、ジョーカーのイソメが、ゆっくりと立ち上がる。


ダメージを回復しつつあるイソメは立ち上がると、仲間たちを倒している彼を睨みつけるのであった。


※解説をしよう

サバイバルゲームで使用されるエアガン…、特に今、カズが使用しているガス銃の威力は凄まじいものである。


それを至近距離から、顔面にBB弾を喰らうものなら、人は痛みで、しばらくは動けなくなるのは、あたり前。


そして剣道家は、普段、重さ10Kgにもなる防具を装備していながら、目にも止まらぬ素早い動きで技を打つ。


その重たい防具を外した状態で、剣道家が戦えばどうなるか…!?

そりゃあ、大リーグ養成ギプスを外した、星飛雄馬状態である!


カズの正確な早打ちと、防具を外した彼のフィジカルから成す、2人のコンビネーション!

だからこそ、相手が10人いても、十分に戦えるのである。



「こーくん…、すごい…!、すごいよぉ…!」


ステージ中央真上の天井に潜んでいるジュンが、乱闘が起きている下を見つめながら言う。


「なんだこりゃぁ…、一体、どうなってンだぁ!?」

仲間がやられていく光景を見るサドンデスの池田ジンが、隣のジョーカー、サジへそう言うのであった。



PM4:54

 場面変わって、再びタカとヤスのいるエッグメンのエントランス。


「たッ…、タカさんッ!」

突然、ロン毛メガネのヤスが慌てて言った。


「なんだ?」(ヤスに振り向くタカ)


「サイレンが…、警察が…」(ヤス)


「何ィッ!、もお警察がッ!?」


タカがそう言うと、エントランスの外側からパトカーが次々と停車する音が聴こえた!


「ばっかヤロウ…、ヤマギシぃぃ…、まだ早ぇぇよぉ…」


乱闘開始から、20分後に警察へ連絡する事になっているヤマギシあゆみの事を、タカは言った。


ドカドカと階段を駆け下りて来る警官隊の足音が聴こえて来る!


「警察だぁ~ッ!開けろぉ~ッ!」(警官の声)


「たッ…、タカさん…ッ!?」

タカに、「どうしましよう?」という感じで聞く、ロン毛のヤス。


タカは黙ってエントランスを見つめるが、その間にも、ドアの反対側では、警官が開かない扉に対し、ヒステリックに叫んでいた。


「開けろーーッ!、開けないかぁ~ッ!?…、開けないと…ッ、もお…、ぶッ…、ぶっちゃうぞぉぉおおおッ!」(警官)


「たッ…、タカさん…、何か言った方が、良いスよ…」


このままシカトしていると、ドアを破壊しかねない勢いの警官にビビるヤスが言う。


そこでタカは、扉の向こうで怒鳴る警官に、間の抜けた声で言う。


「だ…、誰ぇぇ~~…?」(タカ)


「警察だぁぁーッ!、ポリスッ!、サツッ!、デカッ!、けぇいさぁつぅぅ…ッ!!、早く開けろぉぉぉーッ!!」(警官)


(スネークマンショーかい…?)

タカと警官のやりとりを見つめるヤスは、呆れ顔でそう思うのだった…。



PM5:03


 場面は再び、乱闘のエッグメンライブ会場


「ヤロウ…、ゾンビみてーにしつこいやつらだぜ…」


木刀を手に戦う剣道三段の彼が、やられても、やられても、立ち上がり向かって来るサドンデスとジョーカーのやつらに言う。


「へへへ…、どうだ?…、疲れて来たんじゃねぇのか?」

ジョーカーのイソメが、木刀を中段に構えながら彼に言った。


「てめぇらの方こそ、フラフラじゃねぇか…、人数もかなり減ってるぜ」


少し疲れの出て来た彼が、木刀を構えながら正面のイソメに言う。

彼は壁に背中を向けて立っていた。


「たあけ!…、俺たちのメンツにかけて、おめぇ1人にやられるワケにはいかねぇんだ!、俺たちは何度でも立ち上がる…」

「現に、おめえを徐々に追い詰めてるぜ…」


そう言ったイソメがニヤリと笑って、1歩前に出た。

イソメの木刀と彼の木刀の切っ先が触れた。


「そうかい…」


その瞬間、彼はそう言うと、自分の木刀をイソメの木刀に絡める。

スッと入った彼の切っ先が、イソメが両手で握る手前でくるりと回転!


