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俺の親知らずを抜いていけ  作者: ぱじゃまくんくん夫
コン・フォーコの章
57/58

04:死せよ成れよ汝は暗い地上の悲しき客にすぎず

 隊員たちは由紀恵の治癒で意識を取り戻していく。峠大尉、菊田、二本柳以外は、生き残った。


 仲間たちの死を確かめるのも、悲しみに暮れるのも、そこそこだった。レイが蘇ったと信じてやまない洋瑛が、意識を取り戻すなり血相を変えたのだった。


「レイを燃やせ。すぐに燃やせ。こいつはバラバラにしたって何度でも生き返る。ガソリンでもなんでも探して燃やせ。骨まで燃やせ。ヤナギが車がどうのこうの言ってただろ。裏手に停まっているはずだ。ガソリンだ。ガソリンで燃やせ」


 ここに来て洋瑛のあの悪い癖――勝手な妄想が働いていたが、東原双葉という者が不明瞭であるのも確かであった。笹原少尉以下、生き残った仲間たちも洋瑛に圧倒されてしまう。もはや二度と遭遇したくない思いもある。皆が皆、再び小銃を構えながらエントランスホールを出ていく。


 1人だけ連れ添っていかなかった者がある。


(バカじゃないの。お姉さんだし)


 ワイルドキャットは、片岡に担がれていく洋瑛に冷えた目を浴びせていた。説明すれば仲間たちに無駄足を踏ませないのは彼女も承知している。だが、立役者である自分をちっとも讃えてくれなかったので、口を閉ざした。


 彼らの姿がエントランスホールからなくなると、ワイルドキャットはそれぞれの亡骸に視線の先をすべらせていく。


 血の海――だった。


(私がみんなを殺しちゃった……)


 乗り遅れた理由は、彼女らしいと言えば彼女らしい。指を鳴らして、すべてが止まったように見えたとき、この敷地から外に出てほっつき歩いてしまったのである。


 しかし、捨てられた工業団地を歩いていてもつまらなくなり、戻ってくる途中、再度の指鳴らしで高速運動から自らを解き放とうとした。


 だが、指がなかなか鳴らせなかった。彼女は二度と通常に戻れないのではないかと焦った。何度も何度も指を鳴らそうとした。なかなか鳴らないので唾をつけた。それでも鳴らなくて、涙目になった。


 そのうち、鳴った。ほっと息をついた。気が疲れてしまったので、第五研究所からやや離れた通りの道端で、座って休んでいた。


 夜空の星をぼんやりと眺め、ようやく飽きてきたので第五研究所に戻った。すると、異変が起きていたのであった。


 ワイルドキャットは溜め息をつく。


 改造メリケンサックを外していき、峠大尉の亡骸に歩み寄っていく。掌をあてがうと、瞼を閉ざしてやる。彼の肉厚な頬を撫でていく。


「ごめんね、キャプテン。私がもっとしっかりしていれば良かったんだよね」


 そして、また、菊田の亡き骸に歩み寄っていくと、彼のヘルメットのベルトを外す。髪を綺麗に分けていく。


「ごめんね、菊ちゃん」


 二本柳のヘルメットも外す。彼女の髪もまた梳かしていく。暗視スコープを装着したままの彼女のヘルメットをかぶる。


「行ってくる」


 長い睫毛の下の澄んだ瞳で、エントランスの奥にぼんやりと灯っている非常階段口の案内板を見つめた。


(ヒノモトってのが、最後のボスか)


 改造メリケンサックを再度装着した。表示灯へ吸い込まれるようにして歩み寄っていく。


 ドアノブを回し、鉄製の重い扉を引いてくる。暗視ゴーグルを顔の前に引き下ろしてくる。


 地下2階、電気制御室。


 G地区の根源がここにある。すべての謎がここに集約されている。任務を与えられた作戦隊員たちはそれを知らない。ブラッディレイ作戦の立案に務めた作戦科の将校たちもだ。鍋島地区の壊滅だけを目的にしていた川島大佐も同じであった。


