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41 謎の馬車

 何時もは静かなこの見張り場ではあるが、流石に目の前の光景を目にしてそうもいってられなだろう。


「ったく何やってんだ!!」


 男はすかさず指笛を吹く。これは異常事態発生を知らせる合図であり、それを聞きつけた兵士達は即座に行動に移る。


「どうしたっ!!」


「馬車が一台近寄ってくる。後ろに複数の魔物確認、あれは__グレイドッグ! 数は8匹!」


「ちっ、群れを引き連れて来ちまったか。トーリ、すぐに出るぞ!」


「おうっ! キースは弓で援護を頼む! その後馬車が着いたら誘導を!」


「了解した!」


 兵士たちが柵の前にあつまる。それに合わせて門が開かれそこから救援するために兵が飛び出していく。


 キースは見張りの高台から弓を構え、いつでも援護できるように準備する。


 そうこうしている内に馬車がどんどん近寄ってくる。悪路をかなりの速度で走っている。よくここまで無事に走行できたものだ。よほど御者の腕がよいのだろう。


「こちらはイデアラン国境警備兵だ!! 御者! このまま詰所まで突っ走れっ! 後ろのはこちらが対処するっ!」


「感謝いたしますっ!!」


 兵が疾走する馬車の側まで駆けつけ、そのまま走り去るように促す。その言葉を受け、御者は速度そのままに疾走する。


「ズアァァァっ!!!!」


 馬車とすれ違った兵の一人が、剣を振り抜きグレイドッグの一体を切り捨てる。続いて返す剣で、後ろを走っていたグレイドックにその切っ先を向ける。勢いよく走っていたグレイドックは、その勢いを殺すことが出来ずそのままその首をはねられる。


 続けざまに仲間を二匹切り捨てられたグレイドックは、足を止め警戒するように兵の一人を取り囲む。その脇を迂回するようにして一匹が馬車を追いかける為に走り抜ける。しかしその一匹は、後方から続くように駆けていた兵の一人に素早く貫かれてしまう。


「こっちだ! 早く通れ!!」


 疾走して近づいてくる馬車にキースは高台の上から声をかける。そして柵を越えた馬車を定位置まで誘導すると、すぐさま持ち場に戻り突撃した兵へと大声をあげて声をかける。


「馬車の回収は済んだっ!!」


「了解っ!!」


 キースの言葉を受け、グレイドックと対峙していた二人の兵が後ろ向きのまま柵の所まで後退していく。後を追いかけようとするグレイドックを、見張り台の上から矢で牽制し、その行く手を阻む。すでに5匹のグレイドックを切り捨てており、残りは少数となっていたが、だからといって無理に突撃して対峙する必要はない。


 二人が無事柵を越えた所で、すぐさま門を閉じ魔獣の侵入を防ぐ。


「要警戒!」


 見張り台の上から警戒するようにして森の中に目を向ける。そこには茂みの影から複数のグレイドックが姿を現すのを確認できた。


「やはりまだ潜んでいたか。」


 もし目の前に現れたのがやつらだけだと勘違いし追撃をしていたら、いらぬ痛手を負っていた可能性があっただろう。その危険性があったから先の二人は無理に深追いせず後退の道を選んだのだ。引き際を間違えると命に関わる。それを見誤る間抜けではないということだ。


 柵の前を唸りながら徘徊しているグレイドッグであったが、やがて諦めたように森の奥へと引き返していく。


「行ったみたいだな。」


 見張り台に登ってきた兵の一人がキースへと声をかける。


「ああ、だがまだ警戒はしておいた方が良いだろう。」


「そうだな。キース、丁度いい時間だしこのまま見張りを交代しよう。」


「了解した。」


 見張りを交代し高台から降りたところで、丁度突撃した兵士の姿を確認する。


「お疲れ。」


「おうっ! キースも援護ありがとうな!」


「あんまし役に立った訳でもないけどな。」


「そんな言い方するなっ。役に立たない奴なんてここにはいないぜ。」


 ニカッと気持ちの良い笑顔を見せる。先程の欠伸をしていた間抜け顔とは同じに見えない。その変わりようにキースは思わず苦笑いをする。


「ああそうだ。ちょうど見張りを交代したところだから、トーリお前もそのまま交代した方がいいだろう。」


「おっ、そうか。了解した。引き継ぎをしてくるわっ!」


 そう言ってトーリは駆け足で走り去っていく。その後姿を見送ったキースは、踵を返しその場を後にする。


 このまま休憩をとっても良いのだが、あることが気になったキースはその足をある場所へと向ける。そして少しの時間とかからずにそこへ到着する。


 そこには一台の馬車が止められていた。そう、先程魔物を引き連れ詰所に駆け込んできたあの馬車だ。そしてその馬車を見てキースは少々眉をひそめる。


 その馬車は少々立派過ぎた。


 もしこれが流れの行商人の馬車であれば、もっと汚い__言い換えれば汚れており経年劣化もあるだろう。羽振りのよい大商人などならばこのような馬車にのる事もあるだろうが、そもそもそんな人物はこの道を通らない。それに、商人ならば荷馬を引き連れていなければそもそもおかしい。


 金をもっている商人ではない。しかしこの馬車の質の良さ。


「……貴族…か?」


 それも訳あり。


 馬車には紋章などは掲げられていなかった。もしこれが普通の貴族ならば、紋章を掲げないなどということはあり得ない。それに護衛もつけないというのもあり得ない。供回りも付けないなどもそうだ。


「先程は、ありがとうございました。」


 馬車に近づいたキースに声がかかる。そちらを向くと、先程御者をしていた人物が頭を下げてお礼をしているところであった。


「いや、礼にはおよびません。」


 キースはその御者を観察する。齢六十位といたっところだろうか。白い頭髪は後ろに綺麗に流されており、口元の髭も綺麗に整えられている。顔には浅くないシワが刻まれているが、それが年寄り感を出しているかと言われるとそうではなく、そのしっかりとした体躯、背筋の伸びた姿勢、そしてその瞳に宿る力強い意志、そらは決してただの御者のソレではなかった。仕立てのよい服を完璧に着こなすその姿、おそら貴族に仕える執事といったところであろう。


「お怪我はありませんか?」


「はい。」


「そうですか、それはよかった。」


 キースはちらりと馬車の方へと視線を向ける。


「ご心配ありがとうございます。ですが皆様のお手を煩わせるようなことはございません。」


「___そうですか。もし何かありましたら、遠慮せず声をかけて下さい。」


「ありがとうございます。」


 その後駆けつけた兵による聴取が行われるが、ただの冒険者であるキースの与り知るところではない。


「……面倒事にならなきゃいいだがな……。」


 離れた所で聴取の様子を眺めているキースは、一人そう呟くのであった。




なんだかんだで毎日投稿出来ていますね。

ただこれがいつまで続くか……(汗


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