「あれッ!?」


何が起こったのか分からないイソメが、そう言った時には、やつの木刀はもう絡め取られていた。


カラン…!


木刀が床に落ちる1


ドスッ!


「ぐぇッ!」

手ぶらになったイソメの腹に、彼がすかさず突きを喰らわす!


「ぐぅぅぅ…」


腹を押さえるイソメが沈み込んだ。

彼の“巻き落としメン”ならず、“巻き落とし突き”が決まった!


「このヤロオォォ~~ッ!」

やられたイソメの後ろにいた敵2人が、木刀を片手で振り上げて彼に襲い掛かる!


パパパパーンッ!、パンッ、パパパパーンッ!


「ぎゃッ!」


「ううッ!」


その時、カズのエアガンの援護射撃を顔面に喰らう2人組!


バシッ!


ビシッ!


彼がやつら2人の肩口に、木刀を叩き落とす!


「あああ…ッ!」


「ぐぅぅ…ッ!」


2人組が、肩口を押さえながら沈み込んだ。


カチッ、カチッ、カチッ…!


「やべぇ!、弾切れだぁッ!」

カズが叫ぶ。


BB弾が詰まったスプリングマガジンが、ここで2丁ともカラになった。

スペアマガジンも既に使い切ってしまったカズは、慌ててマガジンにガスと弾を詰め込み始める!


「今だぁッ!、やっちまえッ!」

エアガン攻撃が止まった瞬間、やつらの1人が叫ぶ!


うわぁぁぁああああああッ!!


正面1人、背後から2人が同時に彼に襲い掛かる!

その時、ステージで囚われていたドラムのハチが、そこから飛び出した!


「あ!、ハチッ!」

ベースのマサシが、ハチの背中に叫ぶ!

同時にサドンデスの池田とジョーカーのサジもハチの行動に驚く!


ここからは、スーパースローモーションで実況!


(俺だってッ…、俺だってッ…!)

ハチが彼に向かって走る!


「どぉぉぉうぅぅりぃぃやぁぁぁ……!」(どりゃあッ!と言ってます 笑 )

正面の敵が両手で握る木刀を振り降ろす!


ガシィィィィ……ンンン…!


彼がその攻撃を木刀で受け止める!

敵と鍔迫り合いになった!


その時、彼がハチの動きに気づく!

そして、ハチの視線で、背後に敵がいるのにも気づく!


走るハチは、握っていたドラムスティックを水平に投げた!

スティックは回転しながら、彼の方目がけて飛んできた!


「うぉぉぁぁぁぁぁ……!」

背後から木刀を振り上げる敵が、彼のすぐ後ろまで来た!


彼が、鍔迫り合いする正面の敵を突き上げて、後ろへ倒す!

そしてすぐさま沈み込む!


その頭上を、ハチのドラムスティックが通過!

彼が右手1本で木刀を持って、しゃがみながら後ろに回転!


2本のドラムスティックが、それぞれ敵の顔面に命中!


ビシィィィ……!、ビシィィィ……!


「うぅぅぅあぁぁぁ……!」(後ろの敵の叫び)


そして、沈んで回転した彼の持つ木刀が、後ろに立つ敵のスネ(※弁慶の泣き所)に当り、骨を砕く!(※スーパースロー終わり!)


バキッ!、ボキッ!


「あががががぁぁ~~ッ!」

スネの骨を砕かれた2人の敵が、絶叫しながら尻餅を着いた!


そこへ、先程、鍔迫り合いで倒された方の敵が、今度は後ろ向きの彼に、木刀を振り上げた!


「うらぁッ!」(敵)


「たあーーーーーッ!」(ハチ)


ドカッ!