 なぜ、第五研究所の破壊活動が作戦条項にあるのか。


 赤い爪の作戦条項に残されていたらからという些末な理由である。12年前、国防軍参謀本部が破壊活動を命じた痕跡にすぎない。


 つまり、かつての参謀本部――、国防軍の中でもたった数名の選ばれた者だけが、第五研究所にすべての謎が集約されていることを存じていた。


 地下2階という国家の深淵につながっていく階段を、15歳の少女がたった1人で下りていく。照明は1つとてない。奈落の底に通ずるような階段である。まどろむような暗視ゴーグル越しの視界を頼りに、ワイルドキャットは1歩ずつブーツの足を踏みしめていく。


 この15歳の少女は、もしかしたら、未来への象徴かもしれなかった。獰猛の限りを尽くして血染めの戦場を疾駆してき、東原双葉さえも葬り去ってしまった彼女は、今、ありとあらゆる者を超越している。ゆえに彼女だけが真実への道にいざなわれるのを許されたのかもしれない。


 しかし、それは新たな宿命でもある。奔放なだけの彼女は、今のところ察していない。そして、己の導き出す答えが何を生み出すかも。


 B2Fの案内板が貼り付けられた扉の前に辿り着く。


(もしかして、変な化け物がうじゃうじゃいるのかな)


 ドアノブをひねる。警戒しながらゆっくりと扉を押していく。


 がらんどうの廊下であった。非常階段の案内灯が頭上にぼんやりと照っている。


(オバサン、私のことからかったのかな。でも、キャプテンも言ってたし)


 すぐそこに照明スイッチを見つけた。暗視ゴーグルを押し上げ、スイッチを入れてみる。並んでいた白い蛍光灯が一気に廊下を染め上げていく。


 先の見えない長い回廊である。何の物音もせず、ただただ空間が続いている。


 第五研究所の稼働を阻止するためとだけしかワイルドキャットは聞いていない。電気制御室の破壊とはつまりそれに当たるのだろう。彼女の認識はそれぐらいのものである。Dトランセンデンスが跋扈している様子もない現状、ワイルドキャットは拍子抜けしたように肩から息を抜いていく。


 ただ、第五研究所のあらゆる設備を統合し、制御している地下2階は、G地区の歴史の心臓部と言ってもいい。給排水室、エレベーター機械室、空調機械室とそれぞれに案内板が貼り付けられているだけに過ぎないが、それはあたかも人体の内蔵器官を示しているかのような鼓動をたずさえている。


 ワイルドキャットは電気制御室の案内板が貼られた扉の前に来た。


(ここで終わり――)


 その程度の思いで、彼女はドアノブに手をかけた。真実の扉を引いていく。


 室内は暗い。ワイルドキャットの目にはそこに何があるのか定まらない。ただ、通信機器めいたものが数多く並んでおり、緑や橙や青白い光がところどころで点灯点滅しているのならわかる。


 ワイルドキャットは暗視ゴーグルを下ろしてこようとした。


 と、そのとき――。


<明かりなら入ってすぐ左手にあるよ>


 しわがれた男の声がワイルドキャットに聞こえてきた。ワイルドキャットはゴーグルにかけていた手を止め、眉をひそめながら室内を見回していく。声の出どころを探る。


<電気をつけてみればわかる>


 獣めいた感覚を持っているワイルドキャットは、ここに人の気配がないことをわかっていた。カメラで遠隔監視でもしているのかと警戒しつつ、無防備にも部屋の中へと踏み入り、正面を向いたまま左手でスイッチを探っていく。


 手応えがあったので、押してみれば、蛍光灯が電気制御室を白く染め抜いていく。


 白骨体があった。


 箱状の大きな機器類を背中にして、白骨体が椅子に座っている。ワイルドキャットはつぶらな瞳に憤りの火をちらちらと宿しながら、白骨体を睨みつけつつ、数多くの通信機器が立ち並んだ室内を視線の先だけで見渡していく。


