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 厄介なものになる。ユリウスはそう考えていた。まさか自分の住むこの街でワケのわからない物が蔓延しているとは。


 麻薬に類される違法薬物などは、たしかにノーリウスにも存在する。というより大きな街でそういった物は完全に消し去る事の出来ない負の遺産である。実際それらにより命を落とした者をユリウスも何度か目にしている。


 しかし今回の出来事、これは今までのそれらとは少々系統が異なる。金の為のとも、快楽の為とも違う。何かがおかしい。その事にユリウスは薄ら寒いものを感じていた。


 知り得た情報をゼタン組合長に伝えると、ゼタンも表情を曇らせ、深くため息をつく。


「この街にそのようなものが入り込んでいるとは……。手紙を受け取った時は、まさかと思ったが。――――間違いではないのだな?」


「恐らくは」


 ゼタンはさらに深く息を吐き出す。顔の前で手を組み、目をつぶり何かを考える素振りをみせる。そして再び息を吐きだし、ゆっくりと目を開く。


「無闇矢鱈と蔓延しているわけではないのが、せめてもの救いか……」


「不幸中の幸いと捉えるべきですね」


 ユリウスと一緒に調査したキースは、今回の件を組織だったものだと捉えているようだが、ユリウスもその考えに賛同している。得られる情報が少な過ぎる。これは相手側がきちんと統制を取れているからこその状態だ。そして、忌々しいことに、統制が取れていことが薬物の拡散を防いでいることにほかならない。まさに皮肉そのものだ。


「ここまで深く潜っている奴らだ。とても素人とは思えん。しかし、そうなると幾つか疑問が出てくるな」


「疑問ですか?」


「ああ。その薬物、なぜイデアランに流出したのか、だ」


「……確かに」


 辺境の町イデアランでは、あまり統制が取れていないように思えた。そして実際に事件が起こり薬物の情報が発覚してしまっていた。もしイデアランでも同じように統制が取れていれば、今もその存在に気がつくことはなかっただろう。


「考えていても仕方がないか……。何故流出したかより、今どうすべきかを優先するべきだな。……目星はついているのか」


「完全とは言えませんが、ある程度は」


 ユリウスは取り出した書類を机の上へと差し出す。それを受け取ったゼタンは神妙な顔で書類に目を走らせる。


「……なるほど、よく調べている。さすが、と言うべきか」


 その書類には薬の使用者として怪しい者の名が幾つか記載されていた。殆どのものは見たこともない名前であったが、中にはゼタンも見たことがある顔も記載されていた。冒険者組合の組合長であるゼタンが知っている名前。つまり冒険者だ。


「あくまで怪しいとされる者の一覧です。まだ確証があるわけではありません。ですが、そこに記載されている者の多くが、最近表立っての活動を控えているようです」


「たしかに、最近組合に顔をだしていないようではあるな……。裏で何かしているということか」


「わかりません。ですので、それをこれから追跡調査する次第です」


「そうか。後の調査で何か判明したらすぐに知らせろ」


「了解しました」


 ゼタンは手にした書類を無造作に机の上へ放り投げる。そして何度目かになるため息をし、目をつぶり指でコリをほぐす。


「しかし、厄介なものを持ち込んでくれたものだ。イデアランの補佐長殿は……。いや、事件を明るみにしてくれた事に感謝するべきか……。そうなると大きな貸しを作ってしまったと考えるべきか。はぁ……年寄りはもっと労れというものだ……」



「補佐長……ですか?」


 その聞き慣れない役職にユリウスは首をかしげる。ノーリウスには無い役職だ。


「ああ、いまいましい若造だよ。いや、あれを若造といったらダメか。そんな可愛げのあるモンじゃないな」


 嫌なものを振り払うかのようにゼタンは手を動かす。そしてもう何度目かわからないため息をつき姿勢を正す。


「ところで、補佐長殿が寄越した冒険者だが。ユリウス、お前から見てどうだ」


「どう、ですか……」


 ゼタンの問にユリウスは、顎に手を置き考え込む素振りを見せる。


「そうですね……。一言でいうならば、面白いかと」


「面白いだと?」


「ええ」


 ユリウスは口角を上げる。そんなユリウスの態度に、ゼタンは意外だと言わんばかりの表情をする。


「正直言うと、評価に困るといったところですかね。まず中心人物であるキースさんですが、なかなかどうして。長年冒険者をやっているだけの事はありますよ。観察眼や分析力など、熟練者としての経験の為せる技かと。それに体捌きも堂に入ってます。しかしそれが冒険者としての実力……等級となると、どう捉えて良いものか。能力の有る者はそれとなく理解るんですが、彼の場合それが感じられないというか。いや、何かあるような気もしなくはないんですが、どうにも上手く掴めないといいますか。……正直下っ端の無能って言われても、納得しちゃいそうです」


「……なんだそれは」


 呆れるようにゼタンは顔をしかめる。ユリウス自身、言っていることが無茶苦茶だということは理解している。だがキースという男は、そんな印象を抱かせる。だから面白い、ユリウスはそう表現したのだ。


「面白いのは彼だけではないです。一緒にいるソフィアさんですが……彼女はすごいですよ。身のこなしから何から、まるでド素人だ。彼女はE級ということですが、まさにそれに見合う実力かと。むしろよくこの歳まで冒険者をやってこれたなと、それが不思議なぐらいです。ですが、そんな誰がどう見ても落ちこぼれの彼女ですが、その奥にかすかに匂う何か……。それが何なのか、よく分からないというか。こうなんて言うんですかね、喉の奥に引っかかた魚の骨みたいに、こう言いようのない何か。こう……なんていうのかな」


「……お前さっきから滅茶苦茶だぞ」


 もはや隠そうとはせずにゼタンは奇異の目をユリウスに向ける。それを受けユリウスは苦笑いするしかなかった。


「自分でもそう思います。ですが、そう表現するしかないんですよね。見た目はド素人で、その実中身もド素人。でもそれを断言できるかというと……。いや、断言できますね。彼女はド素人です。ですが、完全なる無能かといわれると、なんか不思議な感覚に陥るんです。そうですね……。今にして思うと、まとっている匂いがキースさんと似ている気がします」


 そう、ソフィアとキースはどこか似ている。何がとは言えないが、どこか繋がっているような、そんな感覚を覚えるのだ。


「あの補佐長が寄越した人物だけあって、一癖も二癖もある人物ということか……。まったく、イデアラン冒険者はどうなっているんだ。……そういえば、もう一人の冒険者、彼女はイデアラン所属の冒険者ではなかったな。確かエルティナと言ったか、その彼女はどうなのだ?」


「彼女ですか……」


 ゼタンがエルティナの名を出した瞬間、ユリウスの瞳がかすかに動いたのをゼタンは見逃さなかった。


「彼女がどうかしたのか」


「いえ……」


 しばしの沈黙、しかしそれも少しの間、ユリウスはゆっくりと口を開く。


「ある意味、彼女が一番面白いかもしれません」


「どういう事だ」













「断言は出来ないのですが、能力だけでいえば、もしかしたら……彼女が一番下かもしれません」






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