「ぐぇッ!」(敵)


空手8級のハチの蹴りが、敵の背中に当たった!

前につんのめる、蹴られた敵!


ハチの蹴りは青帯の8級でも、綺麗なフォームであった。


バタンと前に倒れた敵。


「このヤロウ…」

そいつは、そう言って立ち上がると、ハチを睨みつかる!


「うッ…!」

その迫力にハチがビビる!


「恐れるなぁッ!」

彼がすかさずハチに叫ぶ!


「男の意地を…、見せてやれぇぇッ!」(彼)


「うわぁああああッ!」

その言葉を聞いたハチが、叫ぶ!


ドカッ!


「うげぇッ!」

ハチの蹴りを正面から喰らった敵が、胸を押さえて沈む。


「やったなぁッ!?」(笑顔の彼)


「ハイッ!」

彼に向いて笑顔のハチが言う。


しかし彼ら2人を取り囲む様に、サドンデスとジョーカーたちが、じりじりと集まって来た!

睨み合う彼らたち!


その時、エアガンの銃声が!


パンッ、パパパパーンッ!、パパパパーンッ!


「あたぁッ!」


「うわぁッ!」


「完全復活ぅぅ~~~ッ!」

そう叫びながら、2丁拳銃のカズが、敵の顔目がけてBB弾を連射する!


パンッ、パパパパーンッ!、パパパパーンッ!


「うわッ!」


「痛てぇッ!」


敵の動きが止まった!


「今だッ!」

彼がハチに合図した!


バシッ!(彼の木刀)


ドカッ!(ハチの蹴り)


2人は、正面の敵を2人片付けた!


「あのエアガン野郎が邪魔だらぁ…」

ステージで状況を見ている、ジョーカーサジが池田に言う。


「俺に任せろ…」

池田はそう言うと、カズに向かって走り出した!


「うぉおおおおおーーッ!」

そう叫びながら、池田はカズの方へ猛然と向かって行く!


「うわぁッ!、こっち来やがったぁッ!」

そう言ったカズは、巨体の池田目がけてエアガンを撃つ。


パンッ、パパパパーンッ!、パンッ、パパパパーンッ!


両腕をクロスさせ、顔をガードしながら池田が走る!


「ぬぅおおおおおおおおおーーー!」(池田)

池田が、BB弾を受けながらも向かって来た!


「カズ~~~ッ!、逃げろぉぉ~~ッ!」

それを見た彼が叫んだ。


「うわぁああ~~!」(カズ)


カズがその場から、背中を向けて逃げ出す。


「どこ見てんだぁッ!」

カズに気を取られた彼に、木刀を振り上げた敵!


「危ないッ!」

ハチが彼を突き飛ばす!


バシッ!


「うッ!…」

身を挺したハチが、敵の一撃を後頭部に喰らった!


「うう…」

ハチはそう言うと、気絶をした。


「ハチッ!」

それを見た、ステージで囚われているマサシが、飛び出そうとする!


「おっと!」

だがジョーカーのサジが、マサシの腕を掴み、行かせない!


ドスッ!


「うッ!」


サジにボディブローを喰らったマサシが、うずくまる。


「オミャーは、ここで大人しくしてろ…」

沈み込んでいるマサシに、サジが言った。


(うう…、すまねぇ…、ハチ…、こーさん…)

腹を押さえるマサシが、彼らを見つめながら思うのだった。



「てめぇ~~~ッ!」

そして、カズに追いついた池田が腕を伸ばす!


「うわぁああッ!」

池田にむんずと、襟首を掴まれたカズが、ジタバタと喘ぐ!


「カズーーーッ!!」

目の前にいる敵からの攻撃を、木刀で受け交わしながら、彼が叫ぶ!