 カメラらしきものは見当たらない。


「何?」


 と、ワイルドキャットは苛立ちを声に表した。すると、例のしわがれた声が、どこか現実的ではないくぐもった具合で響き渡る。


<驚いたかい。それは私の体だよ。もう動かないがね>


 再び声の出どころを探る。喋っているのは頭蓋骨であった。


<ハハ。これはな、頭のいい子がいてね、私の声をちゃんとした声にしてくれる仕組みを作ってくれたんだ>


「は?」


<そりゃそうだ。当然、意味がわからんだろう。私はね、ヒノモトダイチ、不死のトランセンデンス、死ぬことができないトランセンデンスだ>


 たちまちワイルドキャットはずかずかと白骨体に歩み寄っていく。標本のように美しい骸骨であった。眼球のない陥没した目が何かを見据えている。歯の1つ1つが剥き出しにされ、笑っているようにも哀れんでいるような得体不明の表情を見せている。


<肉体はとっくに死んでいる。腐ってしまったんだ。しかし、意識が死んでいないのだよ>


「オバケ?」


<まあ、簡単に言うとそうだ>


 すると。


 バチンッ、と、ワイルドキャットはドクロの頭を改造メリケンサックの右手で引っぱたいた。まさに猫が警戒的な好奇心でするみたいに。ドクロは白骨体の首からごろりと外れる。得体不明の表情のままにワイルドキャットの足元に転がってき、彼女のブーツの爪先で立ち止まる。


 陥没した目がワイルドキャットを見据える。


<手荒な子だな。ここに来たっていうことは、双葉を倒してきたのかい? 双葉がまさかSGに許可を出すはずないしな。ましてやお嬢ちゃんのようなSGを>


 ワイルドキャットは足下のドクロをじっと見つめる。どのような先端技術が使われているのか。そういう疑問は奔放なだけの彼女には生じない。不気味とも思わない。無感情である。あるいはすべてを凌駕している存在でもって、正体不明の物質を見下ろしているにすぎない。


「オバサンなら殺したよ。あの人は私の友達もたくさん殺しちゃったから。で、ここも壊せって私のキャプテンが言ってたからここに来ただけ」


<そうか。それは残念だな。しかし、私は死なないのだし、ここを壊したところで意味のないことだ>


「可哀想な人だね。ガイコツなのに死ねないなんて」


<まあな。でも、私が可哀想なら、お嬢ちゃんも可哀想だろう。同じトランセンデンスだ>


 ワイルドキャットは鼻で笑う。ドクロの頭をブーツの先でコツコツと叩き始める。


「私、ガイコツのトランセンデンスじゃないし」


<トランセンデンスは皆一緒だぞ。生きることに辛抱しながら生きている。お嬢ちゃんだってそうだろう。余命はあと10年程度、トランセンデンスじゃなければもっと生きられるのに。それにお父さんお母さんはまだ生きているのかい>


「バカにしてんの?」


 声を尖らせた。ブーツで叩くのを止め、見つめる瞳に殺気が灯る。


 通信機器のあちこちではファンが唸りを上げて回っている。


 緑や橙のランプが激しく点滅している。


<お嬢ちゃん。名前は?>


「近田久留美。またの名を来間山のワイルドキャット」


 ヒノモトは黙り込む。


 彼はワイルドキャットを見つめている。どこからでもなく、そこからでもここからでもワイルドキャットを見つめている。陥没した目からつながっていく頭蓋のうちの閉じ込められたような闇は、彼でもないが彼でもある。室内に漂う静寂は彼でもあるが彼ではない。


 無言の時間が続くうち、ドクロをひたすらに見つめるワイルドキャットは、あらゆる血液に塗り固められたSGのジャケットを通して、冷めるような薄ら寒さから包まれるような生温かかさまでを感じる。そして、彼女の胸に何かしらのわだかまりが生まれてくる。不穏で、奇妙で、釈然としない何かしら、つまり、わだかまりが鎌首をもたげるようにして。


 それらに抵抗して、ワイルドキャットはあからさまな溜め息をついた。大儀そうにしてドクロを両手で拾い上げる。白骨体の首の上に運んでいく。しかし、定まらないので、仕方なしに股間の間の椅子の上に置く。


