力を持て余してるので荷運びの冒険者始めました
誤字脱字、辻褄が合わない箇所、説明不足な箇所など、随時直していきます。
久々の短編ですが、お楽しみいただければ幸いです。
「君が好きだ。これからもずっと一緒にいて欲しい」
「…………はい?」
生まれて初めて受けた愛の告白だった。
告白されるなら、ウットリとするような夜景の見えるロマンティックな場所で。
美しいドレスで着飾った私は、目を潤ませながら、世界で一番綺麗に微笑んで、彼の胸に飛び込むの。
――なんて、ベッタベタで乙女チックな妄想をしていたのはもう何年も前の話。
現実では、ロマンティックな場所で、綺麗に着飾った私は、思わず何言ってんのと言わんばかりに、あんぐりと口を開いたまま、間抜け面を晒して呆けた。
目の前には真っ赤に頬を染めた綺麗な顔がある。
キラキラ光る金色の髪の毛に、綺麗な碧色の目。平均よりも低い私よりも頭二つ分は高い身長。すらりとした体は、実は脱いだら凄い事を知っている。
更に言えば頭も良くて、おまけに性格は勇敢で優しくて面倒見もいい。
そんなパーフェクトな外見と内面の持ち主は、この国の王子様で、次期国王様で、女神様に選ばれた勇者様で、つい先日世界を救った英雄様でもあった。いや、肩書き多いな。
そんな彼の台詞が冒頭のアレである。
焦げてしまいそうなくらいの情熱を湛えた真っ直ぐな視線。キュッと優しく握られている手からは震えが伝わってきて、彼が緊張しているのが分かった。
――――彼は本気だ。
これは冗談なんかではなく、罰ゲームなんかでもなく、本気の告白なんだ。
そう如実に伝えてきていて、それは疑いようもない事実だった。
そう、彼が本気で告白しているのは理解できている。
だが、しかし。
「……あの」
「うん?」
だが、しかし、あえて私は言う。言わざるを得ない。
「どなたかとお間違いではないでしょうか?」
何故、告白されているのが私なのか。ここで急に理解できなくなっている。
そんな絶賛大混乱中の私は、一応勇者パーティーの一員だった。
けれど、私は超絶美少女な聖女様でもなく、魅惑の御胸を持つ美女剣聖様でもなく、セクシークイーンな魔導士様でもない。――――ただの荷物持ちの雑用係であり、平凡な田舎娘なのである。
★ ★ ★ ★ ★
そんなただの田舎娘が何故勇者パーティーに参加しているのかと言えば、成り行きとしか言いようがない。
私は片田舎の農村で生まれた生粋の村娘だった。
母は田舎町の宿屋の看板娘、父はそんな母に一目ぼれした元冒険者。この世界では実にありがちな組み合わせだ。
そんな二人の間に生まれた私は、田舎町では割と可愛いと言われるけれど、垢抜けた街に出ればあっという間に埋没するような平凡な女の子だった。
ただ一つ、人と違う所があるとすれば、それは並外れた『怪力』だけ。
どんな突然変異が起こったのか、私は子供の頃からやたらと丈夫で力持ちだった。とはいっても、剣の素質も武術の素質もないから、本当にただひたすら丈夫で力が有り余っているだけだったのだが。丈夫で力自慢の村娘。これが私である。
男であったのなら、その力を使い、活躍できる場所があっただろう。
けれど、私は女だったから、丈夫さはともかく、力の強さなんてひたすら無駄で、何だったら邪魔でしかない。だって、そんな女の子は可愛くない。
特に昔は力加減が下手だったから、家事はからっきしだった。
