好奇心と恐怖心
では話の続きをしよう。
僕はこの先の見える力についてどの程度先まで見えるのか実験してみた。これについては、おもちゃを買ってもらったばっかりの少年とよく似ている。あなただってそうだったはずです。クリスマスの朝プレゼントが枕元に置いてあると包みを開けてみてみたくなる。そして出てきたおもちゃで遊んでみたくなる。でもこれはしょうがないことだと思いますよ。鶴の恩返しも、古事記の黄泉の国でのイザナギも、浦島太郎も、パンドラも、みんな好奇心に負けて開けてしあうのですから。喜びを失って満たされなくなっていた僕にもこのころはまだ好奇心はありましたからね。話を戻しましょうか。僕が最初に行ったことは何なら未来をみえるのか。最初に見えたのは物語の結末だ。これは読んだ自分を見たのか、物語そのものの未来を見たのか、どっちかわからなかった。前者なら板書している自分を見たのは説明できるが、それがなぜノートだけに限定されるのか。例えば板書の先読みが発生しないことを説明できない。一方で後者ならなぜ結末なのか説明できない。結末を予測するのだったらノートの最後のページを書いている自分を見るはずだ。なぜだろうと思いぎゅっと握った。自分でも無意識だった。自分に手首を握っていたのだ。何をしているのだろうと思い、手を放してペンを握った。そこで見たのはこれから書く文字だった。もうお分かりかな。触れたものの未来を見ることができたんだよ。久々に心の底からワクワクしたよ。対象は分かった。次はどの程度未来まで見えるかだ。ちょうどうちの教室は日めくりのカレンダーだった。休み時間そっと触ってみたよ。どこまで見えたと思う?最後も日までめくられてゴミ箱に捨てられて焼却場で燃やされるところまでだったよ。思わずにやけてしまっていたようだった。これが最初の誤算だった。クラスメイトのひとりにみられてしまった。棚田綾香さんに。彼女は小柄でどちらかといえばクラスでも地味な子だったがいろいろなことに気が付き世話を焼くタイプだった。僕はこの時まだ彼女のことを何とも思っていなかった。しかし彼女の口から出たのは意外な言葉だった。
「うれしそうに笑えるんだね」
正直驚いたよ周りに溶け込めていたと思ったのに。完璧に作り笑いもできていたはずなのに。どこで待ちだっていたのかと気になったよ。
「いつも眼の奥が笑ってないから心配してたんだよ。でも、気づいているの私だけみたいだし...。だから笑ってんの見て安心した」
そういって彼女は両手で僕の頬を挟んで押し上げた。彼女は安心したらしいが僕は逆だった。周りに溶け込み普通に過ごしているはずだったのに。普通であることに絶対の安心感を覚えていた私にとってそれは恐怖でしかなかった。いつから気が付いていたのか聞くために彼女の手をどけようと触った。これが次の誤算だった。彼女のバラバラになった死体を見たのだ。僕は一瞬恐怖した。そして次の瞬間、「興奮していた」