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夏、是枝悠人が友達を作るまで  作者: 脳内企画
Chapter1 惑星ルウィーエ
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Chapter1-5 人間になった猫


 悠人は少女を体から引きはがすと、それから大急ぎで自分の着ていたワイシャツを脱いで、それを彼女に押し付けた。


 「と、とりあえずこれを着てくれよ!」


 悠人が言う。少女はきょとんとした顔で悠人を眺めてから、彼の差し出したワイシャツを受け取った。


 自分の手から彼女にワイシャツが渡ると、悠人は目を逸らしたまま息をついた。不足はあるだろうが、これでひとまずは、目の前の少女を辱めることはないだろう。


 「ねえー、悠人ー」


 少女が声をかけてくる。

 服を渡したことで安心した悠人は、彼女の方を振り返った。


 「なんだい、服が大きいのは申し訳ないけど……って、ええ!?」


 悠人は驚きのあまり途中で言葉を切ってしまった。彼の目の前では今、ワイシャツと人間が合わさったような生き物がもぞもぞと動いていた。下半身はタオルケット、上半身は腹部が人間でそこから上はワイシャツの化身という冒涜的な容姿。あえて言葉に起こすならば、それはワイシャツを後ろ前逆にして着用し、左腕を通す部分に右腕を、右腕を通す部分には頭をつっこんでいるような姿であった。


人間であれば頭部があるだろうという位置には、ワイシャツの右腕部分が高くそびえ立ち、ふらふらと不規則に揺れている。この生き物に口があるのかはわからなかったが、ワイシャツの内側のあたりから「アレエ、アレエ」という謎の声が断続的に響いてきていた。


 「これ、どうやって着るのー!」


 ワイシャツの化身が声を上げた。というより、目の前にいた少女がただワイシャツを着れずにもがいているだけであった。結局悠人は少女が服を着れるよう手伝ってやることにした。


 もはや恥ずかしいだとか、何かそういうものを気にしている場合ではないのかもしれない。悠人は少女の体に絡まったワイシャツに手をかけ、頭のはまったワイシャツの右腕部分を引っこ抜き、左腕部分に突っ込まれた右腕をいったん引っこ抜き、ワイシャツの前後を正した。途中、少女の頭についていた猫耳に腕が触れる。毛の下の軟骨の感触と、指から伝わる体温に悠人は思わずどきりとする。やはりというか、これは本物の猫の耳なのだ。


 悠人は少女の腕をワイシャツに正しいやり方で通させ、それからワイシャツの前のボタンを留めていってやった。だんだんと彼の頭が落ち着きを取り戻していく。


「なあ、君。本当にミーシャなのか?」


 悠人が尋ねる。ワイシャツから顔を解放された少女は大きな欠伸を一つした。


「そうだよ?」


 彼女はまだ半分寝ぼけているような様子で言う。


 「君がそう言うなら、そうなのかな……。でも、僕の知っているミーシャはもっとこう、違う姿をしていたような気がしてね」

 「んー? そういえば変だねー。なんでわたし、悠人とおしゃべりできてるんだろう」

 「え、気になるのはそこ?」

 「んうー……」


 少女が腕を目をこすり、それから悠人の顔に自分の顔を近づけた。眼をしばたたかせて、悠人をじっと見つめる。最初は顔、それから彼の全身をじろじろと眺めていった。次第に彼女の目がはっきりと開かれる。


 「あれー、なんだか悠人、前はもっとずっと大きかったよね?どうしてちっちゃくなっちゃったの?」

 「……それは、ね。――ああ面倒だ、君、自分の姿を見て見なよ」

 「え?わたし、の……」

 

 悠人に促され、少女は自身の体に目を落とした。それから少女はしばし身じろぎもせず硬直し、そうと思えば今度は両の手で自分の体をぺたぺたと触り始めた。すると今度はその両手をまじまじと眺める。


 「な、な…なにこれえええっ!?」


 少女が叫び声をあげて勢いよく立ち上がる。その拍子にタオルケットが床に落ちた。

 するとこぼれ落ちたタオルケットの中から細長いものが現れる。それは少女が立ち上がった際、彼女の腰に引っ張られるように持ち上がった。


 ――あ、尻尾。


 悠人の目の前には、猫の耳と尻尾を持つ少女がワイシャツ一枚で立っていた。


次回更新日が固まり次第追記します。

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