料理は気を付けないとまな板まで切ってしまうから野菜を切るのも一苦労で、出来上がったものは不味くないが大味だったし、洗濯すれば服を破り、洗濯板を割る。縫物も糸は布ごと引き千切るし、針は何本も折ってしまう始末。
逆に力仕事は得意で薪割りなんかは村一番だったが、そもそもそれは女の仕事ではないので、家族ですら微妙な顔をしていた。
そんな私は当然の如く、村で全然モテなかった。『アイツ、顔だけは可愛いんだけどなぁ』が、村の男の子共通の認識だったのだ。少し地味でも女の子らしく縫物が上手な子が一番モテていた。羨ましい。
そんな私にも、年頃になると春が来た。
ずっと一緒にいた幼馴染との縁談が来たのだ。
小さな頃はいじめっ子だった彼を何度かぶちのめしたりもしたが、全ては過去の話。
縁談の話が来て、私は直ぐに彼を意識し始めた。
村では出世頭であり、顔もカッコ良かった彼は村の女の子の間では一番人気で、そんな彼と結婚できる事に私は舞い上がっていたのだ。
ウッキウキで花嫁修業だと料理の腕を磨き、下手糞な針使いでせっせと花嫁衣裳を縫い、嫁ぐ日を楽しみにしていたのだが……残念ながら、この話は破談となった。
何故なら、直前になって彼が別の女の子と結婚すると言い始めたからだ。
その子は村で一番可愛くて、儚げな女の子らしい女の子だった。
彼女のお腹には彼の子がいるらしく、私は諦めるしかなかった。
彼も相手の女の子も二人の両親も頭を下げてくれたし、何よりも子供の事を思えば諦めるより他は無かったのだ。子供を不幸にするわけにはいかない。
ガッカリしながらも、カンカンに怒っている私の両親を宥めるのに疲れていた、ある日の事。
気分転換に村を散歩していた時、私は彼とその友人たちが話している場面に遭遇した。
気まずくて思わず身を隠せば、彼の友人が私の事を彼に聞いている所で、思わず耳を澄ませる。
「お前、本当に良かったのか?」
「ああ。親父はガッカリしてたけどな」
「あの宿屋は儲かってるって聞いてるし、婿入りすりゃ跡取りになれたのに」
「確かにアイツの家と縁続きになれば、うちの借金も返せるし、食うには困らねぇだろうけど」
きっと彼と相手の子は元々想い合っていたのだろうと思っていた。そこへ私が割り込んでしまったのだろうと、だから誰も悪くないのだと、そう思おうとしていたけれど。
「でも、その為にアイツと一生共にするなんてゾッとする。あんな怪力女と結婚なんか誰がするかよ。男よりも強いとか女としてあり得ないだろ。いつ殺されるか分かったもんじゃねぇ。オレは縁談を断る為に、わざわざ他の女に手を出したんだからな」
ひでぇ奴だと、でも確かにその気持ちは分かると笑い声が上がる中、私は黙って踵を返した。
彼の本音を聞いて、悲劇のヒロイン気分も吹っ飛んだ。涙も出なかった。
代わりに目の前が真っ赤に燃え上がる様な怒りが体を支配する。
「嫌なら嫌って最初から言いなさいよ……っ!」
嫌なら最初から無理だと言えば良かったのだ。
決して無理強いはしていなかった。相手からの申し込みだった。顔合わせの時には、一緒に幸せになろうと言ってくれたのに。だから、申し込みを受け入れたのに。
いくら嫌だったからって、こんな土壇場で裏切るとかありえない。
怒りのままに拳を打ち込んだ木が何十本か折れて、雨で緩んでいた山の一部が崩れたが、知った事ではない。
崩れた土砂が村の畑にちょっと突っ込んでいったが、知った事ではない。
突っ込んだ畑が偶然にも幼馴染の家のものだったが、知った事ではない。
そいつは慰謝料だ。遠慮なく受け取れや!
