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自由に向かって突っ走れ!

作者: 藤木 了

 青い空。

 蒼い海。

 白い雲。

 どこにあるのか分からない水平線。


 ‥‥‥‥‥‥沖が。その風景に埋もれつつある。


「うぎゃあああああ!!」


 イカダの上。俺は思いきり髪をかきむしり、立ち上がった。


「こんの、バカ友がぁぁ!!」

  ばこん!

「いてぇ!!」


 力一杯のゲンコツは、友人の脳天に直撃だ。


「遭難、まっしぐらじゃねぇか!!」


 こういう時。

 自分の馬鹿さ加減に泣きたくなる。


 人目を避けた場所にあったイカダ。


 ‥‥なぁ、イカダに乗った時点で、こう漂流しちまうのは決定だろっ!?


 なんで、実際に漂流しちまうまで気付かねぇんだ、俺は!!


「あはははは、まさか! てきとーに乗ってれば、無人島か何かあるって」


 相方っつーか、相棒っつーか、バカ友は、へらへら、いつもと変わんねぇ笑いを浮かべて、どっしり座りこんでやがる。


「あるか――――!! はっ、そういう計画なのかっ!?」


 コイツは、俺と違ってこうなるのを解ってたのかっ!?


「計画も何も、実行中」


 実行中!!

 まだ何かあんのかっ!?


 胸ぐらを引っつかむ。

「そういう事は、初めに言え! だったら、無理矢理止めれただろうが!!」


「あはははは、止められるワケないじゃん」


 ‥‥‥‥なんでお前は、そう脳天気に笑っていられるんだ‥‥。


 がくり、と。肩を落す。


「って、知ってたら、付いてこないつもりだったりするワケ?」

 不思議そうに首を傾げられ。


 ――――シュミレーション中。


「‥‥いや、俺なら、どっちにしろ面白そうとか言って付いてきそうだ」


 やる前は、どうにかなるだろ、と。楽しげに参加しそうだ、俺。

 ‥‥なっさけねぇ。


「ははははは、ばっかでー」


「お前に言われたかねぇよ! ったく、何だって、こんな馬鹿思いつくんだか」


 思いつくのは、いつもコイツ。

 俺はコイツについて行くのが日常。

 先公に怒られても、等しく二人いっしょ。


 他人から見たら、どっちもどっちなんだよな。


 ‥‥馬鹿やるのは好きでも、思いつきはしねぇんだけど、俺。


「自由といえば、海! 自由といえば、無人島!」


 にかーっと、真っ白な歯をきらめかせて笑う‥‥なって!


「そこは、Vサイン出す所じゃねぇ!!」


  ばこん!


 力一杯、ゲンコツだ。

「いてぇ!!」


 頭を抱えても、もう慣れたのか、全然痛そうじゃねぇし、笑ってやがるし!!


「テメーはいつも無謀なんだよ!!」

「えー、そうかぁ?」

 ‥‥コイツ。解ってねぇ。

「無人島に行って、どうやって生活するんだ」


「自給自足」


 即答すんな!


「気楽に出来るもんじゃねぇって!」

 自給自足。んなコトが出来たのは、いつの時代の話だ!!


 自分で畑たがやして、服縫って? 原始時代だ、原始時代。


「やってみないと、解らないって!」

「ぬおおぉ、馬鹿が、馬鹿がここにいる‥‥」


 確かに、それは間違ってない。間違ってないが、そう簡単に実現するもんじゃねぇだろっ!?


 そうだ、コイツはいつもいつもこんなんで!!


「お? なんで打ちひしがれてんの?」

「なんで、俺はこんな馬鹿に付き合っちまうんだ――――!!」


 一番バカなのは、俺だ――――!!


「面白いからだよな」

「‥‥その通り」

 がっくりと項垂れる。


 何だって俺は目先に惑わされて、あとあと考えねぇんだよ!!


「自由って魅力的だよな」

「ああ、そうだよな‥‥ん?」


 思わず頷いて首を傾げる。


「人がいない、しがらみがない、見渡す限りの何もない空間!!」

 両手を広げて喜ぶのはいいが、勝手だが。

 自由って、人がいないって。


「‥‥俺は?」


「へ? 自由を一緒に満喫するだろ」

 そこで不思議そうに聞かれても!


「――――なんだ、その決定事項は!!」


 俺はコイツの中でそういう位置づけか!!

 何故、一緒。なんで、一緒!


「いつもそうじゃん」

 当たり前じゃん、じゃねぇ!!