 時間を少し遡って、場面は封鎖されたエッグメンのエントランス


PM5:05


ドン!、ドン!(警官が扉を叩く音)


「頼むッ!…、開けてくれッ!…、開けてくれるだけで良いんだぁッ!…、あとは、なぁんにもしないからぁッ!」


扉を叩き続ける警察官が、悲壮感漂う声でドアの向こうへ呼びかける。

その時、ドアを叩く警官の後ろにいた部下が声をかける。


伊武形(イブガタ)警部…」


「なんだ咲坂(サキサカ)?」

イブガタ警部が部下に振り返る。


「この扉を破壊して突入したらどうですか?」(サキサカ)


「バカ言うな!…、そんな事したら、せっかくの俺たちが登場してるシーンが、短かくなるだろうがぁ!」(イブガタ)


「なんですか警部…、鎮圧よりも、“撮れ高”優先ですか?(苦笑)」(サキサカ)


「当たり前だ!…、なぁ!?、大山…、桃内(モモナイ)…、お前らもそう思うだろぉ?」

イブガタはそう言って、部下に同調圧力をかける。


「しっかし…、暑いですねぇ~警部…!?」(大山)


「もお7月で、夏だからなぁ…」


青空を眺めてイブガタ警部が言う。

街路樹からは蝉の鳴き声が聴こえる


ミ~ン、ミンミンミン…。


「もお、夏全開ですよねッ!?」

突然、別の警官が話に加わり、イブガタに言う。


「な…、なんだ高中…、急に…?」

その警官にイブガタが訝しむ。


「暑いなぁ~…、どこかに行きたいなぁ♪」

空を見上げ、モモナイ巡査が言った。


「どこでも良いよ…、暑くなきゃ…」

イブガタは、半ば諦めの口調で、部下にそう言うのであった。



 ところで、扉の反対側にいるタカとヤスは、どうしてるのだろうか?


PM5:09


封鎖されたエントランス前には、数百人にも及ぶ観客らで、ごった返していた。

そしてエントランスの反対側からは、ドン!ドン!と扉を叩くイブガタ警部の「開けろ~ッ!」という怒声が聞こえる。



「ヤス…、頼みがある…」

扉の前に立つタカが、突然ヤスに振り返り言う。


「なんですか…?」(ヤス)


「このままじゃ、警察が扉を破壊して突入するのが目に見えている…、そうすりゃ、こーさんたちは、サドンデス共々、警察に捕まっちまう」

「そこで、お前に頼みがある…」


神妙な顔つきで、金髪でソフトモヒカンヘアーのタカが、ヤスに語り掛ける。


「頼み…?」

ロン毛でガタイの良いヤスが、タカに聞く。


「ヤス…、お前が池田を仕留めろ!…、それで決着する…。ここはもう限界だ…!」(タカ)


「ちょっと待って下さいよぉッ!、あのバケモノを仕留めろなんて、簡単に言いますけどぉぉ…」

慌ててヤスが、片腕を骨折して吊っているタカに言った。


「もお、オメェしかいねぇんだよぉッ!、ヤスッ!、時間がねぇッ!」(タカ)


「俺に出来ますかぁ…?」(困惑するヤス)


「俺が考えていた作戦があるッ!」(タカ)


「作戦…?」(ヤス)


「そうだ作戦がある!」(タカ)


「一体、どんな…?」(ヤス)


「当初…、俺が考えていた作戦では、俺と、こーさんで、池田を引き付けておいて、お前は、隙の出たやつを仕留めるという作戦があった」


「しかし、俺がこの有り様じゃ、状況は当初よりも、かなり厳しくなっている!、けど、やるしかねぇ…!」


タカがそう言うと、ヤスは「どんな方法で?」とタカに聞いた。


「こーさんが、この後、もし池田と対峙していたら、やつは、こーさんに気を取られているはずだ」


「そこでお前は、横からそっと近づき、隙の出た池田の脇腹へ、渾身の横蹴りを喰らわしてやれ!」


「動きの止まっている相手に、お前のウエイトを乗せたテコンドー蹴りが、いきなり脇腹に喰らったとなりゃぁ、いくらやつが怪物でも、うずくまるはずだ!」


「そこでお前は、前屈みになった池田の頸を、フロントからチョークスリーパーを決めるッ!」


「ギロチンチョークですか?」(ヤス)


「そうだ!、それでやつを締め落とせ!」(タカ)


「出来ますか…?、俺に…?」(ヤス)


「お前なら出来る!、、さあ!、早く行け!、ここは俺が守り抜く!」(タカ)


(俺に出来るのか…ッ!?、あのバケモンを、俺が…ッ!!)