でも、あんまり被害が酷かったら後で弁償するんだからね!(小心者)
私は怒り収まらないままに家へと戻り、街へ働きに出ると言って家を飛び出した。
もう男なんかいらない。結婚もしなくてもいい。
どうせ怪力だと分かった時点で女の子として見てくれないに違いないのだ。
どんなに頑張っても怪力は無くせないし、隠せない。それならせめてコソコソ隠れたりせずに、この個性と共に生きていきたい。
一直線に山を横断し、ボロボロの服とギラギラの怒りのままに、冒険者ギルドの扉を潜る。
何故か怯えたように遠巻きにしている冒険者の間を抜け、依頼書の張り出しを睨み付け、一つの依頼を引きちぎって、何故かこちらを震えながら見ている受付のおじさんに叩きつけた。
「この荷運びの依頼、受けます!!」
「は、はいぃぃ……えっと、ぼ、冒険者登録証を見せて貰えますか?」
「ないです!」
「ないの!? ないのにそんな堂々としてるの!?」
「なくても受けられるって聞きましたけど!?」
「ひぃ! に、睨まないで……う、受けられる仕事もありますけど、作った方が、その、お得ですよ……?」
「お得とは!?」
「と、登録証がないと一番下のランクの仕事しか受けられませんが、登録証があれば自分のランクの一つ上までの仕事が受けられるんです……」
「なるほど! 他には!?」
「そ、それに登録証があれば、トラブル時にギルドが間に入って仲裁もします。同じランクの仕事を受けてもあるのとないのでは相手側の対応が変わりますし……」
「じゃあ作ります!」
「わ、分かりました……えっと、こちらの用紙に記入して、登録料に、ぎ、銀一枚頂けますか……?」
「銀一枚!?」
「はいぃぃ! スミマセン、高くてスミマセン……!」
「高いとは言ってませんよ! はい、銀一枚! それと記入した用紙!」
「あ、ありがとうございます…では、ランクはFからですね……」
「F!? Fって何ですか!?」
「ひぃぃ!? ごめんなさい! 冒険者はFからSまでランクがあって、最初はFなんですぅぅぅぅ!」
「そうなんですか! だから私はFなんですか!?」
「はいぃぃぃ! それとこの荷運びの仕事はDランクの仕事ですので、まだ受けられません……」
「何ですって!?」
「ごめんなさい!」
「どうすれば、ランクが上がるんですか!?」
「うっうぅ、依頼をこなせば上がりますぅぅ……Fランクの場合、受けられる依頼はFとEランクの依頼です……Fランクの依頼なら三十回、Eランクの依頼なら十回で次のランクに上がりますぅぅ……」
「分かりました! ご親切にどうもありがとう! じゃあ、こちらのFランクの依頼をお願いします!」
「はいぃぃぃ」
「行ってきます!」
「行ってらっしゃいぃぃぃ」
ギルドで丁寧な説明を受け、すぐさま仕事に向かう。
受付のおじさんは腰を抜かしたが、全てをきちんと説明しており、流石はプロだと拍手を受けた。
「すっげぇ怖かったけど、あの子、凄くちゃんとしてたな」
「すっげぇ怖かったけど、あの子、結構可愛かったな」
「すっげぇ怖かったけど、あの子、真面目に説明聞いて、文句も言わずに金払って、お礼まで言ってたな」
「すっげぇ怖かったけど」
「すっげぇ怖かったけど」
こんな会話がされていた事など露知らず、私はせっせと依頼(主に力仕事)をこなし、一週間後には無事にEランクに上がることが出来た。これでもっと割のいいDランクの力仕事も受けられる。
