大賢者 アドゥル・ハザード
「そちらのソファーにお掛け下さい」
客間は、部屋の中央に膝程の高さの長テーブルがあり、それを挟むようにしてソファーが2つ置かれている。壁は凝りすぎない装飾で飾り付けられ、窓の外には濃霧が広がっている。これ、窓をつける意味あるのか?
とりあえず促されるままにソファーに座る。アドゥルも対面のソファーに座り、向かい合う形となった。
「早速教えて欲しいのですが、本当にあなたに前世はあるんですか?それに、先程の話を聞いた限りだと何回も生き返ったと取れるのですが」
「端的に答えるならば、前世はあります。そして、我が蘇ったのはこれで2回目です」
「なんで前世の記憶が……、と言うより、なぜモンスターなのに?」
「どこから話しましょうか。――これは、かつての我の話です」
――――
それは昔のこと。初代勇者が生まれ、世界の守護竜が死した時、ある地にて一人の男が産まれた。その男、アドゥル・ハザードは天才だった。幼少期からあらゆる魔法を覚え、扱い、生み出していった。
その男が成人する頃には、人々から大魔道士と呼ばれるようになっていた。大魔道士と呼ばれてなお、その実力を高めていた。
しばらくして、その男が賢者と呼ばれるようになった。そんなある日、賢者となった男の下に初代勇者が訪れた。その日から、その男は勇者の仲間になった。
勇者の仲間になったその男は、勇者と供に各地の強大なモンスターを狩る旅に出ていた。その過程で、男は大賢者になった。それでもなお、力を欲していた。
力を欲ったその男は、仲間達の力に目を向けた。今や英雄の一団と呼ばれるようになった仲間達の力は、その男の瞳にとても魅力的に映った。
――男は、仲間をその手で殺した。




