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 オリヴィアは今なんと言ったのだろうか。


「にゃ? いかいってにゃんにゃ?」


 ミィーケが何もわかっていないような様子でキースに訪ねてくるが、キースはそれに応えることは出来ない。キースにはオリヴィアが何を言ったのか理解出来なかった。いや、キースだけではない。ソフィアもエルティナも、そしてユリウスですら、その言葉の意味を理解することが出来ないでいた。


「異界……? 異界とはいったい……」


「まぁそれが当然の反応だな。俺もはじめてそれを聞いた時は、この嬢ちゃんの言ってる意味が理解出来なかった」


 クルスはニヤリと笑みをこぼす。


「異界とは、言ってみればこの世とは別の世界ってやつだな」


「別の世界?」


 クルスの言葉に反応するキースだが、やはり理解するこが出来ないでいた。


「その言い方はあまり正しくはありません、クルスさん」


「おぉ? 何か間違っていたか」


「この世界における別の空間といった感じでしょうか。あくまでこの世界に存在する次元の異なる空間、それが異界を表すのにもっとも近い表現かと思います」


「ふむ、まぁそういう事だ。つまりあの扉の向こうは、こことは別の場所に繋がっている。それだけ知ってれば充分だろう」


「それで充分って……。いくらなんでもいい加減過ぎやしませんかクルスさん……」


 こんな重要なことをその程度で流せるクルスの適当に、ユリウスはため息をつき呆れた様子を見せる。


「重要なのは異界が何かという事ではない。重要なのはあの扉が異界だということだけだ」


「扉の向こう側が異界へ繋がっている……いや、なぜこのような場所に異界が」


 扉のへと視線を向けるキース。まさは扉一枚隔てた向こうに異なる次元の世界が広がっているとは、説明を受けた今でも簡単に受け入れること出来ない。


「皆さんの疑問ももっともだと思います。ですが、それこそが我がエヴィル家がこの地を領地としている理由に他なりません」


「それはいったい……」


「異界となるこの場所を守るため、そして異界からこちら側の世界を守るため、そのためにエヴィル家は代々この地を領地とし守護してきました。そしてそれが、王家からこの地を任された本当の理由でもあります」


 オリヴィアの言葉を聞き、そこで先程の話を思い出す。エヴィル家の領地は狭い極一部、アグス家の領地の中にポツンと虫食いのように存在している。なぜそのような異様なことになっていたのか。そしてエヴィル領には領民は存在しない。


 それは、この地が異界へと続く場所だから。


 だから領民が存在しない。だから虫食い状態の領地。


「すべてはこの地が異界へと続くから……か」


「はい。さすがにこのような場所に領民を住まわせるわけにはいきませんからね」


 オリヴィアは苦笑いしする。


「つまり異界は、危険な場所……ということですか」


「異界が危険というよりは、そこに巣食うものが。と言った方が適切かもしれません」


「巣食うもの、ですか」


「異界では、こちら側の世界とは異なる理りによって存在する異形なる種が巣食っています。いや、アレを種とは言えないかもしれません。そんな存在があちら側に存在しています。そして――」


 オリヴィアにそれまでの笑顔は消えていた。そしてそこにある眼差しは、幼い少女のそれではなく、武士(もののふ)であった。


「その異形を狩る者。それこそが我がエヴィル家に任せられた使命なのです」







――――――――――――――――――――





 オリヴィアからこの地の説明を受けている時、突然場が慌ただしくなる。騒がしい方へ視線を向けると、そこでキースは思わず息を飲む。


 その視線の先、そこには開かれた扉があった。


「戻ってきたかっ」


 クルスは立ち上がり扉の方へと駆けていく。


 そこには、幾人もの男たちがいた。そしてその誰もがボロボロの格好をしていた。中には重傷者もいたようで、地面に血溜まりが出来ていた。


「くそっ、傷が深い! 急いて天幕へ運べ! ぐずぐずしていると助からんぞ!」


 冒険者の一人が重傷者を担ぎ上げ天幕の中へと運んでいく。


「にゃっ! 怪我人にゃ!!」


 後を追うようにミィーケが天幕の中へ。


「キースさん、私もっ!」


「ああ、行ってくれ」


「はいっ」


 そしてソフィアも後に続くように天幕へと入っていく。


 キースとエルティナは、この場に残った冒険者と話をしているクルスの元へと近づいていく。


「状況はどうなっている」


「いつもどおり雑魚は問題ない。――――特異形種が出た」


「くそっ、周期が短くなっていやがるのか……。いやしかし……」


「クルスさん、これはいったいどういう事ですか」


 そばで冒険者との会話を聞いていたユリウスが、クルスへと話しかける。


「特異形種ってのは―――」


 そこでクルスはユリウスと、そして近くにいたキースとエルティナを一瞥する。


「――丁度いい、人手が足らねぇところだ。お前ら、一緒に異界に来てもらうぞ」


「!?」


「お前らをここに呼んだのは、コソコソ周囲を嗅ぎ回られるよりも、こちら側に引き込んだ方が手っ取り早いと思ったからだ。ここまで来たんだ、今更手を引くなんてことは、まさかしねぇよな」


 威圧するような視線を向けてくるクルスに、しかしそれを正面から受けても、一切引くことのないユリウス。そして同じくキースとエルティナも、一歩も引くことなくそれを受け止める。


「よし。準備を整えてた後すぐに出発するぞ。それでいいかお嬢ちゃん」


「はい、構いません。では皆様、出立のご準備を。私も準備を終え次第すぐに戻ってまいります」


 そう言うとオリヴィアは、踵を返し広場を後にする。


「お嬢様も異界へ行くのかっ!?」


 驚きを見せるユリウスにクルスが声を上げる。


「はっ、てめぇはさっきの話聞いてなかったのかよ。 お嬢ちゃんは――いや、エヴィル家はこの為にこの地を任されているんだ。ソレに目を背けるなんてことは死んでもしねぇよ」


「ですが、お嬢さんはまだ子供じゃ……っ!」


「それでもだ。それがエヴィル家に課せられた使命なんだよ。それを他人がとやかく言うもんじゃねぇ」


「……っ」


 まだ年端も行かない子供を危険にさらすなど看過することが出来ないのだろう。眉をひそめ、苦悶の表情をする。


「心配するな」


 未だ納得できなといった様子のユリウスに、クルスは口角を上げてみせる。


「まだ幼くともエヴィル家の娘。お前に心配されるほどヤワじゃねぇよ」


 そう言うクルスの顔には、獰猛な笑みが浮かんでいるのであった。


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