田舎では牛が沼に嵌った時くらいしか活躍出来なかったが(しかも牛を一人で引き上げるという活躍をしてもドン引きされただけだった)ここでは怪力も色々な仕事の役に立てるのだ。ぬかるみに嵌った馬車を一人で持ち上げた時にはドン引きされたけども。助けた馬に糞を飛ばされたけども。
着々と実績を伸ばしていた、そんなある日の事。
「お疲れ様。指名依頼が入ってるよ」
いつもの様に依頼を受けようとギルドに行くと、すっかり顔馴染みになった受付のおじさんに呼び止められた。
既にこの街に来て一年が経っている。私は荷運び専門の冒険者としてDランクに昇格しており、時々指名依頼も受けていた。
「又、荷運びの仕事?」
「そうだけど、長期の依頼なんだ。荷運びとしてパーティーに参加してほしいらしい」
「へぇ」
「守秘義務があって詳しくは言えないが、怪しいものではなく、きちんとした筋からの依頼だよ」
そう言われて依頼内容を確認してみれば、最低でも一ヶ月以上かかるという長期の依頼だ。だが、依頼料は悪くないし、食事と宿は依頼主が負担してくれるという。
そろそろ少し難しい仕事も受けてみようと思っていた所だ。丁度良いと、私はその依頼を受ける事にした。
そして、気軽に待ち合わせ場所へとやって来た私は依頼者のパーティーを見て、生まれて初めて腰を抜かした。
「依頼を受けてくれてありがとう。パーティーの仲間としてこれから宜しく」
目が潰れそうな程、キラキラした爽やかな笑顔でそう言った人物。
それは、世界の命運を背負って旅をしている『勇者』その人だったのである。
★ ★ ★ ★ ★
「次に行く場所は街道から大きく外れた場所にあるから、野宿が多くなるんだ」
「はぁ、成程」
「道中はモンスターも増えますし、戦闘の事を考えると荷物がどうしてもネックになっていたんですよ」
「はぁ、確かに」
「戦闘の度に荷物を下ろしてなんてやっていられなくてな。本当に助かる」
「はぁ、そうですか」
「本当に力持ちねぇ! 凄いわぁ!」
「はぁ、どうもです」
予想外にも勇者パーティーに入ってしまった私。
パーティーには勇者様の他に、聖女様、剣聖様、魔導士様がいた。
因みに勇者様以外、全員美女である。
(なるほど、これが噂のハーレムパーティーという奴か)
清廉で可憐で思わず守ってあげたくなるような美少女の聖女様。
男なら誰でも埋もれてみたいだろう素晴らしい肉体を持つ美女の剣聖様。
微笑み一つでどんな男も骨抜きに出来る妖艶な美女の魔導士様。
ハーレムパーティーの噂は聞いた事があるが、これほど高レベルの女性ばかりいるハーレムパーティーは中々ないだろう。流石は勇者様。夜もさぞかし勇者様の勇者様が大活躍されているのでしょうね。
――――と、思われる方が殆どだと思うが、実際にはとんでもなく健全なパーティーだった。
当初はとんでもないものに巻き込まれてしまったと頭を抱えたが、時間が経つにつれ、そうではないと気付いたのだ。
いや、勇者様が活躍するとパーティーの皆様は大喜びで大はしゃぎしているけれども、それだけなのだ。本当に。
『勇者様カッコいいー!』とか『素敵ー! こっち向いてー!』とか余裕のある時に騒いでいるけれど、勇者様はいつだって憮然としていた。
勿論、通常時は全員真面目に戦っているし、途中から参加することになった私にも凄く親切なのである。
ハーレムパーティーによくあるという、ドロドロの愛憎劇は欠片もない。バチバチの嫉妬の火花も散らない。
只の荷物持ちだからと奴隷のように扱われる事もなく(たまに勘違いしてくる奴がいるのだ)、きちんと仲間として扱ってくれる。
