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俺の親知らずを抜いていけ  作者: ぱじゃまくんくん夫
スピッカートの章
28/58

04:銃弾恋慕

 天進橋のならず者として恐れられているラットローグ曹長。


 小須田由衣という本名よりも、その異名が浸透しているブルースカー曹長。


 この2人はそれぞれがSG分隊の副隊長職を務めている。兵学校を卒業してきた優秀な者はたいがいがこの分隊に配属され、その鼻っ柱をへし折られ、痛めつけられ、これに耐えられた者は精鋭の道へと進んでいくが、耐えられなかった者も数多い。


「気の毒に」


 と、天進橋駐屯地に所属しているSGたちは、鬼と悪魔の餌食とされている学生たちを遠目に見て、そう漏らしていた。天進橋主塔の監視台で常時光学照準器(ドットサイト)を覗きこんでいる狙撃手も、上官に漏らしている。


「これ、いつまでやるんですか? 撃っているこっちの頭がおかしくなりそうですよ」


 ほとんどのSGたちは学生と接触しないよう通達されている。学生たちが食事を取る19時以降は食堂に立ち入らないようにとも命じられている。学生たちが今後極秘作戦の任務を授けられるとも知らない。


「兵学校がウィアードに襲撃されたからって、峠さんはやり過ぎだ。一体、上は何を考えているのやら」


 先述したように、特殊保安群は、天進橋に侵入してくるウィアードの防衛にあってはトランセンデンスを戦術システムで活用している部隊であり、攻撃にあっては暗殺集団である。


 職務の半分を天進橋の警護に、もう半分を訓練に費やしているのは、いわゆる防衛組と位置づけられる。日常を訓練ばかりに費やし、ときたま天進橋から姿を消して、要人の暗殺に出向く攻撃組の分隊は、SGの精鋭にあたる。


 6日間、ラットローグ曹長とブルースカーのサディスティックな監督の下、肉体訓練に耐えてきた作戦隊員の兵学生たちであるが、基礎の基礎をようやくクリアしたにすぎない。彼らはこれから特殊作戦を実行できる能力に加えて、Dというトランセンデンス集団と真っ向から格闘するための、SG精鋭たちのような暗殺術も身につけていかなかればならなかった。


 余談ではあるが、ウィアード襲撃の翌朝、荒砂山22期生を取り囲んでいたのは、この暗殺集団の精鋭たちである。洋瑛たちはそれがSGのすべてだと勘違いしたが、天進橋から強制連行するさい、不足の事態を考慮して、峠大尉は精鋭たちに取り囲ませたのだった。


 7日目からは筋トレはほどほどとなった。ロープ登り渡り、長距離走も訓練課目からなくなり、それまで小銃は鬱陶しいばかりの重りでしかなかったが、天進橋にやって来て初めて撃鉄を起こすことになった。


 人型模型を的にしての射撃訓練である。ウィアード襲撃のさい、連射ばかりして無駄に弾を消費していた彼らは、改めて基礎から叩きこまれた。アタッカー、サポーターなどの兵種を問わず、銃身を構えた。


 兵学校の教練で身についているので、最初は滞りなかったが、標的を外せばラットローグ曹長かブルースカーに痛めつけられると知ると、精神に圧力がかかった。


 匍匐前進のあとの射撃、全速力で走ったあとの射撃、狙撃手からの銃弾が飛び交ってくる中での射撃などなど、荒砂山兵学校時での教練とは様相が違った。


 すでに、栄光のエンジェルワッペンはほつれて体(てい)を成していない。どころか、ジャケットは狙撃のさいに受けた穴だらけである。


 軽部圭吾は射撃が下手である。


 筋持久トランセンデンスの彼は、体力訓練ではあまり殴られなかったが、射撃訓練になると数倍の回数でラットローグ曹長に殴られるようになり、ブルースカーの9mm拳銃で手足を撃たれるようになった。


