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33 決着

 ワイバーンの爪を真正面から受け止めたシルビァーナは、獰猛な笑みを浮かべ目の前の相手を睨みつける。対するワイバーンは、己の爪を受けきった人間を最大限警戒する。避けるでもなく、受け流すでもなく、真正面から受けきったの人間を。


 ワイバーンは後ろへ飛び退きシルビァーナと距離を取る。


「グルゥゥゥッッ!!」


「なんだい、犬っころみたいに唸るじゃないか。 さてと……。お嬢ちゃん立てるかい?」


 シルビァーナは後ろに倒れているエルティナに声をかける。


「…うぅ……ぅ………はい… 平気、です…。」


 ゆっくりと立ち上がるエルティナ確認する。これなら大丈夫そうだ。


「よし、なら少し下がってな。そうさね、あそこでくたばってる奴の所にでも行ってるさね。」


「あ、あの…、貴女は…。」


「なに、しがないただの治療師だよ。ほら、さっさとお行き。」


「は、はい。」


 エルティナは立ち上がり、ワイバーンから距離を取るようにしてキースの方へと近寄っていく。


「さて、お前の相手は私さね。しっかりお仕置きしてやるから覚悟しな。」


 シルビァーナが地を滑るように前へ出る。虚を突くその動きにワイバーンの反応が一瞬遅れ、反撃しようとした時にはシルビァーナは既に間合いの中にいた。


「__フッ」


 独特の呼吸法で身体の中に内在する気を練り上げる。

 地を蹴り身体を捻り全ての力の流れを腕へと集中させ、それを目の前のワイバーンの腹へと打ち込む。同時に練り上げられた気を爆発的に膨れ上げさせ放出。



 ズドォオンッ!!


 凄まじい衝撃音が森に鳴り響く。


 打ち込まれたワイバーンの腹が波打ち、爆発したかのように身体から血が吹き出す。口から大量の血を吐き出し、もがき苦しむように暴れ狂う。


 暴れるワイバーンに巻き込まぬようシルビァーナは後方へ下がり距離をとる。


「おや、思ったよりも苦しんでいるみたいだね。お前さんも結構消耗してたみたいだね。」


「グォオオオオッッーー!!!」


 尾による攻撃がシルビァーナに襲いかかる。しかし、その攻撃を冷静に見て判断し、ギリギリの距離で回避すると再び間合いの距離を詰める。再び繰り出されるシルビァーナの攻撃にワイバーンが身構える。しかし身体の中に伝わる衝撃はワイバーンの防御を容易く破る。シルビァーナが打ち込むは勁、魔法とは別系統の攻撃術である。体内に内在する力を魔法に変換するのでなく、力そのものの流れを相手に打ち込むその技は、魔法に抵抗力を持つ相手に対しても有効であった。


 そんな攻撃をはじめて喰らったであろうワイバーンは、その未知の力をその身に受け苦しそうにもがいていた。


「あの嬢ちゃん、見かけによらずなかなかやるみたいだったね。」


 シルビァーナの攻撃は確かに強烈だが、これほどの苦しみようには別の原因があると思われた。事実ワイバーンはかなり負傷していた。そのワイバーンの消耗具合から、かなり激しい戦闘が行われていたのだとシルビァーナは推測。ワイバーン相手にそこまで戦える相手などそうはいない。あのお嬢ちゃんは結構な実力者だったようだ。


 シルビァーナは油断なくワイバーンと対峙し、そして少し離れたところにいるキースらを一瞥する。


「キースっ! いつまで寝ているんだい! さっさと立つさねっ!」


 エルティナに支えられているキースにシルビァーナが檄を飛ばす。


「待って下さいっ! キースさんは今っ…!」


「……問題…ないっ。」


「キースさんっ!!」


 ワイバーンの攻撃を受け、さらにエルティナの怪我を肩代わりしたキースに、エルティナは心配するように声をあげる。


「私の分まで攻撃を受けて、まだ調子が戻ってないじゃないですか…!」


「心配しなさんな…。 もう平気だ。 心配してくれてありがとう。」


「……っ」


「そういうことさねお嬢ちゃんっ! キースなら平気だよ。だからアンタは自分の身を案じるさね。せっかくキースが身代しても、アンタが死んじまったらそれまでなんだからね。」


「身代…?」


「そう、身代だよ。 ……なんだい、なんも説明してないのかい。」


「そんな暇は…なかった…からな。」


「大方その嬢ちゃんを心配させまいと黙ってだんだろう。いい加減アンタはその考えを直すんだね。ったく。」


 シルビァーナは呆れながらも、どこか嬉しそうな表情をする。しかしすぐに顔を元に戻しワイバーンを睨みつける。


「さて、ここでグダグダと時を無駄にする程私は暇じゃないんでね。二人とも、さっさとコイツを倒しちまうよ。」


「倒すって__」


 その発言にエルティナは困惑する。それが出来れば苦労しない。だからこそキースとエルティナはこうして傷だらけになりながらも必死に抗っていたのだ。だが目の前の女性はそれを何でもないように言ってみせる。困惑するのも当然であった。