全員が戦闘時はちゃんと守ってくれるし、さり気無い事でも感謝の言葉も忘れない。
当初、ハーレムパーティーだとか思っていてごめんなさい。勇者パーティー、マジで勇者パーティー。
私がこのパーティーを大好きになるのは当然の結果だった。
聖女様とは年が近い事もあって友達みたいに仲良くなれたし、剣聖様はキリッとしていてカッコ良くて、いつも旅慣れない私を気遣ってくれる。魔導士様は時間のある時に学のない私でも分かる様に根気よく色々な事を教えてくれた。
勇者様も親切で優しい。常に紳士的でキラキラしていて、王子様みたいだった。只の村娘である私の事も、ちゃんとレディとして扱ってくれる。怪力のせいで女の子扱いなど殆どされない私は、凄く嬉しかった。本当の王子様だと知った時には再び腰が抜けたが。
優しいこのパーティーに段々と馴染んできて、気が付けば私も皆と一緒に勇者様に声援を送る様になっていた。
とはいえ、勇者様は王子様で只の村娘の私とは身分が違うから、勇者様とどうこうなりたいとは思った事も、考えた事もない。感覚的には憧れの役者に声援を送る感じだ。友達と一緒にカッコいい男性にキャーキャーと声援を送ってはしゃぐのは凄く楽しい。寧ろはしゃぐのが楽しい。
勇者様は優しいので、私なんかが声援を送っても無視したりせず、ニコリと笑い返してくれる。『勇者様、カッコいい!』にも『勇者様、素敵!』にも、少しはにかみながら手を上げて応えてくれた。
勢いで、『勇者様カッコいい! 抱いてー!』と言った時には真っ赤になってしまったが。後で、パーティーメンバーに『勇者にはまだ早い』と注意されてしまった。下品すぎたらしい。反省。
★ ★ ★ ★ ★
そんなこんなで冒険は続き、あっという間に三年が過ぎる。
ようやく魔族の王を名乗っていた魔王とやらを倒した勇者パーティーは、意気揚々と王都へと凱旋した。つまり、ようやく私への依頼は完了したのだ。
誘われて凱旋祝賀会へと参加した私は、依頼料の一部だと渡された、見るからに高級そうなドレスに身を包み、会場の隅でコッソリと立っていた。
これから魔王討伐を成し遂げた勇者様達への授与式が始まる。
勇者様達には一緒に授与式に参加しようと言われたが断った。討伐したのは勇者様達で、あくまでも私は只の荷物持ちだ。
只の荷物持ちに勲章は荷が勝ち過ぎるだろう。荷物持ちだけに、荷物の見極めはプロであると自負している。
これが勇者様の見納めかと思えば感慨深い。
この祝賀会が終われば、私は再び荷運び冒険者へと戻る。
国王に勲章を授与されている勇者様、聖女様、剣聖様、魔導士様。
心からの拍手を贈りながら、何て素晴らしい体験ができたのだろうと、胸が一杯になった。
気が付けば、もう二十を超え、完全に行き遅れになってしまった私。でも、もしあの時、あの田舎町で結婚していたら、私はこんな体験は出来なかっただろう。
人は負け惜しみだと言うかもしれない。大切な時期を失った愚か者と笑うかもしれない。
でも、後悔はない。
仲間と笑い合った日々を、命を燃やして戦った日々を、心底信頼できる人が出来た幸せを。
あの時、飛び出して良かったと思った。この光景を目に焼き付けられただけで、もう十分。
感動で目を潤ませながら感極まって俯いている私の視界に、綺麗に磨かれた靴が映る。
「レディ。私と踊って頂けませんか?」
「……ん?」
聞き覚えのある声に顔を上げれば、そこにいたのはすっかり見慣れた綺麗な男性。
「え? あの?」