「オチビちゃんっ! あなたはサポーターですよねっ! サポーターが下手っぴでどうするんですかっ! オチビちゃんが下手っぴだと仲間が冥土行きなんですよっ!」


 そう言って、ブルースカーは圭吾だけならず、隣で射撃をしていた穂積杏奈にも銃弾を1発浴びせてしまう。


 圭吾は射撃訓練のさい、だいぶ、仲間たちに被害を与えた。


「ごめん、みんな……」


 夕食時、頬を涙で濡らしながら頭を下げている。いちばんに反応したのは雪村であった。


「気にするなよ。もう撃たれ慣れたさ。死ぬわけじゃないんだし」


 気のいい有島や杏奈もうなずく。


 が。


「チビ圭の下手くそ。死ぬわけじゃないって言ったって、痛いんだからね。死にそうなんだからね。チビ圭はそこんところわかってんの?」


 もっとも、責めてきたのは幼なじみのワイルドキャットだけであった。


 千鶴子がすぐにワイルドキャットをたしなめ、彼女は唇を塞いだが、ワイルドキャットには昔からさんざんな目に合わされてきたので、いまさら圭吾の胸にはこたえない。


 ただ、圭吾に笑顔を見せたのは気のいい有島や杏奈、雪村だけである。千鶴子や由紀恵の幼なじみはともかく、ほかの皆はうんともすんとも言わずに黙っていた。


 ワイルドキャットのようにはっきり言ってもらったほうが楽だったか。


(どうして――)


 天進橋に連行されてきてからの7日間、圭吾がずっと不可思議でいたのは、天進橋駐屯地に配属されているはずの3つ上の兄を1度も見かけていない点だった。


 ついさきごろの年末年始に会っている。


(お兄ちゃんに訊きたい。どうして俺たちが天進橋なのか)


 圭吾の兄は上等兵から伍長に昇進したばかりで、SG部隊の中では下っ端に毛が生えた程度である。たとえ、ここで会えたとしても明解な説明を受けられないし、圭吾もそのあたりは薄々わかる。ただ、兄に会いたいと思ういっぽう、こんな訓練がSGの日常なのかどうか訊ねてもみたい。


 なにせ、たまに会う兄から、SGの愚痴を聞いたためしがない。かといって、兄は骨の髄までSGに染まった質実剛健な男でもない。彼が、自分も味わっているようなこんな激しい訓練を受けていたとはとうてい思えないのである。


「チビ圭」


 その夜、ベッドルームでも涙を引きずっていたら、洋瑛が言ってきた。


「教官どもをぶち殺すため腕を磨け。ガムクチャとシミ女の頭を吹っ飛ばすために腕を磨け」


(何を言っているんだろ、ほんとに……)


 圭吾はコバンザメだったころから元親分の洋瑛が嫌いだ。


 圭吾、洋瑛、千鶴子、由紀恵の4人は、同じ官舎に住み、皆、両親がSGのために、夕食を共にし、寝床も一緒になるのが多かった。物心ついたときにはそうなっていた。


 3つ上の兄がいるので、最初は兄にくっついて歩いていたが、彼は自分の仲間たちと一緒になって圭吾をこき使ったりした。居心地が悪くなり、同年代の幼なじみと行動を共にするようになったのだった。


 圭吾の天敵は昔からワイルドキャットである。彼女は1つ下の幼女の分際で、「チビ圭」と言って圭吾を枯れ木で叩いたりしていじめてくるのだった。すでに瞬発力で飛び回っていたワイルドキャットは誰の手にも負えなかったが、千鶴子の言うことだけは聞くので、千鶴子と離れなければ彼女の標的になることはなかった。


 ただ、千鶴子によく言われた。


「ケイゴ、もっと男らしくなんなくちゃダメだ」


 すると、由紀恵が言ってくれる。


「チヅちゃん。悪いのクルちゃんだよ。ケイくんは悪くないよ」


「違う。男らしくなんなくちゃダメだ」


「ケイくんは男の子だよ。悪くないよ」


 圭吾は由紀恵が大好きだった。久留美にいじめられても、洋瑛に手下にされても、由紀恵が大好きだったので、悪童たちとも一緒にいた。


 ただ、小学校も高学年にさしかかってくると、洋瑛と千鶴子由紀恵の距離は遠ざかり始めた。それはただ単に異性の照れ恥じらいを意識し始めたからで、圭吾も由紀恵を意識し始めた。


 雷神とアダ名される前の由紀恵は、人と視線を合わせるのをためらうような内気な女の子だった。そんな由紀恵がときたま見せる隠れそうな笑みが圭吾は好きだった。


(ユキちゃんと結婚するんだ)


 トランセンデンス同士の結婚が奨励されているという情報も、幼いながら目ざとく仕入れていた。トランセンデンスだから、兵学校も一緒、職場も高い確率で一緒、これで結婚できないわけがない。


 ところが、中学一年の冬休み明け、圭吾を絶望が襲う。


 ある日の下校中、大好きな由紀恵が洋瑛と2人きりで歩いているのを発見した。いやまて、と、圭吾は気を落ち着かせる。幼なじみなのである。偶然に2人きりで歩いていてもおかしくはない。たまたまだ、と。


