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90 一時保留


 例の薬を使用していると思われる人物をまずは見つける。その為にキースらは、そういった人物が立ち寄りそうな場所に当たりをつけ、目的となる人物が現れるまで張り込みを続けた。酒場といった当たり障りのない場所から、人目をはばかる娼館といったような場所、そして正規ではないモグリの治療師といった所まで、各自キースらは目を光らせていった。


 薬の存在は隠すことは出来ても、人間そのものを消すことは出来ない。人は生きていく上で様々なものを必要としているのであるから。


 幸いなことに、キースらは目的となる人物を発見するこができた。日も暮れ辺りが暗くなる頃、その人物は裏通りに面している酒場へと足を踏み入れた。


 目標の人物を見つけることは出来たが、キースらはその人物に接触するということはしなかった。焦って接触し、行方をくらませられでもしたら目も当てられない。なのでまずは、じっくりと様子を覗う。そしてその後の行動を確認するために、見張りを代わりつつ、常に距離を保ちつつその人物を追跡していった。





 長く掛かるだろう思われていた調査であるが、想定していたより早く状況が進展したことに喜ぶキースであったが、しかし、それは次第に消えていった。新たに判明した事実にキースは、その不運に顔を歪めていく。


 今回の事件、キースはその背後に犯罪組織が関わっている可能性を考えていた。ある程度のことはキースも覚悟していた。しかし、後にもたらされた情報は、そんな簡単なものでは無いという事実を無情にもキースに突きつけた。


 目的となる人物を、細心の注意を払って尾行していった。しかしその行き着にまっていたのは、厳しい現実であった。


 「まさか貴族にまで繋がっているとは、な……」


 目標の人物は、ある貴族の屋敷に足を運んでいった。その貴族はノーリウス近郊に居を構えるこの国の貴族であり、そして歴史ある由緒正しい家柄であった。


 ジルク・ララ・エヴィル男爵


 ノーリウスの街を収める領主とは別に、この近郊の一部の守護を任されている貴族であり、爵位こそ低いものの、エヴィル家は武芸に優れた人物を代々に渡り輩出しており、その名はノーリウスでは一目置かれる存在であった。


 そんな貴族の存在が今回の件に関わっている。その事実は、キース、そしてユリウスに衝撃をあたえた。


 勘違いでしたで済ませるには、その存在はあまりにも大きすぎる。


 キースらは、さらに事を慎重に、より繊細に、確実なものとするべく、調査を行っていった。そして得られた結果として、それらは間違いでないという結論に至った。


 エヴィル男爵の屋敷に複数の人物が出入りしているのを確認したが、その人物の中に、薬物を使用していると思われる人物が複数含まれていたのだ。


 これを偶然で済ませるわけにはいかなかった。


 キースとユリウスは、この一連の調査をゼタン組合長へ報告。


 それを受け冒険者組合は、今回の件に対し、調査の一時保留を決定した。



「どういうことにゃっ!!」


 ゼタンが下した決定に対し、ミィーケは怒りを顕にする。その怒りは収まることはなく、勢いそのままゼタンに襲いかかる。その爪がゼタンに突き刺さる既の所で、間に割って入ったユリウスに止められる。


「にゃっっ!! 何するにゃ!! 止めるにゃっ!!」


「ミィーケさん、落ち着いて下さい」


「これが落ち着いていられるかにゃ!! このじいさまを八つ裂きにするにゃ!!」


「いやダメだから。落ちつけこのバカ猫」


「にゃぁぁ!!! バカはキースにゃ!! なんで落ち着いてられるにゃ!! このじいさまは見て見ぬ振りしようとしてるにゃ!! こいつの方がよっぽど愚かにゃ!!!」


 未だ収めぬ爪を振り回すミィーケをキースは後ろから抱えて抑え込む。手足をジタバタさせ逃れようとするが、流石に目の前で蛮行をさせるわけにはいかないので、開放することは出来ない。


「ミィーケ、いい加減にしろ。ここでゼタンさんを襲ったってなんにもならんだろう」


「ふしゃーーーっ!!!」


 牙を剥き威嚇するミィーケを抱きかかえたまま、キースはゼタンに視線を向ける。


「……ふぅ」


 深い溜息をついたゼタンは、椅子に深く腰掛け、そしてゆっくりと口を開いていく。


「まず勘違いして欲しくはないのだが、今回の件、ノーリウス冒険者組合は、黙りを決め込むつもりはない」


 疲れた表情をしているが、その瞳の奥には、力強さが宿っており、一切の衰えを感じさせないものであった。


「事が事だけに、安易に噂を広める訳にはいかぬ。まずはその真意を確かめるために、しっかりと地を固めなければならぬ」


「にゃ! じゃあにゃんで捜査を保留するにゃ!!」


「保留といったのは、あくまで薬物の調査についてだ。例の薬の流通、そして入手経路を調べるには、長い時間が必要となっていくだろう。今はそこに時間を掛けている余裕はない。今やるべきは、エヴィル卿がこの件にどう関わっているかを知ることだ。もし卿がこの薬を用いて犯罪に手を染めているという確たる証拠が掴めたら、然るべきところに然るべき報告をする」


「報告、ですか」


 ソフィアの言葉に、キースがその真意を伝える。


「いくら冒険者組合といえども、貴族を裁くことは出来ないからな。組合に出来ることと言えば、ことの顛末を伝えるぐらいなものだ。今回の事でいえば、ノーリウスの領内での出来事だから領主に、そして裁くとなれば王都へも報告しなければならないだろう」


 平民が貴族を裁くことなど出来ない。また貴族が貴族を勝手な判断で裁くことも出来ない。貴族を裁くことが出来るのは王族だけだ。もし今回の事件が犯罪に関わるもので、それが裁かれなければならないほどの罪であれば、それは国を巻き込むことになる。


 だからこそ、ゼタンはキースらが早まったことをしないよう調査を一時保留にしたのだろう。これは一介の冒険者がどうこうできるものではない。


「というわけで、キースくん等には申し訳ないが、しばしの間大人しくしていて欲しい。イデアラン冒険者組合には、私から手紙を書いておく」


「――――了解しました」


「にゃ!! キース!! 引き下がるにゃかっ!!」


 暴れるミィーケをキースはキツく抱きしめ抑え込む。ミィーケの怒りも最も。だが今は暴れていても仕方がない。内なる思いを静かに押し込めるのであった。




 今はまだ(・・・・)



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