34 幽霊の帰還
「なっ! お、おいっ! キース! お前生きて……っ!?」
ワイバーン調査を終え町へと戻ると、そこでキースは守衛から思いもよらぬ言葉をかけられる。そのあまりの驚きように、こちらが心配になってしまうほどだ。
「とりあえずとりあえず落ち着けっ! 何をそんなに驚いて……あ、いや。実際大変ではあったんだが。」
キース等はワイバーン調査として森に探索しに行っていた。運悪く__この場合運が良かったと言うべきか、そこで調査対象のワイバーン及び新たな個体と遭遇したのだった。しかしそのことをまだ組合には報告していない。ではなぜこんなにも驚いているのか。
「落ち着けって…っ! 驚くに決まってるだろっ!! ワイバーンに遭遇して死んだって聞かされたぞ!!」
「はぁ!? なんだってそんな事に……」
既にワイバーンに遭遇したことをこの守衛は何故か知っているようだ。しかし、キースが死んだというのは……。そこで、キースはある事を思い出す。
「あぁ、ザイルから聞いたか。確かにあの状況ではそう捉えられても仕方がないか。いやまぁ、実際は結構危なかったんだがな。だがこうして生きて帰ることが出来たよ。」
ザイルはあの状況で撤退という手段を取った。もしかしたらザイルがその時の状況を組合に報告したのかもしれない。キースはそう考えていたが、おそらく間違いないのだろう。
「そ、そうかっ! いや無事で何よりだっ! 町の方では今かなり混乱しているから、とりあえず組合に行って報告してこいっ! こちらも上にお前が帰還したことを報告しておく。」
「了解した。」
守衛に見送られる形で町中へと足を進める。
「とりあえず、俺とエルティナはこれから組合に経過を報告しに行くが、シルビァーナとソフィアはどうする。」
「そうさね……。」
シルビァーナはソフィアの方を一瞥する。
「私は一度ソフィアを連れて治療院に戻るとするよ。この子も色々と疲れているだろうしね。その後改めて組合へ顔を出しにいくよ。」
「そうか、わかった。ではまた後でな。」
二人に別れを告げ、キースは組合へ向かう。道中幾人かに声をかけられ、そこでまだ生きているということを伝える。皆驚いたような顔をしているので、どうやらキース死亡説がそこそこ浸透しているようだ。
「いや、そりゃまぁ、一度死んだってのは、あながち間違いではなのかもしれないけど……」
「え? 何かいいましたか。」
「あっ、何でもないさっ。」
あははと笑って誤魔化し、そそくさと足を進める。
冒険者組合にたどり着いたキースは、そのまま組合の門を開ける。建物内に入ると、冒険者がいくつかの塊に別れて話し合いをしていた。そして、その一部が入室してきたキースの存在を確認すると、これまで町で会った住人と同じように驚いた声を上げる。
「き、キースさん!??」
その中の一人、比較的若い冒険者の青年、いや年頃でいえは少年に近いのかもしれない___大声を上げてキースへと近寄ってくる。その目は大きく見開かれている。
「なんだそんなに驚いた顔をして。まるで幽霊にでも遭遇したような表情しているぞ。」
「幽霊……」
チラリと足元をみる少年。そんなふざけた態度をとる少年にキースは頭にチョップを食らわせる。
「ぎゃふんっ!」
「足元を見るな足元をっ!」
「だ、だってっ……!!」
頭を押さえ涙目になりながら、少年は口早に言葉をまくしたてる。
「森の調査に行って、そこでワイバーンに遭遇して……それで、それで……!」
「まぁ落ち着け。ワイバーンに遭遇したのは事実だ。だがこうしてちゃんと生きてる。」
キースは自分の足を手で叩き、その存在を証明してみせる。
「そっか……。キースさんが生きててよかった……。」
「心配かけて悪かったな。」
「いえ、そんなことないですっ。」
キースが少年と会話をしていると、周りで様子を伺っていた他の冒険者もキースの側に近づいてくる。
「しかし、よく生きて帰って来れたな。」
冒険者の一人が、キースにそう話しかける。この冒険者の考えはもっともで、普通に考えれれば低級のキースではワイバーンに遭遇して生きて帰れる確率は高くない。
キースは今回の遭遇戦にあたって、高級冒険者であるエルティナの存在、そして途中からシルビァーナが救援に駆けつけて来たことを説明する。キースの説明にそこにいた多くの冒険者が納得の表情を浮かべる。
「なるほど。シルビァーナさんが助けてくれたのか。あの人は本当に凄まじいな。ワイバーン相手に立ち回れるなんて、この町にどれだけいるか。」
「それもそうだが、そのお嬢ちゃんもスゲェな。」
「おおっ! そうだそうだ。 まさか、こんな若い嬢ちゃんが上位冒険者とはな。こりゃスゲーぜ。」
「ああ、本当だな! こりゃこの町に新たなB級冒険者の誕生か!?」
「おおぉ!!」
周りの冒険者が、がやがやと騒ぎ立て、エルティナの肩や背中を叩いて囃し立てる。突然のことにエルティナは目を白黒させて驚いている。
「え? あ、えぇ?」
「ったく。キース、お前も随分情けねぇなー。一回り以上年が離れてる娘さんに守ってもらうなんてなぁ。」
「本当だぜ。こりゃいよいよ冒険者引退かぁ?」
「うるせーっ!」
痛いところを突かれ、キースは周りの冒険者に食って掛かる。そこへエルティナが慌てて口を挟む。
「そ、そんなこと無いです! キースさんは私の事何度も助けてくれました! 情けなくなんてありません!! 私なんかより全然立派ですっ!!」
「実力者の上に、こうして年長者を立てるなんて……。なんて健気でいい子なんだ……。おじさん感動しちまたちょ…。本当キースとはえらい違いだなオイっ!」
「いい加減腹たってきた……っ! キース、てめぇにはこんな良い子もったいねぇ! 一人でくたばってろ!」
「なんだとこの野郎!?」
キースが他の冒険者と揉み合いになっている所へ、エルティナが間に入るように割って入る。もみくちゃにされながらも、なんとかキースを引き剥がし、額に汗を流しながらも言葉を強く放つ。
「キースさん! あんなに沢山怪我を負ったんですから、まだ安静にしてなくては駄目ですっ!」
「い、いやっ、もう怪我は……。」
「駄目ですっ!!」
「あ、はい……。」
一回り以上も年が離れている女の子に怒られるキースの姿を見て、周りの冒険者が笑っていると、そんな者たちにもエルティナは声を荒げる。
「みなさんもです!! あまりキースさんに負担をかけさせないで下さいっ!」
「「あ、はい……。」」
一回り以上も年が離れている女の子に怒られる冒険者たちの姿を見て、キースは笑い顔___をするわけもなく、同じようにションボリ顔である。皆そろって情けないことである。
そんな情けない集団の中、この騒ぎに加わっていなかった冒険者の少年が、ポツリと言葉をつぶやく。
「本当に無事でよかった…」
そして、次の言葉に周りの冒険者の雰囲気が一気に豹変した。そこに含まれる感情には怒りや殺気が含まれていた。
「___アイツの言った言葉は、何もかも間違ってた。」
次の投稿は今夜20時頃を予定しております。