「ダンスも魔導士に習ったよね?」
確かに私は魔導士様にダンスも習った。ついでに言うと、貴族としての立ち居振る舞いも。お陰で、貴族ばかりのこの場でもなんとか浮かずに済んだのだ。
戸惑っている内にあっという間に手を引かれ、ホールの真ん中に躍り出る。
え、何で? 相手が違うよね?? いや、聖女様、ヒューヒューじゃないんですけど。剣聖様、何で頷いてるの? 魔導士様、満足げに親指立てないで。
目がチカチカして、頭がフワフワする。何だこれは夢なのか。何て図々しい夢だろう。聖女様も、剣聖様も、魔導士様も、お姫様も、貴族のご令嬢も、全員差し置いて私が勇者様と踊るなんて。
何が何だか分からない内にダンスは終わり、何が何だか分からないまま、私はバルコニーへと連れて行かれた。
星が煌めく美しい夜空を背景に、多分、今この世界で最高の男が私の手を握る。
「君が好きだ。これからもずっと一緒にいて欲しい」
「…………はい?」
生まれて初めて受けた愛の告白だった。
相手は幼馴染なんか目じゃない位、いや、並べる事すら烏滸がましい世界最高の男。
…………いやいやいやいや。
ありえない。何だこれ。早く起きろ私。図々しいだけでなく、厚かましい。後、とんでもなく恥ずかしい。
やっと絞り出したのは、人違いではないかという台詞だった。
けれど、勇者様は困ったように笑って、私の手を更に強く握る。
「君で間違いないよ」
「え、でも、聖女様は? 剣聖様も、魔導士様も、皆、勇者様が好きで……」
「勿論、好きですよ」
戸惑う私に、声が掛かった。
バルコニーへやって来たのは聖女様と剣聖様と魔導士様。
目を丸くする私に、ニッコリと笑いかける。
「でも、そういう好きではないのです。知らなかったのですね。聖女は一生涯、結婚しないという事を」
「え?」
「聖女の聖力は男性と交わると失われてしまうのです。ですから、今後も人々を助ける為に私は結婚しないと誓っています。したいとも思いませんしね」
聖女様は結婚できない? そんな馬鹿な。こんなに勇者様とお似合いなのに?
「え? あの、じゃあ、剣聖様は…」
「私には相思相愛の婚約者がいるんだ。ずっと待たせていたが、来月ようやく結婚予定だ」
「は!?」
剣聖様に婚約者!? 来月結婚予定!?
「あのあの、まさか、魔導士様は…」
「私? 私は既婚者よ。子供もいるわ」
「え、ええええええええ!?」
既婚者!? 子供まで!? 嘘でしょ!? こんな妖艶なお母さんって居るの!?
驚きながら、勇者様を見れば、やはり困ったように笑っている。
その顔を見て、私は悲しくなった。
可哀想……こんなにイケメンで優しくてカッコ良くて凄い人なのに、パーティー内で余ってる女の子、私しかいなかったんだ……。
「何か凄く誤解を受けている気がする……」
「完全に同情の視線ですね」
「あのな、誤解しないで欲しいんだが、勇者は最初からお前狙いだったからな?」
「ちょっと、それ言わない約束じゃ……!」
「でも、言わないと話が進まないでしょ? あのね、実は貴女をパーティーに誘おうって言い始めたのは勇者なの」
「え?」
「そうですよ。女の子怖いって言ってたのに、急に女の子をパーティーに入れたいって言い始めてビックリしました」
「最初は変な女に引っかかったのかと心配したよな。直ぐに杞憂だと気付いたが」
「本当にヘタレな子だけど、女の子を見る目だけはあったのよねぇ」
ニコニコと言われて、混乱が止まらない。
そんな私に、勇者様は柔らかく微笑んで言った。