「ごめんなさい。くっつかなくなっちゃった」


<いいさ、別に。また誰かが直してくれる>


「誰か来るの?」


<ああ。たまにね>


「東原のオバサンは私が殺しちゃったよ」


<いずれまた誰か来る>


「そう。それなら良かった」


 ワイルドキャットは両の手の革手袋を外し、改造メリケンサックを腰袋の中にしまいこむ。そうして白骨体に背を向け、照明のスイッチに手を伸ばした。


<来間山のワイルドキャット。キミは近田洋次郎の娘さんかい?>


 手を止めた。


「そうだけど」


<恨んでいるのかい、私たちを>


「わかんない」


<そうか。でも、双葉を殺してしまったワイルドキャットは、玄福の人々に恨まれることになるだろう。ずっと、ずっと、キミが死んでも、ずっと>


 ワイルドキャットはスイッチに手をかけたまま、じっと固まる。


<不毛だ>


 と、ヒノモトは呟いた。






 不毛な争いだ。


 もはや呪われている。


 この玄福に住む人々も、キミたちSGも。


 一体、何が私たちをこの呪縛から解放してくれるのか。



 私の父親のときの話だ。


 かつて国防軍は、極秘裏にこの第五研究所で新型化学兵器の開発に携わっており、私の父親も軍の研究者であった。


 ある日――。


 この国に大地震が起きた。


 未曾有の混乱を招いた。古い建物が軒並み倒壊したばかりではなく、大火事を誘発し、そして、海からは波が襲ってきた。


 玄福市の浜手側に住んでいた多くの人々が亡くなった。


 この第五研究所の工業地帯は津波の被害は免れた。しかし、大地震によって人知れず事故が起きていたのだ。


 開発途中であった化学物質が研究所内に限らず、この中央工業団地、さらには玄福市一帯へと漏れ出されたのだ。


 無味無臭のため、人々は気づかなかった。


 あわてたのは国防軍だ。


 国防のためだけに存在しているはずの軍が、大量に殺傷する新型化学兵器の製造に着手していたなど、国内世論どころか国際社会からも糾弾される大事件だ。


 参謀本部と当時の政権担当内閣は、災害対策そっちのけで第五研究所事故の隠蔽に走った。


 五研事故を最大機密事項に指定し、化学特殊部隊をこの玄福に派遣した。分厚い防護服に身をまとった隊員たちは、三百人近くいた研究所職員たちを隔離、厳重に監視した。


 私の父親たちは一切の自由を奪われた。


 しかし、五研事故はそれだけでは済まなかった。


 大気に漏れ出した化学物質は、人々の体内に吸い込まれ、そして遺伝子を損傷させたのだ。


 大規模な検査を行った結果、玄福に住む大多数の人々、さらにはあらゆる生物に損傷が見つかり、しかし、それによって生物がどのような作用を起こしてしまうかは掴めなかった。


 掴めなかったにしても、是が非でも五研事故を隠蔽しなければならない国防軍及び政権内閣は、暴挙に出た。


 五研内だけにとどめていた隔離地域を、化学物質の汚染範囲内であった玄福市と矢尻村にまで広げたのだ。国家はその土地どころか、人々さえをも完全隔離してしまったのだ。


 空前絶後の事態に、当然、国民は怪しむどころか怒りさえ起こした。だが、五研事故は最大機密事項という制約によって真実が表沙汰になることはなく、怪しみと怒りの声は封殺され、不可解すぎる謎を突き止めようとする人は国防軍によって抹殺された。また、国防軍は総力を上げてありとあらゆる情報操作に勤しみ、国民からこの謎を風化させようとした。


 ところが、国防軍は新たな事実を発見した。損傷遺伝子が代替わりされた動物たちの一部に解明不能な進化を遂げている生物があった。巨大になり、あるいは運動能力を高めていたり、治癒能力を得ていたり。