 くらーと、頭がふらつくのを押さえ、記憶をたどる。


「いつもいつも‥‥あの、授業サボったり、いきなり山の中行ったり‥‥いつも一緒」


「してるじゃん」

「してる」


  がくり。


 たまに他の奴らも一緒だが、よくよく考えりゃ、いつも一緒にいるメンバーは俺とコイツのみ。


 こういうのを自業自得って言うんだろうか。


 あったまいてー。


 とにかく、コイツを説得して沖に戻ろう。

 それが先決。それがまず大事。


 いくら俺でも、このまま遭難はぜってぇ嫌だ!


「にしても、おまえ、これだけ好き勝手やっていて、これ以上自由を求めてどうすんだよ」


 がっしりと説得のため強く肩を掴む。


「時間を気にしたり、人を気にしたり、人に頼ったりしている限り、本当の自由って得られないと思うんだ」


 ‥‥‥‥。

 意外と真面目な答えが返ってきた。


 しかし。


「お前のどこに、そう殊勝な部分があるってんだ」

 人を気にするタチか、コイツ?


「オレでもあるんだって、一応」


  にか。


 ‥‥その笑顔がうさんくせぇ。


「で。これで、あとは無人島に!!」


「行ってどうすんだ、電気はないし、どうメシの準備すんだよ」

 確実に餓死の世界だ。

 マジで真剣に。やめてくれ。


「そこら辺は準備万端!!」


 コイツは、俺が嫌がってんのが、解んねぇのか!!

 なんで、んなに嬉しそうなんだよ!!


「どこが!」


「下、したした」

  どぼん!

「おぃぃ――――っ!?」


 潜るな潜るな、んな嬉しそうに!!


 嫌な予感がバリバリしまくるだろうが!!


  ――――ざばん!


 海の中から顔を出し。

 にやり笑っているコイツの顔を殴りたくなるのは俺だけじゃないはずだ。


「つり竿‥‥パン? コーラ? 飯盒、バナナ、包丁、ナイフ‥‥ポテトチップ、チョコレート‥‥。」


 確かに、これだけあれば、餓死もしねぇし、数日ぐらいはいけるよな‥‥。


「下の樽ン中、いっぱいいっぱいなんだ。空気を入れないように開ける工夫ってんのが、」


 自慢げに胸はられてもな‥‥。


「おい、これのどこが自給自足‥‥」

 違う。

 これは自給自足から遠い。


「あれ?」


「思い切り、現代文化に頼ってるじゃねぇか!!」


「お?」

 やっと自分の行動の矛盾さに気が付いたか?


「無理。電気だのコンビにだのに慣れきった俺達に自給自足なんざ無理」

「うぅ〜〜?」

 それでも、まだねばるか、わかんねぇのか、首を傾げる一方で。

 あと、もう一押し。


「電気がなきゃ、夜は松明だろ? 何すんだよ、話すぐらいしかねぇぞ」


「あ――――!! 夜は自由がない!!」


「‥‥今更、気がついたのかよ」


 説得終了。


 コイツを説得すんのは、一苦労だ。

 気が済むまでやらせちまうのが楽だけどな。


 ‥‥この状況で気が済むまでっつーたら、どうなるってんだ。


「それって、自由って言えないよな」


 コイツの真剣な呟きに。


「っつーか、今もイカダの上から動けねぇよな」

 大きく頷き、肩も叩いて同調する。


「うわ。気付かなかった、自由って言いつつ、束縛してるよ、自分で!!」


  ゲラゲラゲラゲラ


 何がそんなに楽しいんだ、テメーは。


「ははははは‥‥」

 むなしい笑いが、宙を舞う。


「‥‥俺の自由もお前が束縛してんじゃねぇか!!」


 楽しいのはテメーだけだ!!


「おぉ、いいコト言うなぁ!」

「言ってねぇ!!」

 畜生、ぜってぇ、コイツには勝てねぇ。


 頭を抱えて溜め息をつく。


「ったく、お前が思い描くような自由なんて、世の中にはねぇよ。諦めろ」

「俺の思い描く自由って?」


 ‥‥? なんで、そこで聞き返されるんだ?

「誰にも頼らずに生きていくってヤツだろ?」


 だから、一人‥‥いや、俺を道連れにしやがってるが、一人になりたがるんだろうが。


「さすが親友!!」

 げ、嬉しそう。

 失言だ!!


「テメーの親友になった覚えはねぇ!!」


「またまたー♪ しばらく帰れないんだし、笑ってた方が楽しいって、絶対」


 ‥‥‥‥‥‥。


 いやいや、待て。なんで、帰れないのが決定してんだ?

 俺は、説得に成功したはずだよな‥‥?


 嫌な予感に突き動かされて、ぐるりと周りを見渡す。


「‥‥沖が見えない」


「どっちが沖だったか、もう解んないよな。あはははははは!」

「笑いゴトじゃねぇ!!」


 俺の叫びは、むなしくも海上で霧散した――――。

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