「馬車がぬかるみに嵌って立ち往生している場面で活躍している君を見たんだ」
「よりにもよって、あの時に!」
あの馬糞塗れになった時にか! と頭を抱えて悶える私を、仲間たちはにこやかに見つめている。
勇者様は心底眩しそうに私を見ながら、初めて私を見つけた日の事を語ってくれた。
勇者だから。王子だから。――――こうでなくてはいけない。こうあるべきだ。
彼は幼い頃から、常に理想を求められていた。
自分の立場は理解していたし、応えられる様に精一杯頑張って来た。
けれど、そんな雁字搦めに疲れていたのも事実で。
周りの求める理想像を演じ続けるのが嫌になる事もあったのだという。
そんな時、彼は自分を見つけた。
可愛らしい子だと思っていたら、その人並外れた力に圧倒され、驚いた事。
泥塗れになりながらも馬車を持ち上げた彼女に、御者は涙ながらに感謝していた。
ヤジを飛ばしながらも歓声を上げている周りを見て、凄いな、と純粋に思ったのだと彼は笑う。
尋常じゃない怪力は世間一般で言えば女性らしくはないと言われるだろう。
だけど、君は周りに受け入れられていた。――――ありのままで、怒って、笑って、精一杯胸を張って。そんな風に生きている君だからこそ、きっと周りは普通じゃない部分も含めて君を受け入れたのだろうと。
最初は話がしてみたかっただけだったのだと彼は言う。
けれど、そのお人好しなまでの優しさに触れる度に。その誰かの為に泥を被れる潔さを感じる度に。――――知れば知るほど、愛しさが募っていった。
一緒にいる内にどんどん惹かれていく心を止められなかった。
危険な旅だから、途中で帰さなければいけないと思っていたのに、結局、最後まで一緒に連れて行ってしまった程に。
そして、今、彼は生まれて初めてだという愛の告白をしてくれた。
恥ずかしくて死にそうだけど――――今はまだ一方からしか伸びていない想いを繋ぎ、これから先もずっと共にある為に。
「優しくて、カッコ良くて、困っている人を放っておけない。そんな君の事が本気で好きなんだ。最後まで君に頼ってしまったから頼りなく思うかもしれないけれど、君に相応しい男になれる様に頑張るから。これから先も君と生きていきたいんだ……!」
「ひええええええええ!? 顔近づけないで目が潰れそう!!」
「まぁ、確かに聖剣に貫かれてもしぶとく生きてる魔王に岩石投げつけて止めを刺したのも彼女だったしねぇ」
「勇者は二人いたんですよね」
「勇者同士でお似合いじゃないか! 幸せになれよ!」
「いやいやいやいや!? 待って待って! 私、平民! 貴方、王族! 無理無理無理無理! 許される訳ない! 認められる訳ない! 只の村娘ですから! 王族どころか貴族の教育だって受けてないし! 相手が聖女様か剣聖様か魔導士様ならともかく絶対無理ですって!!」
「私たちこそ無理ですね」
「そうだな。無理だ」
「どうやっても無理ねぇ」
そりゃ、聖女様は結婚できないし、剣聖様は婚約者いるし、魔道士様は既婚の子持ちだから無理かもしれないけど!
涙目で私が見つめれば、困ったように聖女様と剣聖様と魔導士様が笑って言った。
「だって、私――――勇者の姉だから」
「え?」
「私は母方の叔母だ」
「……え?」
「剣聖の姉で、勇者と聖女の母でぇーす!」
「………………え?」
勇者様が困ったように笑う。
「聖女は私の姉で、剣聖は私の叔母、魔導士は母だ」
「全員身内――――――!!??」
道理で全員美形だと思った! いや、そうじゃない!