 しかし、そう考えていたのはエルティナだけのようで、シルビァーナも、そして傷だらけのキースもその言葉を疑っているようには見えなかった。



「フッ…。確かにそうだな。さっさとワイバーンを倒して町に戻ろう。大丈夫さエルティナ。三人ならアイツを倒せるさ。」


「キースさん…」


 キースの言葉に戸惑いながらも、これまでエルティナを助けてくれたキースを彼女は信じることにした。


「わかりました。」


「よし、それじゃあ、とっととやっちまうさねっ!」


 シルビァーナが距離を詰める。


 その虚実を混ぜたような移動方法にワイバーンは戸惑いながらも、爪や尾で攻撃を仕掛ける。しかしその独特な動きに攻めあぐねていた。


 そこへ後ろから距離を詰めたキースが飛び込みからの上段でワイバーンに斬りつける。浅いながらもその攻撃はワイバーンの身を切り裂く。透かさず次の攻撃を仕掛けようとするも、ワイバーンが身をひねりそれを躱し、すぐさま反撃にうってでる。既に攻撃の体勢であったキースはそれを回避することが出来ず、ワイバーンの追撃を許す。身を裂かれ後方へ吹き飛ばされ地面を転がるキースに、ワイバーンは尾でさらなる攻撃を仕掛けようとする。


 しかしそれをエルティナは許さない。


「氷結壁ッ!」


 キースの目前に人の倍程の高さの氷壁が現れる。さして強度が無いのかその壁はワイバーンの爪により脆くも崩れるが、それによってキースは追撃から逃れることが出来た。


 崩れた壁の影からキースが姿を表し、剣の切っ先をワイバーンへ向けて突き立てる。だがその一撃は爪によって弾かれる。剣を弾かれ、体勢が崩れたキースに向かって、ワイバーンが反対側の爪を繰り出す。


「グワァアーーッッ!!」


「っ…!」


「こっちさねっ!」


 攻撃を繰り出すワイバーンの無防備な身体に、シルビァーナが勁を放つ。練り上げられた気を体内に撃ち込まれワイバーンは身体を折り曲げる。苦悶の叫び声を上げ、がむしゃらに身体を暴れさせシルビァーナとの間合いを開けさせる。


「グォォオーーッッ!!」


「こんだけ大きいと、気を浸透させるのも一苦労するよっ!」



 幾度の勁と斬撃、そして魔法によってワイバーンの身体にいくつもの傷跡を残していく。だが、いくら体力を減らしていっても、その瞳に宿る憎悪の炎は消えることがなかった。いや、攻撃を喰らえば喰らうほどその炎は勢いを増していた。


「余程お怒りとみえる。」


「……こいつもにも引けないモンがあるんだろう。」


「だからといって、私達も引くわけにはいきませんっ!」


「そのお嬢ちゃんの言う通りさね。 さて、いい加減この戦いも終わらせようじゃないか。」



 怒りの炎をその目に宿したワイバーンは身を低くして構える。ギリギリと弓を引くように己の身体に力を溜めているのか、その威圧感はこれまで以上にキースには感じ取れた。


 限界まで引き絞られたそれは、弦を弾くかの如く力が放たれる。その凄まじい速度はこれまでの比ではなかった。そこに大質量のワイバーンの身体が加われば、ただの体当たりでさえ必殺の技となりえるだろう。


 ワイバーンの突進を避けようとキースが回避行動をしようとした時、突如ワイバーンがその動きを変える。突進からの急回転、そしてその遠心力を利用した尾の一撃。その先端はもはや肉眼ではとらえることすら不可能な速度へと変わっていた。音速を超えたその一撃は音を置き去りにする。


 回避行動を取ろうとしていたキースは突然の変化に対応することができなかった。その無防備な身体に無情にも死の一撃が咥えられる_____


「___フッ!」


 キースの前に躍り出る影が一つ。

 シルビァーナは練り上げた気を全身に巡らせる。そして肩と腕で尾の一撃を受け止め、いや体全体で尾に攻撃を撃ち込んだ。



  ズドァァンッッ!!!


 凄まじい衝撃に大地が、大気が、空間そのものが揺れ破裂する。 


 両者から繰り出された一撃は双方に凄まじい衝撃となって伝わる。


 シルビァーナの身体から血が吹き出し、纏った衣服が弾き切れる。

 

 対してワイバーン、その尾は衝撃を受けた部分から先が千切れ飛ぶ。


 両者ともに負傷。


 どちらの方が、より深刻な怪我を負っているかはわからない。

 しかし、両者では置かれていりる状況が違っていた。



 その違いが、両者の運命を分けた。



「氷結槍ッ!!」


 二本の巨大な氷槍が上空から交差するように振り下ろされる。交差した槍は丁度ワイバーンの頭を挟むようにして地面に突き刺ささり、ワイバーンを地面へと縫い付ける形となった。動きを封じられるワイバーン。だが、永遠に縫い付けられる訳ではない。その巨体を持ってすれば、すぐに粉砕することが出来るであろう。留めることが出来るのは、ほんの少しの時間。実際、すでにその氷槍に僅かに亀裂が生じていた。