ヤスが無言で考える。


「ヤスッ!、お前が最後の切り札なんだッ!」(タカ)


「わ…、分かりました…」(ヤス)


「頼んだぞ…!」(ヤスを見つめるタカ)


「はい…」(ヤス)


「よし!、行け!」

タカがそう言うと、ヤスは無言で頷き、乱闘現場へと向かい出す。


「ちょっとごめんよ…、ちょっと、ごめんよ…」

ヤスは、そう言いながら、人混みをかき分けて行く。


(頼んだぞ…ヤス!)

その姿を見つめるタカ。


やっと人混みから出たヤスが、走り出す!


(こーさんッ!、今、助けに行く!、待っててくれッ!)

ヤスが長い通路を走って、彼たちが戦っているライブ会場へと向かった!


 PM5:12


場面は再び、乱闘中のライブ会場!


(ああッ!、カズッ!)

ステージ中央真上の天井に潜んでいるジュンが、池田に捕まったカズを見て言葉を呑む!


(こーくんはッ!?)

続けてジュンは彼の方を見る!


しかし彼の方も、エアガンの援護射撃が無い状態で3人を相手にしており、とてもカズを助けに行ける状態ではなかった。


(ああ…ッ!、ああ…ッ!)

池田に捕まったカズを見るジュンは、声を殺してその状況を見守った。


「てンめぇ~~~ッ!」(池田)


「うわぁああッ!」

池田にむんずと、襟首を掴まれたカズが、ジタバタと喘ぐ!


「カズーーーッ!!」

目の前にいる敵からの攻撃を、木刀で受け交わしながら、彼が叫ぶ!


(あッ!)

その時、ライブ会場に飛び込んで来たヤスが、目の前で池田に捕まっているカズを見た!


(クソッ!)

ヤスがカズの方へ飛び出す!


巨漢の池田に捕まってるカズは、必死にもがく!

抵抗するカズは、その時にヤスの姿が視界に入った!


こちらへ突っ込んで来るヤス。

しかし池田は、それに気づいていない!


カズは両腕をスッとクロスさせると、そのまま両手に握ったエアガンを、後ろに立つ池田の顔目がけて発射した!


パパパパーーンッ!


「がぁッ!」

BB弾を至近距離から顔に喰らった池田が、カズから手を離した!


痛みで顔を両手で覆う池田。

その姿を見たヤスが、タカの言葉を思い出す!


(隙の出た池田の脇腹へ、お前の渾身の横蹴りを喰らわしてやれッ!)BY.金髪ソフトモヒカンのタカ


(今がチャンスだぁぁッ!!)

ヤスは、ガラ空きになっている池田の左脇腹へ、渾身の横蹴りを放った!


ドカッッ!


「ぐぇッ!」

ヤスの蹴りをイキナリ喰らった池田が喘ぐ!

そしてやつは、前屈みになって苦しむ!


ガッ!


ヤスがタカの作戦通り、フロントからのチョークスリーパーホールドを、がっしりと決めた!


「ぐぐぐぐぐ……ッ!」

ヤスから締め上げられる池田がうめく!


「落としちまぇッ!」

興奮したカズが、銃を持った手を振って、池田を締め落とせと叫ぶ!


「ううッ!?」

その時、池田を締め上げるヤスが驚く!


「ぐぐぐぐぐ……ッ!」

ヤスから締め上げられる池田が、そう喘ぎながら怪力でヤスの腕を、強引に外しにかかって来たからだ!


「くそぉッ!」

ヤスが更に強く締め上げるが、池田はそれでも取り外そうと抵抗する!


「バケモンめぇぇ……ッ!」

ヤスも必死に締め落とそうとするが、池田は段々と上体を起こして来る!