「え、どういうことですか!?」
「つまり、勇者パーティーって家族パーティーだったのですよ。そして、貴女は勇者のお嫁さんとして合格です。私達が認めます。可愛い妹ができて嬉しいです」
「安心してくれ。私が嫁ぐのはこの国有数の大貴族でね。私たち夫婦の養女として嫁げばいい。身分差は解決だな」
「貴族教育、王妃教育も大丈夫よぉ。旅の間に仕込んでおいたから! 頑張り屋さんだったから、楽しくなってどんどん詰め込んでしまったわ。今ならどこに出しても恥ずかしく無い淑女よぉ。旦那様も大臣たちも女嫌いの王子が嫁を連れて帰ったって大喜びだったわ!」
「セクシークイーンがリアルクイーンだった! そして、知らない間に外堀埋められてる!!」
「絶対幸せにするから!」
「顔近い、顔近いぃぃぃ! 目が、目がぁぁぁぁ!!」
★ ★ ★ ★ ★
何が何だか分からない内に、再び会場に引っ張られていった私は、混乱している内に壇上に連れて行かれ、堂々と勇者の婚約者だと紹介され、温かな拍手で迎え入れられてしまった。そんな馬鹿な。
陰ではきっと虐められたりするに違いないとビクビクしていたが、誰も虐めて来ない。貴族のご令嬢方にとって目障りに違いないと思っていたのに、何故か皆優しい。
たまに変な顔をしている人たちも、勇者様たちが視線を向ければ、青い顔でそそくさ去っていく。
なるほど、理解した。後ろ盾が勇者様(王子)、聖女様(姫)、剣聖様(未来の公爵夫人)、魔導士様(王妃)だからだ。そりゃあらゆる意味で怖いわ。権力的にも物理的にも。
正直、勇者様の事は恋愛的に全く範囲外だったのだが、別に嫌いな訳ではない。寧ろ、好きだ。ただ、余りにも天上人過ぎてそういう対象として考えなかっただけで。
「少しずつでいい。私を意識してくれ」
「ひええぇぇええ……」
そんな風に甘い声で囁き続けられて落ちない女なんている筈がない。はい、あっという間に落ちました。恋愛偏差値底辺の女なので。チョロ子と呼ばれても否定できない。
勇者様との結婚を決めたら、勇者様がどうしても結婚前に私の親に挨拶したいというので、久々に実家に戻って来た。
「ただいまー」
「お前……! ああ、こうして再び会えるなんて……!」
「元気だったの? 心配したのよ。今まで一体どこにいたの?」
「街で荷運びの仕事してた」
「…………ああ」
「……適材適所かもしれないわね。とにかく無事で良かった。あら? この方は?」
「あ、その……わ、私のす、好きな人で……その、結婚の挨拶をって……」
「好きな人!?」
「結婚!?」
驚く両親。私の紹介に凄く嬉しそうな顔をしている彼。
彼は挨拶する為に、顔を隠していたフードを取った。
「えっと、驚かないでね? 彼は、この国の勇者で王子様なの」
「初めまして」
「…………? …………っっっ!!!?」
両親が卒倒した。やはり無理だったか。
両親の目が無くなった途端に、先ほどの喜びからか、頭に何度も口付けしてくる。恥ずかしいから、止めて欲しい。両親は気絶したけど、隣に住んでたおばちゃんが目をカッ広げてるから。
この後、彼の希望でご近所中を挨拶してまわった。腰に手を回されたままで。恥ずかしさで顔が溶けそうなんですけど。顔見知りばっかりの場所でイチャイチャしながら挨拶まわり。何だこの苦行。
あの幼馴染の家にも行った。何だか随分と子沢山だ。お嫁さんは多産系だったのか。この数年であの儚げだった少女は二回り程大きくなり、すっかり肝っ玉母さんに進化している。同時に生気を吸い取られたかのように痩せ細っている幼馴染を見て思う。
私と結婚してもしなくても、強い嫁のお尻に敷かれる運命だったんだね。これからも頑張れ。
かつての仲間たちによって磨かれた私は、年の割には綺麗に見えるらしく、幼馴染が自分の嫁と私を何度も見直して、僅かに後悔を顔に滲ませた。
「私の妻に何か?」
勇者様、大人げないですよ。殺気出さないで。泡吹いちゃってますから。後、まだ妻じゃないでしょ。え、心の中ではもう妻? も、もぉぉぉ、仕方ないなぁぁ!(チョロい)
こうして私の冒険はエンドロールを迎える。
これからは怪力の出番はないかもね。
「誰か――――! 牛が沼に嵌った! 助けてくれ――――!」
…………早速出番のようだ。
期待した目で見ないで、ダーリン。本当にこの人、私のこと好きすぎて困る……うう……オッケー、任せといて! ちょちょいっと助けてくるから!(チョロい)
【おしまい】
ご指摘を頂きましたので、書き飛ばしていたギルドの依頼説明に補足を追加しました。うっかりな詐欺案件に、危なくギルドが勇者に潰される所でした(笑)ご指摘ありがとうございます!