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13 おじいちゃん、よく噛んでたべましょうねー。

「まったくもうっ! もういい歳なんだから、身の振り方ぐらい学んで下さいよね!! だからいつまでもD級なんですよ!!」


「あはは、いやぁ、面目ない!」


「笑って誤魔化そうとしても駄目ですからね! どれだけ迷惑かけたと思ってるんですか! 自分の立場判ってます?? 低級冒険者さんですよね? なのに一人でワイバーンなんかに立ち向かって! 馬鹿なんですか? 死にたいんですか? あ、だから死にそうだったんですね! 治療しない方がよかったですか? だったら先に言っておいて下さい。無駄になっちゃいますから。」


「いやー…… はい、ごめんなさい。」


「いつもいつも傷だらけで。低級でそんな傷だらけの冒険者なんてキースさんぐらいですからね? もう少し自分の立ち位置を考えて下さい。」


「…はい……。」


 治療院の一室で、一回り以上歳の離れた組合職員からの説教を受けているいい歳したおじさんの姿があった。説教をしているのは、冒険者組合の職員ナタリー。説教を受けているのは組合所属の冒険者キース。傷だらけの姿をしたおじさんが女性に怒られているそのこの光景は、なんともなさけないものである。寝台で、上半身だけを起こした状態で座っているキースは、説教が終わるのをただ聞き入れるしかなかった。


「いあ、自分でも判ってはいるんだけどな。今回は流石にちょっとアレだったなぁ……と。流石に死ぬかと思った。」


 一度死んだんだけど___などとは口が裂けても言えなかった。言ったらどうなるか、火を見るより明らかだ。


「もうそのくらいで勘弁してやったらどうだい。」


 二人がいる部屋の入口から声がかけられる。ナタリーが振り向くと、そこには白装束を着た女性が立っていた。年の頃はキースと同じぐらいだろうか。しかしくたびれた様子はなく、むしろ妙齢といっても差し支えない若々しさがあった。


「でもシルビァーナさん!! ちゃんと言っておかないと、この人また無茶しますよ!」


「まぁまぁ。コイツだって今回ばかりは懲りただろうさ。お説教は怪我が治ってからにしておくれ。」


 ぷくーと口を膨らますナタリーの様子をみて、シルビァーナは笑いながら肩をすくめてみせる。


「それはそうと、もう結構な時間なことだし、せっかく目覚めたんだ。そこの病人に飯でも食わしてやったらどうだい。胃に優しい吸い物を作ってあるから、ちょっと持ってきてくれないか。コイツは私が見ておくよ。」


 シルビァーナの言葉に、ナタリーは頬を膨らませながらも従い部屋から退室していく。その様子を確認したシルビァーナは苦笑いしながらキースに話しかける。


「まぁ、あの子の言ってる事も間違っちゃいないさ。今回ばかりは流石の私も肝が冷えたぞ。」


「……すまなかった。迷惑をかけたな、シルビィ。」


「本当迷惑もいいところだよ。知り合いに死なれたんじゃ私も目覚めが悪いってもんさ。まぁ、後でたっぷり治療費請求してやるからね。」


 カラッとした笑いを見せるシルビァーナに、キースも釣られて笑ってみせる。


「感謝する。」


「感謝だったらあの子にしてやんな。アンタなんかの為に一晩中寝ずに看病しくれてたんだからね。健気じゃないか。」


「そうだな……、ナタリーにはいつも迷惑かけてしまっているな。」


 キースは苦笑いをしながら頭を掻こうとし、そこで左腕が無いことを思い出す。


「その左腕だけは元に戻せなかったよ。失った部分がまだ手元に残っているんだったらまた話は別だったんだけどね。その傷口から察するに食いちぎられているみたいだし、ちょっと無理だね。」