「ま…ッ、まずい…ッ!」(ヤス)


池田が身体を少しづつ起こして来る!


「ヤ…、ヤスッ!」

その状況を見つめるカズが、蒼ざめた顔で言う。


「ぐぐぐぐぐ……ッ!」(池田)


「だッ…、だめだぁ…ッ」(ヤス)


もはやどうする事も出来ないヤスが、重心を徐々に持ち上げらていく…!

それを見たカズは、急いで池田の後ろへ回った!


ヤスに頸を締め上げられている池田は、腰を落とし、大きく両足を広げて踏ん張っていた!


「くらえッ!」

そこへカズが、後ろから池田の股間を思いっきり蹴り上げた!


キーーーーンッッ!


「がぁッ!」


カズに急所を蹴り上げられた池田が叫ぶ!

同時に、やつの力がズルッと抜けた!


「今だぁッ!」

ヤスは、池田の力が抜けたと同時に、渾身の力で締め上げる!


そして池田の頸を抱えたまま、自分の上体を後ろに反らし、尻餅を着くような姿勢で腰を落とした!


ガンッッ!


ヤスに頸を抱えられた池田が、床にそのまま脳天杭打ち!

プロレス技のDDTが決まった!


床に尻餅を着いているヤスが、ゆっくりと池田の頸を外す。

やつはぐったりして、動かなかった。


恐る恐る池田の状態を確認するヤス。

顔を覗き込むと、池田は失神していた。


「はぁはぁ…、やった…」

ヤスが肩で息をして言う。


「大丈夫かぁッ!?」

カズがヤスに駆け寄る。


「大丈夫っス…、ほら…、カズさん見て下さい…」

ヤスはそう言うと、気絶した池田をカズに教えた。


「やったのかッ!?(笑)」(確認するカズ)


「やりました…(苦笑)」(ヤス)


「やった!やったぁ~ッ!!、池田ジンを倒したぞぉ~~ッ!」

興奮するカズは、そう叫びながら、両手を激しく上下に振ってガッツポーズをした。



 一方、剣道三段の彼も、残り3人の敵を仕留める。


バシッ!(側面!)


バシッ!(脇腹へ胴!)


ドスッ!(みぞおちに突き!)


「うう…ッ」


「ぐうぅぅ…ッ」


「ああ……ッ!」


敵3人が喘いで沈み込んだ。

それを見届けた彼は、ヤスに振り返り言う。


「ヤスッ!、お前はエントランスの担当だって言ったろぉッ!(怒)」(彼)


「はい…、でも…」(困惑のヤス)


「だがな…、サンキュー…、助かったぜ…」(微笑む彼)


「こーさん…」

ヤスが彼の言葉に、安堵の笑みを浮かべる。


「おい、ハチ…、しっかりしろ大丈夫か?」

カズが気を失っていたハチを揺り起こす。


「う…、ううん…?」

目を覚ますハチ。


「ハチ…、どうだ?、立てるか…?」(カズ)


「は…、はい…、ありがとうございます…。もう大丈夫です」

ハチは頭を振りながら、カズにそう答えるのだった。



「ヤス…、ところでエントランスは、どうなってるッ!?」

彼がヤスに、エントランスの状況を聞く。


「外にケーサツ来てて、開けろって怒鳴ってます!、もう限界だってタカさんが…ッ」(ヤス)


「そうか…」(彼)


「こーさんッ!、時間がありませんッ!」(ヤス)


「分かった…」

そう言うと彼は、ステージに立つサジに向かって言った。


「おい…、もう終わりだ…。お前1人だけだ…」(彼)


「うッ…、うるせぇッ!」


サジはそう怒鳴ると、マサシの頸を背後から左腕で抱えながら後退りした。

そして右手でポケットからバタフライナイフを取り出す。


「お前、そんなモンしまえ…、シャレになんなくなるぞ…」

彼が手を差し出して、サジに言う。


「黙れッ!」

イラつき気味にサジが言う。


「そこまでやる必要ねぇだろ…?」(彼)


「このままナメられたままで、名古屋に帰れっかッ!」

彼にバタフライナイフを向けて、サジが言う。


「テメェ…、喧嘩にヤッパ(刃物)使うってこたぁなぁ…」


低く押し殺した声で彼が言う。

それを無言で見つめるサジ。


「殺されても、文句いえねぇってことだぞ…ッ!」

目が座っている彼が、一歩前に進んで言った。


「うう…ッ」

その迫力に、サジがマサシを背後から抱えたまま、更に後退りした。


ステージ中央に立ったサジ。

その時、彼が天井のジュンに叫んだ!


