14 耐え難き激痛 そして再生
「そういえば、なっちゃんの料理食べるのも久しぶりだな。」
「え?」
老人介護___もとい怪我人介護をしていたナタリーは、キースの突然の発言に思わず声をあげる。
「最後になっちゃんの料理を食べたのは、もう十年くらい前になるのか。あの時はなっちゃんも、まだこんなお子様だったのになぁ。時間が経つのは早いもんだ。俺も歳を取るわけだ。」
「……私そんな小さかったですか?」
「こんなもんだったぞ。」
キースは親指と人差し指で大きさを表す。
「なんですかそれ、それじゃあ芋虫じゃいですか!」
怒ったナタリーがポコポコとキースに殴り掛かる。一応は怪我人ということで手加減をしているのか、キースもおどけた調子でその拳を受け入れる。
「本当大きくなったよ。もう立派な組合の職員だもんな。」
「お父さんやキースさんが、いつまでたってもだらしないから、私が大人に成らざるを得なかっただけです。」
「あはは…、これは痛いところをつかれた。」
昔ながらの知り合いであるナタリーの父親の顔を思い浮かべ、思わず苦笑いをする。ナタリーの父親はキースと違いとても優秀だが、落ちこぼれのキースと何故かうまが合い、昔っからバカなことばかりしてきた間柄であった。
「そういえばアイツ、もうすぐイデアランに戻ってくるって言ってなかったか?」
「手紙ではもう少ししたら戻るだろうって言ってましたね。」
「もう一年近く王都に行ってるのか。アイツも難儀なもんだ。」
「でも王都ってやっぱり憧れちゃいます。」
「あれ、なっちゃんは行ったことなかったか?」
「ええ。あっ、でも一度だけ行ったことあるみないなんですけど、まだ小さかったからまったく覚えていないんですよ。」
「そっか。でも王都なんて別に大したもんじゃないぞ。人が沢山いてなんだか落ち着かないし。俺みたいなおじさんにはイデアランぐらい田舎の方が住みやすくていいな。」
「そんなもんなんですかね。」
「そんなもんさ。」
キースの食事の後、ナタリー自身も遅めの朝食を取り、その後二人でゆったりとした時間を送っていた。のんびりと長い時間しゃべるのは久しぶりということもあり、二人とも他愛のない話で楽しく会話をしていた。
二人で呑気な時間を過ごしていると、室内にシルビァーナが戻ってきた。
「キース、一緒に運ばれてきた子が目を覚ましたよ。」
「本当か!? ソフィアの様子は?」
「取りあえずは、怪我もしてないみたいだし安心しな。ただまだ状況をうまく掴めていないのか何処か上の空な感じだね。」
「そっか……。とりあえず目を覚ましたようで良かった。」
キースは胸をなでおろす。あの状況はソフィアにとっても大変な状況であった。いくら身体に外傷がないとはいえ、心配なことには変わりなかった。
「アンタも目覚めたんだし、顔を見せてやったらどうだい。」
「そうだな、彼女の様子も気になるし、顔を出すよ。」
キースが立ち上がろうとすると、それをナタリーが押し留める。
「キースさんは重病人なんだから寝てて下さい。」
「いや、でも顔を見せてお互い無事だったと安心させてやりたいし……。」
「それでもです。自分が怪我人だって理解して下さい。」
困った様子のキースにシルビァーナが助言を呈する。
「確かにナタリーちゃんの言うことも一理あるさね。それじゃ、あの子にアンタの事知らせてこっちに顔見せにこさせるか。」
「いや、何もソフィアに来てもらわなくても。彼女のだって疲れているだろうし。」
「アンタがそれを言うかね。治療師からしたらアンタの方がよっぽどアレだよ。」
「そういうことです。怪我人は大人しく寝てて下さい。」
納得は出来ないがこれ以上反論しても無駄だとキースは悟り、しぶしぶ引き下がる。
「それじゃ、あの子を呼んでくるからそこで待ってな。」
再び部屋から退室していくシルビァーナ。
「その間にお膳片付けちゃいますね。」
そう言って席を立つナタリー。そんな彼女に感謝の言葉をかけとようとした時、キースに異変が訪れた。
それは小さな違和感だった。
身体がもぞもぞするような、どこかくすぐったいような感覚。
だが、それも一瞬。
次にそれは起こった。
「……ぅぅぐあぁああああああー!!!!!!」
全身を焼かれるような激しい痛み。
骨や肉がグズグズに溶けている感覚。
それらがキースの身体を支配した。
「ぐぅぅぅ…… ぁぁああああがっ 」
突如襲ってきた痛みにキースはうずくまり己が身を抱きしめる。
「キースさんっ!? キースさん!!!!!」
お膳を床に落とし慌ててキースに近寄るナタリー。その表情は焦りそして目に涙を溜めていた。
「大丈夫ですか!? キースさん!! しっかり!! 」
ナタリーの声にも反応することが出来ず、ただ痛みに耐えるキース。
この痛みはなんだ!?
何故いきなり襲ってきた?!
半ば混乱しながらも、思考を巡らせ、そして痛みに耐えていく。
しかしそれは長くは続かなかった。もしかしたら一瞬の事だったのかもしれない。痛みによって実際の時間より長く感じていただけなのかも知れない。それはキース本人には分からない。だか、今目の前に起こっている変化だけは、紛れもない事実である。
「はぁ…… はぁ……」
痛みが引いてきたことで、落ち着きを取り戻していくキース。その様子を心配して見ていたナタリーであったが、ある事に気がついた。
それを見つけ驚愕し、我が目を疑った。
「え…… 嘘……」
「はぁ…はぁ… またか……。 どうなってるんだ…。」
「キースさん、それ……。」
「ああ。 どういうわけか、生えてきたみたいだな。」
キースは己の左腕を擦り感触を確かめる。
そこには失われていたはずの左腕が確かに存在していた。
次話は今日の夜20時頃に投稿予定です。
引き続きお付き合い頂けますと幸いです。