 だが、それでいい。


 稼いた時間はほんの少し。


 その少しの時間で十分。


 地面に縫い付けられたワイバーン、その頭部に音もなく近寄るのはシルビァーナ。彼女は静かな動きで腕を前に出す。




「____爆裂」




 呟くように吐かれた静かな言葉、しかし次に起こる現象は静かとは真逆。


 地の底から震えるような衝撃。

 目前で起こる超爆破。

 

 練り上げた気を極限まで圧縮。それを頭部に撃ち込まれたワイバーンは、次の瞬間爆裂の名に恥じぬその一撃で頭内部を破裂させる。吹き出した大量の血の雨は、一瞬にして辺り一面を血の海へと変えるのであった。







 嵐が過ぎ去り、血の雨は静かにやんでいく。


 待ち望んでいた静寂が森に訪れる。


「____ふぅ」


 肩を回しコリをほぐすような仕草をするシルビァーナの姿は、血の雨に濡れ全身を赤く染め上げる。しかしその身に纏う血はワイバーンのものであり、彼女のものは含まれていなかった。


「まったく、別に身代りを使わなくたって私は平気だってんだよ。」


「…悪ぃな。つい使っちまった。」


「アンタに守ってもらう程、私はもうろくしてないよ。……まぁ、今はそれでいいさね。それでキース、アンタは大丈夫なのかい?」


「ああ、なんとか……な。」


 全身ボロボロのキースは、億劫そうにその身体を動かす。


「怪我の方はなんとかな。回復のお陰でなんとか生き延びることができた。__とはいえ、回復の反動といっていいのかわからないが、治る際にめちゃくちゃな痛みが襲ってきて、正直それがかなり辛いってのが問題だな。」


「ふむ……、そんな副作用があったとはねぇ。」


「まぁ、その程度の苦痛でこうやって無事に勝てたんだ。文句を言ったらバチが当たるさ。」


 そんな会話をしている最中もキースの怪我はゆっくりと修復されていく。そして言葉通り、その身には今も痛みが絶え間なく襲ってくる。


 額に汗を流し痛みに耐えているキースを確認した後、シルビァーナは別の方へと視線を向けていく。


「そっちのお嬢ちゃんもよく頑張ったね。」


「え、あ……」


 エルティナは、どこか呆けたように地面に座っていた。


「なんさ、どうしたんだい?」


「あ、いえ……」


 これまで極限まで張り詰めた緊張感、そこから開放された為、身体から力が抜け落ちてしまったのだ。


「まったく、若いんだからシャキっとするさね。」


「は、はい…!」


 エルティナは立とうとするが、足に上手く力が入らないのか地面に座ったままであった。プルプルする足を必死に動かすが、上手く行かない。


 そんなエルティナに手が差し伸べられる。


「あんだけ頑張ったんだ。無理もないさ。」


「キースさん……。」


 エルティナは差し出された手を受け止める。すると、不思議と身体に力が蘇ってきた。足に力を入れ、スクッと立ち上がる。


「なんとか無事生き残ることができたな。正直、かなりヤバいと覚悟してたんだが……。エルティナ、君のお陰で助かった。ありがとう。」


「あたしからも礼を言うよ。コイツ一人じゃどうなっていたことか。……いや、違うか。キースを守ってくれてありがとう。」


「わ、私なんてっ…!」


 エルティナは二人の言葉に酷く困惑する。今回の戦いで、エルティナは自身の未熟さを痛感していた。B級昇級目前ということもあり、どこか自惚れてる部分もあったのかもしれない。実際それに見合うだけの実力は持ち合わせていたのだが、此度の戦いでその自信は粉微になっていた。


 事実何度キースに助けてもらったかわからない。もしキースの助けがなければ、何度も命を落としていたであろう。自分一人では何もする事ができなかった。これで何がB級昇級だ。そう思いエルティナは自分を恥じる。


 そのエルティナに、キースは言葉を投げかける。


「何をそんな暗い顔してるんだろうね、この娘っ子は。無事生きて生還することが出来る。それで十分じゃないか。そして、それが出来るのまエルティナが頑張ったかからだ。それは間違いない。だからな、今は素直に喜べ。」


「………はい……。」


 キースはエルティナの頭に手を置き、少々乱雑に頭を撫でていく。グシグシとされた髪によって顔が隠れ表情を見ることが出来ないが、その顔は先程とは少し様子が変わっていた。嬉しさか、悲しさか、悔しさか。そのどれかは分からない。もしかしららそれら全てなのかもしれない。そんな渦巻く感情の中、一粒の涙が頬を伝う。


 



「さてと」


 エルティナの頭から手を離し、そして森のある方向へとあるき出すキース。


 ある程度森の中に入った所で歩みを止め、そこで茂みの後ろに姿を隠しているある人物へと声をかける。





「君のお陰で助かったよ。 _____ありがとうソフィア。」 




 茂みの影、そこには額に汗を滲ませ、悲しそうな表情をしたソフィアが隠れるように座っているのであった。


次の投稿は夕方頃になるかと思います。

引き続きお付き合い頂けますと幸いです。

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