「今だッ!、ジュンッ、やれッ!」


「はいッ!」

ジュンはそう言うと、手にしたタライを離した!


ガンッ!


「うッ!」

サジの脳天に大型のタライが、ドリフのコントの様に見事に命中ッ!


次の瞬間、彼が右手でマサシの腕をグイッと引き寄せる!

サジから逃れるマサシ!


「あッ!」

頭を手で押さえてるサジが、慌てて言う。


「てめッ!」

そしてサジは彼にナイフで切りかかるッ!

マサシを引き寄せた彼は、サジに背中を向けている!


彼はマサシを離すと、素早く腰をひねった!

そのまま半回転!


サジのナイフを沈んでかわしながら、左手で握る木刀の柄で、サジの顎をバックブローで振り抜いたッ!


ガシッ!


「ぐッ!」

サジはそう言うと、膝から前にガクッと崩れ落ちた。


ドサ…ッ


ステージで、うつ伏せに倒れるサジ。

クロスカウンターで顎を打ち抜かれたサジは、脳震盪を起こした様だ。



「よしッ!、ずらかるぞッ!」

彼が木刀を袋に仕舞いながら、カズやヤスに叫ぶ!


はいッ!


おうッ!


その号令に、マサシやハチも一緒に駆け出したッ!


「ええッ!、ちょっと待ってよぉッ!、あたし置いてきぼりぃぃぃ~ッ!?」

天井にいるジュンは、走り去って行く仲間を茫然と見つめながら言った。



人でごった返すエントランスまで走って来た彼らたち。


「タカッ!」

出口を抑えていた、金髪ソフトモヒカンのタカへ彼が叫ぶ。


「待ちくたびれましたよ…」

骨折で左腕を吊っているタカが、ニヒルな笑みで彼に言う。


扉の向こうでは、「ここを開けろ~!」と、警官らしき者たちの声が彼に聞こえた。

エントランスは、あれからまだ、誰も外へ出られない様に、タカが抑えていた。


「よし!、開けろ!」(彼)


「あい…」

タカはそう言うと、エッグメンのエントランス扉を開けた。


ギィィィ…


ついに扉が開いた!


うわぁあああああああ~~~~~ッ!


次の瞬間、エッグメンに閉じ込められていた観客たちが一斉に外へ飛び出した!


うわぁあああああああ~~~~~ッ!


出口から次々と飛び出す人波に、警官は突入できないでいる。


「うわわわ…ッ!、うわわわ…ッ!」

扉近くにいたイブガタ警部が、その人波に吞み込まれ押し流される。

そのどさくさに紛れて逃げ出す彼らたち。


「おお…ッ、おまわりさんッ!、中でナイフを持った奴が暴れてますッ!」

ヤスが、オドオドしながらイブガタ警部に言う。


「分かった…。みんなぁ~突入だぁああああ~~!」

ヤスの言葉を聞いたイブガタが、そう叫ぶと、警官隊が一斉にライブハウスの中へと突入して行く!