 それがウィアードであった。


 政権内閣と国防軍は隔離の大義名分を得て、ウィアードの出現した玄福市と矢尻村を特別危険地帯G地区に指定した。


 また、体内に沈殿する化学物質が少量と判断された人は、秘密事項と軍の生涯監視を絶対条件として隔離地域から解放し、化学物質が大量と判断された人はウィアードに殺されたことにし、G地区に閉じ込めた。


 ところが、ウィアードの発見から遅れること十数年、国防軍は、一切の自由と、その存在さえ抹消されたG地区の人々に、反撃を受けることとなった。その人々は大量に化学物質を吸い込んでしまった人の子孫たちで、それがトランセンデンスだったのだ。




 ただ、全員が全員、トランセンデンスとして国家に反抗できたわけではない。


 生まれてきてすぐに死んでしまった子供もいれば、五体満足でなかった人もいた。むしろ、隔離住民たちの子供や孫の半数がそうであった。


 しかし、皮肉なことに、化学物質を大量に吸い込んでいた人であればあるほど、その子孫たちは強力なトランセンデンスであり、あるいは人の形をしていない巨大な者であったりした。


 トランセンデンスは国防軍の監視兵や研究者などを玄福から排除し、軍と政権にG地区解放を求めた。しかし国防軍は異形なウィアードばかりを撮影し、G地区がより危険な地帯であるとして国民のプロパガンダに務めた。


 さらに化学物質を吸い込んだ結果がトランセンデンスに導かれると知って、G地区トランセンデンスに対抗できる者たちを見つけるため、一旦はG地区から解放していた元玄福住人たちの子や孫たちを洗いざらい調査していった。


 国防軍にトランセンデンス能力を認められた元玄福住人の彼らこそが、SGの前身であり、ワイルドキャット、キミなのだ。




 元を正せば、キミも双葉も同じ玄福住人だった。


 違うのは、G地区に囲われたか、そうでなかったかということ。


 あとは進化の速度が早かったG地区トランセンデンスは耐性をつけて短命でなくなり、進化の遅いSGはいまだに短命であること。


 違いはそれだけ。


 しかし、キミたちはG地区トランセンデンスと戦う。G地区トランセンデンスも憎悪を募らせキミたちと戦う。


 キミも双葉も、同じ玄福の子たちだというのに。


 いや、人には玄福も何もない。


 だから、不毛だ。








<ただ、しかしだ、来間山のワイルドキャット>


 ヒノモトはわずかながらに声を上ずらせていた。


<作り上げられた運命に翻弄されるのも、自らの手で新たな運命を切り開いていくのも、キミ次第だ。戦うためだけに育てられたSGとしてではなく、近田久留美として生まれたキミとして戦いなさい>


 ワイルドキャットは壁につけた指先をぴくりと動かす。


<不毛な争いに終止符を打てるのはキミだけだ。本当の敵は別にいるんだ>


 ワイルドキャットは鼻で笑った。


 そして、突如、眉間いっぱいに皺を集める。眉尻を伸ばし上げながら瞳孔を開く。白骨体のヒノモトへと振り向く。


 彼女が導き出した答えだった。


 駆け込みざま、白骨体を椅子から引きずり落としてしまう。ドクロを蹴飛ばし、壁に叩きつけて破壊してしまう。椅子を手にして振り上げて、白骨体へさんざん叩き込んでしまう。


<愚か者め! 無間の地獄に墜ちていく愚か者め!>


 ヒノモトが発狂していたが、ワイルドキャットは機器類を押し倒していき、ケーブルというケーブルを引きちぎっていき、電源コンセントを蹴り払い、椅子を持ち上げるとその背中を機器に次々と叩き込んでいく。


 点滅点灯していたランプもすべてが光を失い、ヒノモトも死んだように無音でいる。


 暴れに暴れたワイルドキャットは、肩で息をつきながら、部屋の中をゆっくりと見渡していく。


 意識だけが存在していると思われるヒノモトに向かって吠え立てた。


「バーカ! ずーっと、ここでひとりぼっちで死んでろ!」




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