結婚式
愛するミユキと俺の門出を祝うのは…数えきれないほどの、友人、知人、著名人。
皆、口々に、俺たちの結婚を祝福している。
「おめでとう!幸せになれよ!」
「お似合いのご夫婦ね!」
「末永くお幸せに!」
だが、その中に、俺の血縁者は、いない。
…俺の両親は、俺とミユキの結婚を、認めてはくれないのだ。
「では、誓いの口づけを。」
神父の言葉を確認し、俺はミユキの唇を、奪った。
にっこり微笑む、ミユキの唇に、俺の唇を、重ねる。
何度も、何度も、唇を、堪能する。
にっこり微笑む、ミユキの唇が、にじんでいる。
何度も、何度も、唇を、堪能する。
にっこり微笑む、ミユキの顔が、ゆがみ始める。
何度も、何度も、唇を、堪能する。
……ああ、ミユキ、俺の、ミユキ。
「ちょっと!!!なにやってんの?!」
……この、声は。
「いいかげんにしなさい!!!」
ビッ!!ビリビリぃイイい!!
ミユキが、ビリビリと引き裂かれてゆく。
細かく引き裂かれた、愛する妻が、俺の足元に散らばってゆく。
「いいかげんに現実逃避はやめなさいよ!!」
唾液でふやけて、所々にじんだミユキが、バラバラになって、俺の足もとに散らばっている。
机の上の結婚式会場では、相変わらずにぎやかに、俺とミユキを祝福している。
…数えきれないほどの、友人、知人、著名人。
皆、口々に、俺たちの結婚を祝福している。
「おめでとう!幸せになれよ!」
「お似合いのご夫婦ね!」
「末永くお幸せに!」
B4の紙を埋め尽くす、俺とミユキの結婚を祝う来賓。
花嫁惨殺という恐ろしい事件を前にして、一ミリも表情を変えることなく、俺とミユキの結婚を祝い続ける、来賓。
花嫁だけが、引き裂かれて、姿を消した。
呆然とする俺と、半狂乱の母親。
俺の、ミユキ。
俺を愛してくれる、唯一。
俺が愛している、唯一。
俺の、ミユキ。
二次元にとらわれている、かわいそうなミユキ。
「バカなことやってないで、早く仕事に行きなさい!」
……もう、そんな時間か。
俺は、バラバラになったミユキを拾い集め、ごみ箱に、捨てた。
……仕事に行かなければ、ミユキを描くこともできなくなってしまうからな。
肌色のマーカーペンのインクが切れていたんだよ。
これがなくては、ミユキの血色のいい素肌は……描けないからな。
……俺は、愛する妻のため。
職場に、向かった。