表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/115

49 砕かれる想い

 セルバの悲痛な叫び、そこに含まれる様々な感情。それは簡単に言い表せられるものではない。


「セルバさん……」


「無茶な願いだとは重々承知しております。これがキース様にとっては何一つ得にはならないということも。ですが、それでもっ! もし力をお貸し頂けるのであれば、キース様には相応の対価を支払わせて頂きます! 金銭に困らないだけの額もお支払いいたします! 私に出来ることであれば何でも致します! ですので、どうかっ! ご一考いただきたくっ! 何卒! 何卒っ!!」


 セルバがどのような想いで頭を下げ、どのような感情で懇願しているのか、キースにはわからない。しかし、その必死な様子は嫌というほど伝わってくる。もし己の命でどうにかなるのなら、すぐにでもその生命を差し出すであろう。それほどのものがこの懇願に込められていた。


 だからこそ、キースは事実を伝えなければならない。


「頭を上げて下さい。セルバさん貴方のその想い、生半可なものではないと伝わりました。そこに込められた想い、私には想像もできません。私としても、可能であればお力になりたいと思います。ですが………その願いを叶えることは出来ません」


「……っ」


「聞いて下さい。確かに私にはあるスキルがあります。それは【身代】というものです。これは他者が負った傷をこの身に移すというものです。先のワイバーンではそのスキルを使い、仲間の冒険者の傷をこの身に受けました」


 冒険者の中には己の能力を秘匿するものも少なくない。むしろ多くの冒険者は自身の能力の一部を秘匿していると言っていい。それは危険に身を置く者として当然のことである。


 その最たる例がソフィアの能力だ。彼女は冒険者として生きていく上で、自身の能力をひた隠しにしていた。そしてその能力の真の意味が判った今では、より一層スキルのことを隠さなければならないだろう。


 しかし、キースはこの【身代】を別に秘匿したりはしてない。この身代にそれほどの価値はないし、格別強力な能力という訳でもない。実際冒険者仲間の前でスキルを使ったことも何度かある。


 だが冒険者全員がキースの能力を知っているわけではない。なんとなく知っている程度の者もいるだろう。いや、詳しく知っている者の方が少ないと言える。だから、そうした噂程度情報の中で、キースのスキルの能力を勘違いしている者も幾らか存在している。




 どんな怪我でも身代わりすることが出来る……と。



 それは大きな間違いだ。


 まず大前提として、キースは誰にでも簡単にスキルを発動させる、というわけではない。当たり前だ。己が傷ついて喜ぶ者などいやしない。特殊性癖の持ち主でも無い限り。当然キースもそうだ。他者よりも自身の安全の方が優先される。そうでなければとうの昔にキースは死んでいたであろう。


 そして使う状況も限られる。冒険の中で傷つき、身代わりを使わなければその場を切り抜けられない、という場面ではスキルを使うことも有る。だが、安全な町の中で、特に身代わりが必要でもない場面、そこにはスキルを使う意味がない。怪我をした者が自分で医師にでも行って治療すればいい。身代わりを使った所で、どのみち後でキースが治療院などに行って治療してもらわなければならないのだ。ならば大人しく最初から自分で治療に行けというものだ。


 また次の問題もある。気軽に身代わりを行うと、安易にスキルを使用してもらおうとする者が現れるということだ。一度使用すると、次も同じ用にしてもらえると考えてしまうのも不思議ではない。そしてそれは第三者にも言えることだ。アイツが回復してもらった。だったら自分も同様に回復してもらえる。そういう思考に行き着く者もいるだろう。事実、そういった事を何度もキースは経験している。アイツはよくて何故自分は駄目なのかと。それは自身に限ったことではない。仲間を助けてくれ。身代わりになってくれ。そう詰め寄るものも過去にいたのは事実だ。


 今セルバが行っている行動がまさにそれである。想いの大小こそ違うかもしれないが、その根本は同じである。


 キースが何も考えることなく、自身の身体より優先して無条件でスキルを使う者など、殆どいないといっていい。自分の命より大切な人。そんな者片手で数える程度しかいない。


 当たり前だが目の前のセルバ、そしてその主人であるシャルティエルはそこに含まれない。酷な言い方かもしれないが、ただの他人なのだ。


 そういった理由からキースはスキルを使う状況を限定している。掠り傷程度であれば使っても良いのかもしれないが、今回のそれは明らかにその範疇から越えている



 だがしかし、それよりも、何よりも、今回は身代わり出来ない大きな理由があった。それは決して覆すことのできない、どうすることも出来ない理由が。


「この能力をシャルティエルさんに使うことは出来ません。これは、いくら頼まれても出来ない……いえ、能力そのものを使うことが出来ないんです。俺のスキル【身代】は確かに怪我を移すことが出来ます。ですがそれは、怪我を負ってから時間が経っていない場合に限ります。長く時間が経過してしまったものは、身代わりをすることが出来ないんです」


 それが今回身代わりを使うことの出来ない最大の理由。そもそもが無理なのだ。


 傷を負った。そしてその傷は治った。そこに身代わりなど仕えるわけがない。それは治らなくても同じことだ。傷を負って時間が経つと、その状態が定着したものと見なされるのだ。詳しい理由や原理などはキースもわからない。そもそもスキルなとどいう能力は不明瞭な部分が多いのだ。本人さえ知り得ないことなど多岐にわたる。


 そしてこれまでいろんな事を体験し、経験したことで判ったこと。それが時間の経過によって身代わりが不可能だということだ。


 どんなに状況が良くても十日を過ぎるとスキルは発動することはない。また、時間が経過していなくても、無理に治癒したものは身代わり出来ない。例えば骨折した場合、その箇所を適切な処置をしないまま治療し、骨が曲がった状態骨折が治ったとする。骨は曲がったままだ、完全に治癒されたわけではない。だがそこにスキルを使っても発動はしないのだ。




 シャルティエルの熱傷は時間が経ちすぎている。そしてその傷は既に治癒されている。シャルティエルの状態ではスキルを使うことが不可能なのだ。


「シャルティエルさんの傷は、負ってからかなりの年月が経っています。だからそれを身代わりすることは出来ないんです」


「なっ……」


 顔を上げたセルバ、その表情には絶望の色が浮かんでいた。


「そ、それは……本当、なのですか……」


 キースはゆっくりと頷く。


 セルバが崩れ落ちるようにしてその場にうずくまる。


「なんという……。それでは……、それではお嬢様は……」


 うずくまるその姿。そこには毅然とした執事の姿はなかった。その声は震えていた。その肩が震えていた。ただ一人の、弱々しい、初老の男性がそこにいるだけだった。











また新たにブックマークをして頂きました。

ありがとうございます!

大変嬉しく、そして励みになります。

これからも引き続きよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