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65 行き倒れ

今回からまた新たな話になります。






「ふあぁ……」


「なんだ、寝不足か?」


「いえ、そういうわけでは無いのですか」


 上品に口に手をあてつつ欠伸をするシャルティエルが少し恥ずかしそうにしている。すでに陽の光が森の中を明るく照らしてはいるが、早朝であることには変わりない。そんな時間での採取に思わず欠伸が出てしまったのだろう。


 欠伸をするシャルティエルを横目にキースは辺りに生えている薬草の採取を続ける。日常業務となっているキースとしては早朝での作業もさして苦でもない。だが慣れぬ者にとって慣れぬ単純な作業、いや単純だからこそ眠くなるのも仕方がないのかもしれない。


「別に無理に作業する必要はないんだからな。それでなくても君は身体が弱いんだ。無理をすると体調を崩してしまうぞ」


 シャルティエルがこうして屋敷の外に出て活動するようになったのがつい一月前、それまでは完全な引きこもりであった。そのため一般女性よりも体力面では劣っている。身体を上手く動かすことの出来ない状態が長い期間続いていたのだ、それも致し方ないであろう。


 そういった事情もあり、シャルティエルは体力を取り戻す為に積極的に身体を動かすことを行なっている。こうしてキースの薬草採取に付き添っているのもその一環である。


「ご心配ありがとうございます。ですが本当に平気ですので」


「そうか。だが無理はするなよ。シャルティエルが倒れて悲しむのはセルバさんなんだからな」


「そこは自分に心配かけさせるなぐらい言うのが紳士というものですよ」


「お生憎様、俺は紳士なんて出来た生き物じゃないからな」


「だからいつまでもお一人なんですよキースさん」


「俺はそれでいいの。気楽な独り身が性に合っているんだよ」


 軽口を言い合う二人。キースもシャルティエルも相手に気兼ねなく言葉をぶつけ合う。そこに他人行儀という壁はもやは存在していなかった。


 二人で必要量の薬草を採取し終えると、集めた薬草類が入った籠を個々で背負っていく。薬草ばかりの採取なのでそこまでの重量があるわけでもないが、それでも背負う事に一苦労のシャルティエルである。今でこそ一人で背負えているが、初めはふらつく足取りで時に転倒するといった事もあった。それを目にしたセルバが慌てふためく騒動があったのも今では笑い話である。


 そんなお騒がせのセルバだが、今この場には居合わせていない。最初はシャルティエルに随時同行していたのだが、それではシャルティエルの為にならないと、本人が同行を拒否したのだ。というのも、セルバはシャルティエルがやることなす事一つ一つに口を出してしまうのである。その様子は傍から見てもやりすぎ、超過保護なのだ。


 これまでのシャルティエルの境遇からしたら、それも仕方がない事ではあるのだが、今のシャルティエルは自分の事は全て自分でやるという意志がある。そんなシャルティエルからしたら、過保護のセルバは少々邪魔なのである。


 キースもその考えに賛成である。それにキースからしたら、何かあった際にシャルティエル一人守るのであればなんとでもなるが、そこにセルバまでとなると少々キツくなってくる。セルバは執事としては超が付くほど優秀であるが、こうした身体を動かす野外での活動にはいささか心もとないのだ。


 シャルティエルはこの瞬間を楽しんでいた。


 動かせない身体が少しずつ動かせるようになっていく楽しみ。自分の知らないことを知れる楽しみ。自然の中をゆったりと過ごせる楽しみ。


 心から笑い合える存在がいる楽しみ。


 これまで得ることのできなかったそれら。そんな些細なこと。それら全てがシャルティエルの心を満たしていった。


「……なにニヤけてるんだ?」


 キースにそう言われシャルティエルは自分が笑っていることに気がつく。


「――――秘密です」

 

 そんな会話ですら楽しんでした。







――――――――――――――――――――






 薬草採取を終え町へと戻ってくる。その頃には日は完全に天高く昇っており、もう少し時が過ぎれば昼の鐘がなる頃合いである。


 昼は何を食べようかと考えているキースは、ふと何かを目にしてその歩みを止める。


「キースさん、どうしました?」


「いや、あれなんだが……」


 キースの視線の先へと同じ用に目を向けるシャルティエル。そこで彼女も何かを見つけたようだ。


「……」


 二人でその物へと近づいていく。初めは何か大きなものが捨てられてると思っていたキースだが、近づくにつれてその考えが間違っていることに気が付く。


 それはほんの僅か、微かに動いていた。


「…………行き倒れか?」


 そういってゆっくりと近づいていく。隣にいるシャルティエルはびっくりしている様子であったが、キースはさして驚いてはいなかった。この辺境の町イデアランにはそれほど数は多くないが浮浪者がいないわけではない。職を失った者、脛に傷を持つ者、社会からはみ出たもの。理由は人それぞれだが、それらは決して珍しくはないのだ。


 それなりに大きな規模の街や、それこそ王都ともなると数千を超す人数だと言われているが、辺境の町イデアランではそこまでではない。


 だがそれでも、ここまでおおっぴらに行き倒れるのはなかなかお目にかかれるものではない。


「おーい、あんた。大丈夫か?」


 倒れている者に声をかけるキースだが、いまいち反応がよろしくない。そこでもう一度声をかけようとして、キースはあることに気がつく。


 その倒れている者、その体躯が少々小さいことに。


「……まさかガキかっ!?」


 子供の浮浪者、孤児。そんな考えが頭をよぎりキースは慌ててその倒れている者を抱きかかえる。目深に被ったローブで顔が隠れているのでその容姿は見えないが、抱いた感触から、それがかなり軽いことに気がつく。


「おいっ! 大丈夫か!!」


 キースの必死の声かけに、その者が身じろぐのが分かった。だが返事はない。


「聞こえるか!? しっかりしろっ! おいっ――――――」






 ぐぅぅぅぅ~~~~~~







 間抜けな音が鳴り響く。キースの問いかけに応えたのは口からではなくその更に下、腹のそこからであった。


 今なおぐぅぐぅ鳴る腹を小さな手で押さえながら、その者が小さな声を絞り出す。そして動いた拍子に深く被っていたローブがするりと脱げ、その小さな顔が露となる。


「お腹……へっ……たにゃ……」








 そこにいたのは、猫族といわれる亜人であった。

 


 


新キャラクターの登場です。

さて、この亜人さんどんな容姿なのでしょうかね。


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