Chapter1-6 訪問者
悠人は目の前に立つ少女こそが、自分の知っているミーシャであるということを認めることにした。何故猫であるはずの彼女が人間の姿をしているのかはわからないが、そもそも自分自身がいったいいつこの部屋へ来たのかもわからない。さらに言えば、あの男や宇宙船も結局なんだったのか。
どれだけ考えても到底結論を出すことはできそうになく、結局のところ自分の中で納得し、落ち着かせるしかないのだ。目の前の少女は自身のことをミーシャだと言った。ならばもう、それでいいのだ。
それから二人はお互いに覚えている事柄を話し合った。
「――それでね!男の人と悠人が話しているのを見ていたら、わたしの目の前がぐわわわわーってなったの!そうしたら今度は耳がぶうわわわーって!」
「あー…、なるほど」
「びっくりでしょ!でね!?」
何もわからなかった。
ミーシャは自分が見聞きした壮大な体験を必死に身振り手振りで伝えようとしたが、その発言の多くは擬音で構成され、悠人が内容を理解するには、ミーシャの視界を録画した映像を一緒に流すでもしなければ難しいだろうと思われた。さてどうしたものか、悠人は天井を仰いだ。
悠人の耳にどこからか板を叩いたような音が入って来たのは、ちょうどその時であった。
悠人とミーシャの二人は揃って音のした方を振り向く。彼らの視線の先には部屋の外へと続く扉があった。
ミーシャの耳がぴくぴくと動いているところを見ると、どうやら自分の聞き間違いではないらしい。
部屋に誰かが訪ねてきたのだ。
「ねえ、誰か来たみたいだよ」
ミーシャが悠人の腕を突っついて言った。悠人はそれに頷いて応える。
さて、と悠人は考えをめぐらせた。今自分とミーシャがいるのは、見知らぬ部屋の中。これまでの経緯から推測するに、この部屋の外にもきっと見知らぬ景色が広がっているのだろう。そしてそれは地球の景色ではなく、あの謎の男が思わせぶりに語っていた惑星ルウィーエという星の景色なのではないか。だとしたら、今この部屋を訪ねてきている何者かは、ルウィーエ星人とでもいったところか。
「……よし、出てみよう」
少し考えてから、悠人はそう言った。
これまで散々理不尽な出来事に振り回されてきたのだ。この辺りで一つ、こちらから進んで動いていくべきだろう。
たとえここが見知らぬ惑星だろうと、来てしまったものはしょうがない。悠人は意を決して立ち上がり、扉の方へ歩いていった。
幸いなことに、部屋に取り付けられていた扉は悠人の知っている扉とほとんど同じ構造をしているようだった。使い方がわからず部屋に閉じ込められるということが無さそうだというのは、良いことだろう。
「はい、今出ますよ」
悠人はノブに手をかけてそれを捻り、ゆっくりと扉を押し開けた。
そこに立っていたのは、一人の妙齢の女性であった。女性は衣服の上から緑色のエプロンを身にまとい、ウェーブがかったブロンドの髪を後ろでひとまとめにしている。かき上げられた髪から覗く大きな耳飾りが思わず悠人の目を惹く。
彼の予想に反してというか、女性の姿かたちは人間そのものであった。
悠人は多少の驚きの目で女性を見た。それと同時に、女性の方も驚いたように目を開いていた。
「もしかして……、あなたが悠人くん?」
「えっと、はい。悠人っていうんなら、僕の事だと思いますが……」
「まあー!まあまあまあ!」
悠人がそう答えると女性は満面の笑みを顔に浮かべ、嬉しそうに声を上げた。
「遅かったじゃなーい!ずっと待っていたのよ!」
次回更新日が固まり次第追記します。
ほぼ日刊で、だいたい午前2時ごろの更新です。