83 食時は戦争
「えっと……」
これはいったいどういう状況なのだろうか。そう思わずにはいられないソフィアであるが、それを口にすることはなくただ黙ってその状況を傍観することしか出来ないでいた。
エルティナの昇級祝い。兼親睦会ということでキースら一行は町のとある店に足を運んでいた。そこでこれから一緒に行動するであろうエルティナ、ミーケ、そして新たにソフィアを誘っての食事である。
というのに、今この場に流れる空気は少々おかしなものとなっていた。ミィーケとエルティナが互いに不満でもあるかのように膨れっ面をしているのである。
「まぁ気にするな」
それに対しキースはこの状況をなんでもないと言った風に流している。
「折角の昇級祝いなのにいつまでも膨れっ面でいるんだ。そろそろいい加減にしないか」
「ですけどっ!」
「フンっにゃ。ウチは悪くないにゃ。エルティニャが一々突っかかって来るにゃ」
「それはアナタがっ!」
「だからいい加減にしろっていってるだろ。いつまで繰り返すつもりだ。これ以上続けるっていうなら追い出すぞ」
「あっ……、その、すみません……」
顔をふせ落ち込むエルティナに対しミィーケはどこ吹く風といった感じである。
「昇級祝いなのに当の本人を追い出してどうするにゃ。キースはバカだにゃぁ」
「本当その通りだよ。だから俺にそんな馬鹿な真似をさせないでくれ」
「にゃ」
「私の為に場を用意して下さったのに……本当にすみませんでした」
「わかってくれたならいいさ。さてと、それじゃあさっそく美味い飯にありつこうじゃないか」
キースは卓の上に並べられた料理に視線を移し、皆に食べるよう促す。
「一応名目上は昇級祝いだからな。支払いの事は気にするな」
「にゃにゃ!!」
ミィーケがその大きな目を見開きキラキラさせる。
「キースの奢りだにゃ!?」
「いや、これは昇級祝いだ。該当するのはエルティナだけだ。よってミィーケは自腹な」
「フシャーーーー!!!!!!!!!」
ミィーケが毛を逆立て頭に噛み付いてくる。鋭い牙が、爪が、容赦なく突き立てられる。
「痛っ!! お前それ本気で噛み付いてるだろっ!!」
「フシャーー!!」
「野生化するなこのバカ猫っ!!!」
「フシャーーッ!! バカはキースにゃっ!!」
ミィーケの首根っこを捕まえ無理やり引き剥がす。爪をこちらに繰り出そうと手足をジタバタさせながら未だ怒り心頭なミィーケにキースはげんなりしながらミィーケを放り投げる。ミィーケは空中でクルリと体勢を整えるとそのまま音もなく着地する。
「お前は限度というものを知れ。うぉっ!? 血が流れてるっ!!」
「にゃ! 自業自得だにゃ!!」
「ったく、ちょっとした冗談だってのに。俺から言い出した昇級祝いだし、元より支払わせるつもりはねぇーよ」
「にゃっ! だったら始めからそう言えば良いにゃ! やっぱりキースはバカにゃ!!」
プンスカと怒りながらミィーケが席につく。そして怒りを鎮めるように目の前の食事に手を付ける。
「キースさん」
「ん? ああ、もう平気だ。ありがとうな」
ソフィアが心配そうにこちらを伺っている。だが既に傷口はふさがっている。なので感謝の言葉を口にしたのだが、ソフィアは違うと言わんばかりに口を開く。
「ミィーケさんをからかうのは良くないと思います」
「え? いや、その…… すまん」
どうやら心配して声をかけたのではなく、キースを嗜めるためにこえをかけたようだ。
「―――クスッ」
口元を手で隠し小さく笑うソフィア。そしてそのまま自分の席へと戻っていく。
「ではせっかくのお料理ですし、遠慮なくいただきますね」
「ああ、思う存分食べてくれ」
そうしてミィーケに続きソフィアも食事に手を付け始める。
勢いよく盛大に料理を掻っ込むミィーケとは対象的に、小さく一口ずつ味わうように食べるソフィア。しかしその両者共に美味しそうに料理を食べている。
