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「まったくふざけるにゃだにゃ!!」


 苛立ちを隠そうともせず、ミィーケは頭から湯気を出し不満を口にする。そしてついでに目の前にある食べ物も口にする。


「怒るか食べるかどっちかにしろよ」


「うっさいにゃ!! 怒るとお腹が減るにゃ!」


 先程のゼタンの話を思い出し、ミィーケはさらに怒りを燃え上がらせる。それに比例するように食事をする手も勢いを増していく。


 街のとある料亭。そこでキース達は昼食をとっていた。普段食べぬような豪華な料理を前に、ミィーケはいつも以上に勢いよく食事をしている。


「それにしても、こんな高そうな店、本当にいいのか?」


「ええ、構いません。それに皆さんには組合が色々とご迷惑をおかけしてしまいましたし、ほんのお詫びと思っていただければ、こちらとしても助かります」


 ユリウスは笑いながら皆に料理を進める。この店はユリウスが贔屓にしている料亭で、今回の食事費用は全てユリウス持ちである。本人が言うには、先の組合での対応についての詫びと言っているが、それらは別にユリウスが謝罪する必要はない。そもそもノーリウス冒険者組合からして、今回の判断は適切でありキースもそれを認めている。にもかかわらず、ユリウスは自ら損な役回りを自ら申し出たのだった。


 最初は断ろうとしたキースであったが、それよりも早くミィーケがグイグイと前へ躍り出て、それを誘導するようにユリウスは手際よく店の手配をしていった。そしてあっという間にこの状況。完全に断る瞬間を逃したキースは、大人しくユリウスの好意を受け入れるのであった。


「それにしても、まさかここまで大事になっているなんて、思ってもみなかったわ」


「……本当、そうですね」


 エルティナの言葉に相槌をうつソフィアだが、その表情は暗い。ソフィアは貴族に対して辛い経験をした過去があり、その時のことを思い出してしまっているのだろう。


 キースはソフィアの肩に優しく手を乗せる。


「心配するな、昔とは状況が違うさ。それに、今のソフィアは一人じゃない。何があっても俺が守って見せるさ」


「キースさん……」


 キースの言葉にソフィアは幾分和らいだ表情をする。不安が完全に消え去ったわけではないが、笑顔を取り戻すことは出来たようである。


 豪華な料理を口にし、各々が料理を楽しんでいる中、ユリウスは優しい眼差しでミィーケに向けていた。ユリウスにしたら食べ慣れた料理よりもミィーケに集中する方が重要なようである。


 そんなユリウスを呆れ顔で見ていたエルティナであったが、ふとあることを思い出しそれを口にする。


「ユリウスさん。聞きたいことがあるんだけど、いいかしら」


「ええ、なんでしょうか」


「エヴィル男爵ってどんな人物なのかしら」


「エヴィル卿ですか……」


 先程までにこやかだった表情は鳴りを潜め、その眼差しは真剣なものになっていた。


「ジルク・ララ・エヴィル男爵。 エヴィル家はこのノーリウスの一地方を収めている貴族で、その家系は古く、このノーリウスがまだ大都市になる前からその地を国から任されているといいます。その歴史はこのノーリウスを治める領主よりも古いとされています」


「領主よりも、か」


「ええ、そう言われています。領主であるダンテ家がこの地を任されたのは約百年前だったと記憶しているのですが、その頃には既にエヴィル家はその一地方を治めていたといいます。爵位自体は伯爵であるダンテ家の方が上ではあるみたいですが、両家が明確な上下関係にあるというわけではないみたいです」


 爵位というものは貴族社会では絶対的なものであるはず。しかしユリウスの話を聞くと、どうやらそう単純な話ではないようだ。


「エヴィル家は代々武芸に優れた当主を輩出しているといいます。その腕は王国貴族随一と言われるほどで、王直属の近衛兵さえ凌駕するとさえ言われています」


「っ!?」


 王を守る近衛兵は王国の兵の中でも選りすぐりの精鋭集団だ。そんな集団をも凌駕するとは想像を絶する実力者といえる。そんな者が代々当主となるエヴィル家とはいったいどれほどのものなのか。そして


「そんなエヴィル家が今回の事件に関係しているのかもしれないのか」


 たしかにおいそれと手出ししていい相手ではないだろう。少なくとも、一介の冒険者でしかないキースには手も足も出ない相手だ。B級冒険者であるユリウスやエルティナであっても、気を抜くことの出来上ないであろう。


「そんなエヴィル家が、なんで薬物になんて手を出しているかしら。話を聞くに、そんな人物には見えないんだけど」


「ええ、私もそう思います。実際私は、エヴィル卿とお会いした事があるのですが、その風格は、噂に違わぬまさに武人そのものでした。ですので、今回の件について、どうしても彼の武人がそんな薬に関わるとは思えないんです。そしてその考えは、ゼタン組合長も同じだと思います。だからこそより慎重になっているんだと思います」


「そんなの関係ないにゃ!! あのじいさまはアホだにゃ!!」


 神妙な空気を吹き飛ばさんと言わんばかりに、ミィーケは爪を振り回す。その怒りは未だ収まっていないようである。


「お前なぁ……」


「いえ、ミィーケさんの言うことももっともです」


「ユリウス、うちのミィーケを甘やかすな。こいつは際限なく付け上がるからたちが悪い」


「にゃ! ウチは別に間違ったこと言ってないにゃ!!」


「ええ、その通りです」


「にゃ!!」


 先程の空気は何処へやら。すっかりミィーケの言いなりとなったユリウスに、キースは頭痛を覚えるのであった。





――――――――――――――――――――





 一通り食事も終え、室内でゆっくりと寛いでいると、部屋の扉を叩く音が聞こえてくる。そして扉を開け部屋に料亭の者が静かに頭を下げる。


「ユリウス様。お寛ぎの所申し訳ございません。ユリウス様、そしてお連れの方々にお客様がお見えになっております」


「お客、ですか?」


「はい。大変申し訳ないのですが、ご案内いたしますので、お越しくださいますでしょうか」


「……ええ、了解しました」


 店員が深く頭をさげる。


 連れてくるではなく、案内する――店員の対応にキースは眉をひそめる。


「なにやら胸騒ぎがするな……」


 胸に不安を抱えながら、キースはユリウスらと共に案内をする店員の後ろをゆっくりと付いて行くのであった。


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