「ああ、それは構わない。左腕の一本ぐらいで文句をいったりはしないさ。」


「まったく、ワイバーンに襲われるなんて。どんだけ運が無いんだよアンタは。この辺にワイバーンが居るなんて聞いたこともないさ。」


「そこは俺も気になっていたんだ。本来ワイバーンの縄張りは、このあたりには無いはずなのに。何故あんな森の中にいたのか。」


「そういえば、角ウサギが出たって話も聞いたね。アレも本来森のもっと奥に縄張りを持っていたはずだし。もしかしたら今回のワイバーンと関係あるのかもしれないね。」


「ワイバーンから逃れる為に角ウサギが縄張りを移動したって事か?」


「もしそうだとしたら、他にも何かしらの変化があるのかもしれないね。」


「……角ウサギ程度だったら問題ないが、もっと別の危険な生き物が街の近くに移動いているとしたら、少し厄介だな。」


「そこらへんは町の兵士や他の冒険者にまかせておくしかないだろうさね。それにしても、アンタがそんな調子だと、材料の入手が滞っちまうね。私としてはそっちの方が痛手だよ。」


 キースはこの治療院へ定期的に薬草を届けていたのだったが、今回の怪我のせいで、その供給が止まってしまうことになる。いくらか余剰分があるからすぐに無くなることはないとは思うが、いざというときのためにやはりある程度の量は確保しておきたいのが本音だろう。


 薬草採取のことを考えていたキースにであるが、そこであることを思い出す。


「そういえば、ソフィア____一緒に運ばれてきた冒険者はどうした?」


「ん?一緒に搬送されてきた子かい? あの子なら別室で今も寝ているよ。外傷はなさそうだから平気だとは思うけど、一応起きるまではウチで様子見さね。」


 ソフィアの安否を確認できキースは一安心する。ワイバーンを退けた後、ソフィアの様態を確認したが怪我をしている様子は無かった。泣き腫らした顔をしていたが、それ以外はいたって普通である。ただ精神的に参っているのかいくら話しかけても起きることが無かったので、背負いながら町まで戻ってきたのだ。


「どうせあの子の分も【身代】を使ったんだろ? ワイバーンに襲われたにしては、怪我が無さすぎるしね。」


「ほんの少しはね。でもまぁ、この怪我の殆どは俺自身が受けた傷だよ。今回ばかりは身代りでどうこう出来るような状況じゃなかったからな。生き残れたのは本当運がよかっただけだな。」


 それとあの不思議な現象も……。


 キースは心のなかでそう呟く。流石に死んで生き返ったなどと、シルビァーナの前では言うことなど出来なかった。頭がおかしくなったと思われても仕方がないだろう。





 しばらく二人で会話をしていると、膳に食事を乗せナタリーが戻ってきた。


「食事を持ってきました。ただ少し物足らなそうだったので、ちょっぴり手を加えました。」


 運ばれてきたのは、器の中で溶けるまでふやかされたパンと山菜の吸い物であった。病人食ということで、濃い味付けはされておらず、身体に優しそうな逸品である。


「はいキースさん。」


 ナタリーが匙で掬った吸物を口元へ持ってくる。


「……ナタリーさん?」


「はい?」


「えっと……」


 シルビァーナが二人の様子を見てクツクツと笑っていた。


「ククク、 まぁ、今のアンタはどう見ても重病人だ。片腕が無くなっちまってるしな。その子のご厚意に与るんだね。」


 ひとしきり笑ったシルビァーナは、邪魔者は退散しますかと上機嫌に退室していった。


 観念したキースは差し出された匙をパクリと口に咥える。


「どうですか?」


「……味が薄い……。 お肉が食べたい……。」


「衰弱しているんだから駄目ですよ。怪我が治ったらいくらでも食べさせてあげます。」


「……別に病気じゃなくて、単なる怪我なんだから平気かと……。」


「はいはい、そうですね。はい アーン。」


「パク……  薄い……」


「おじいちゃんー。よく噛んで食べましょうねーー。」


 ションボリしたおじさんに甲斐甲斐しく看病するその姿は、まるで老人介護のそれであった。


次の投稿は今日の夕方17時頃を予定しております。

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