「エルティナも遠慮せずに食べてくれ」
「は、はい」
これまで遠慮がちだったルティナも、ソフィアとミーケの姿を見て、それではと自分も料理を口にする。
「モグ……っ! 美味しい」
「そうだろう。ここは俺一押しの店だからな」
キースはエルティナに自慢げにする。ここはキースが贔屓にしている店の一つである。実はこの店は普段から通っているような店とは違い、そこそこ値の張る店であるため、キースも少しばかり気分がノッていたりする。だからこそミィーケに冗談めいたことを言って痛い反撃をうけてしまったのだが。
「でも、良いんですかキースさん。このお店ってすごい、その……」
心配するようにエルティナが聞いてくる。それも当然のことで、普通の下っ端冒険者からしたら少々、というか結構奮発しなければ、店に入るのをためらってしまうだろう。
「大丈夫、心配するな。だから遠慮なく楽しんでくれ」
ある裏技がキースには存在していた。実はキース、この店に食材となる品を卸していたりするのだ。それはいわゆる嗜好品といった類の薬味や香辛料であり、他では手に入りにくいようなものを、定期的に届けているのであった。その関係から、店側が幾らか安く料理を提供してくれいてるのだ。無論それでも決して安くはないのだが、たまの贅沢としてキースはこの店を稀に利用しているのであった。
そして実は、何度かソフィアを店に連れて来たりもする。なのでソフィアは比較的慣れた様子で料理を嗜んでいる。
そして、初めてこの店に来たミィーケはというと
「うみゃぁぁぁあああああああ!」
「これもうみゃぁぁーー」
「こっちもおいしいにゃぁぁ!!」
「にゃにゃにゃ!! にゃっっにゃっっにゃ にゃ にゃあ にゃ!!」
先程からよくわからない状態で、ただただ料理を貪っていた。もしこれが大衆の目がある中であれば、流石に放っては置けないのであったが、幸いなことに今は個室であるため、周りの目を気にすることなく料理を楽しむことが出来るのであった。
だが、にしても――――
「少しは落ち着け」
いくらなんでもがっつき過ぎである。
「うみゃ!!?」
ミィーケの首根っこを再び掴み上げ、強制的に食べるのを止めさせる。
「みゃ!! にゃにするにゃぁ!!!」
「だから落ち着けって言ってるだろう。もう少し味わって食べろ」
「味わってるにゃ!! 十分美味しいにゃ!!! うみゃーーにゃ!!!」
ジタバタして抵抗するミィーケに、キースは呆れながらも言葉を投げかける。
「だから大人しく食えっていってんだ。何も料理は逃げたりしないぞ」
「何いってるにゃ!! 食時は戦場だにゃ!! もたもたしてると逃げられるにゃ!!」
とうとう何を言ってるのか判らなくなってきた。殺気立って意味不明なことを口走るミィーケに、成すすべなしと判断したキースは大きくため息をつく。
目の前にある料理の一つを手にし、そしてそれを口へと運んでいく。
「もぐ ん、やっぱりこの店の料理は美味い―――」
「みゃぁぁあああああああーー!!!!」
ミィーケが爆発した。
「みゃぁーーっっ!! ウチが目をつけていたヤツにゃぁぁああっっ!!!」
「オゴッッ!!!?」
ミィーケがキースの口の中へ勢いよく手を突っ込む。いきなり喉に手を差し込まれたキースは激しく混乱する。だがそんなキースを無視してミィーケはさらに手を突っ込み、そして口の中にあった料理を無理やり引き抜くとそれを自身の口へと運んでいく。
「うみゃーー!! うみゃーにゃ!! にゃにゃ!! ニャ!! 料理は逃げるにゃ! やっぱり食時は戦場だにゃ!! 」
キースの手から逃れ、そして再び料理へと向かうミィーケ。
「………」
あまりの状況に目を白黒させているソフィアとエルティナ。
そしてキースはというと
「―――――――――――――――汚ぇ事してんじゃねぇええっっーーー!!!」
久しぶりにキレた
ミィーケが書いていて一番楽しいです。