「ククク…」

それを見てるヤスが、イタズラな笑みでクスクス笑う。


「バラバラに逃げようッ!、あとで宮下公園で合流だッ!」(彼)


「分かった!」

彼の言葉にカズが言う。


みんなが無言で頷く。


「あ…、あの…、こーさん…」

逃げ出さないマサシが、エッグメンの前で彼に言った。


「俺たち…、バンド裏切ったのに…」

隣に立つドラムのハチも、すまなそうに言う。


「いいんだ…。さぁ…、早く逃げろ!」(彼)


「は…、はい」(マサシ)


「お前ら…、捕まンなよ!」

笑顔で彼はそう言うと、公園通りを渋谷駅方面へと駆け出すのであった。


「ああッ!?…、なんだこりゃあ…?」

エッグメンのライブ会場に到着したイブガタ警部が困惑した表情で言う。


それは、ライブ会場のステージ近くでは、パンク風ファッションの男たちと、道化師のメイクをした男たちが、合わせて10人程、全員倒れていたからである。


「どうなってんだこりゃあ?」(イブガタ警部)


「警部!、これは一体、どういう事でありますか!?」(大山巡査部長)


「分からん…??」

暴れている者など誰もいない状況に、困惑するイブガタ。


「あ~!、どうも、どうも…、警察のみなさん、ご苦労様です…」

その時、エッグメンの責任者が、笑顔で現れた。


「あなたは…?」(イブガタ)


「私は、この店の責任者です」(責任者)


「先程、この店で乱闘事件が発生したと通報を受けましたが…?」(イブガタ)


「はい…、このグループと、このグループで、ライブ中に何かトラブルが起きた様で、お互いが喧嘩を始めた様だとスタッフから聞いております」(責任者)


のびているサドンデスとジョーカーを指しながら、エッグメンの責任者がそう説明する。


「じゃあこいつらが、乱闘事件を起こしたワケですかぁ…。他には誰かおりましたかな?」(イブガタ)


「いえ…、私の知る限りでは、この乱闘事件は、彼らグループ同士の喧嘩が原因だと思いますが…」(責任者)


「分かりました…。ご協力いただきありがとうございました!」


「おいッ!、サキサカ!、大山!、モモナイ!、高中!、こいつら全員、引っ捕らえろッ!」


イブガタが警官隊にそう指示を出すと、警官隊の全員が「はッ!」と敬礼をしてから仕事に取り掛かった。


「ほらッ!、起きろ!お前らぁ!」


「ささっと歩け!」


サドンデスとジョーカーらを連行して行く警官隊が言う。


「署に着いたら、詳しく聞かせてもらうからなッ!」


大山巡査部長がそう言って、彼らを渋谷警察まで連行するのだが、彼らは決して本当の事を話す事はなかったという。


それは、本当の事を話せば、今まで犯して来た罪を、全て話さなければならないというのもあるが、今にして思えば、それよりも、彼らの不良としてのプライドの方が大きかったのではないかと私は思う。


最強不良集団と自負していた彼らが、1人の学生にやられてしまったなんて事は、死んでも言えなかったのであろう。



「では、失礼しますッ!」

そう言って、責任者に敬礼するイブガタ。


その時、部下のサキサカが突然叫んだ。


「警部ッ!、あそこに誰かいますッ!」

そう言って、ステージの天井を指すサキサカ巡査。


「あちゃぁ~…、見つかっちゃったぁ…」


照明機具を取り付けているバーを、四つん這いで隠れる様に移動していたジュンが小声で言う。


「こらぁッ!、キサマーッ!、そこで何してる~ッ!?」(イブガタ警部)


「えっへへへへ…、いやぁ…、ここからステージを眺めたら迫力あるんじゃないかなぁ~なんて、思って登ったんですけどぉ…」

苦笑いで頭をかきながら、ジュンは苦しい言い訳をする。


「嘘をつくなぁぁ~~ッ!、早く降りて来ぉぉ~いッ!」

天井を見上げながら、イブガタ警部が叫ぶ。


「早く降りろと云われましても…、なにぶん、ここは高くて…、怖くて…、すぐにとは…(苦笑)」(ジュン)


「早く降りろォ~ッ!、早く降りないと…ッ。もお…、ぶッ…、ぶっちゃうぞぉぉおおおッ!」(イブガタ警部)


(スネークマンショーかい…?)

イブガタと、ジュンのやり取りを見つめるエッグメン責任者は、苦笑いして、そう思うのであった。



… to be continued.



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