 しかし、洋瑛を見つめる由紀恵の表情は、圭吾がこれまでに見たことのない由紀恵だった。洋瑛に目を細め、洋瑛に笑いかけ、洋瑛の横顔ばかりを見ていた。洋瑛がたまに肘で小突いていたのだが、由紀恵はむしろ楽しそうにしてまた洋瑛にくっつくのである。


「ち、チヅちゃん、あのさ――」


 数日後、圭吾は我慢できなくて、すでに不良少女の片鱗を見せていた千鶴子に訊ねた。


「ヒロくんとユキちゃんって付き合ってるのかな」


「付き合ってるよ。ユキはヒロが昔から好きだったからな」


 他人の恋感情にずぼらな千鶴子はわけもなく言ったが、圭吾にしてみれば頭が鐘になって撞(つ)かれたような衝撃だった。


(どうしてユキちゃんはヒロくんなんか……。絶対にヒロくんなんかじゃ幸せにならないよ……)


 そして、理由なく洋瑛が大嫌いになった。しかし、コバンザメはやめなかった。洋瑛の子分でなければ同級生にいじめられると思い込んでいた。


 洋瑛は由紀恵と交際しているような素振りはまったく見せなかったが、「獲物を見つけてこい」という命令も少なくなっていき、コバンザメになっているのは学校内だけになっていった。それでいて、たまに洋瑛と由紀恵が一緒にいるのを見かけてしまう。


 洋瑛と由紀恵の交際期間は長かったが、しかし、ある日突然、険悪になった。千鶴子と由紀恵が行方不明になったと学校中が騒ぎになった日からである。


 ほどなくして補導されて帰ってきたが、洋瑛は由紀恵と千鶴子に対して、衆目の前でも罵倒するようになり、さらに、由紀恵は千鶴子に引きずられるようにして不良少女になってしまった。


 何がどうなってああなってしまったのか、圭吾にはわからない。しかし、寂しい。そして、由紀恵が家出したのも、不良になってしまったのも、原因は洋瑛にあると思っている。


(ただのバカ)


 と、圭吾は洋瑛を総括している。





「学生隊」


 という言葉を8日目から峠大尉が使うようになった。


「雪村、お前が隊長になれ」


 朝礼時、急に言い出して、皆が驚いた。兵学校のときにリーダー格であったのは菊田か真奈である。おとなしめだが、いちばんの仲間思いかつ実力も備えているのは有島である。


(でも、そうだよな。雪村くんがいちばん優しいし、頼り甲斐あるし)


 圭吾はそう思った。


 その日、菊田は選ばれなくて腐ってしまったのか、射撃の的をなかなか外した。ラットローグ曹長に結構な回数で蹴り飛ばされた。圭吾も同じだった。ただ、雪村がそういう自覚を持ったようで、教官に言われたのでもなく、圭吾に指導してきた。不思議と、射撃専門のSGの威圧的な教えより、雪村の教えのほうが小銃を持つ手が馴染んだ。構える胸に馴染んだ。そもそも雪村は狙撃手として兵学校時から訓練されていた。それでいて雪村には安心感があった。


(やれるかも――)


 と、銃弾が的を外さなくなって、妙な自信まで生まれてくる。


(もしかしたら、この訓練でお兄ちゃんよりもすごいSGに)


 ウィアードの襲撃時、逃げ出したのが少々の後悔としてある。結末の謎はともかく、あのとき、最後まで銃身を構え、あるいは立ち向かっていた中には、千鶴子と由紀恵、それに世界でいちばん大嫌いな洋瑛がいた。


(逃げ出すような奴に、ユキちゃんが振り向いてくれるはずないんだ)


「どうしたのオチビちゃん。急にセンス良くなっちゃって」


 ブルースカーに珍しく褒められて、圭吾は思わず唇をゆるめてしまう。


(俺はSGに――)


 けれども、気になることが多々ある。そのひとつに、リーダーシップを発揮し始めた雪村だが、もっとも仲の良かった洋瑛だけには直接的に関わっていないことだった。


(ウィアードが来た日、あんなことを言ったから。踏みにじったんだ。ヒロくんが謝ればいいだけなんだ)


 無論、「ただのバカ」はこちらに飛び火しそうなほどの殺気のかたまりになっているので、圭吾は口もきけない。






(姓)軽部/Karube(名)圭吾/Keigo

 現年齢:17

 性別:M

 血液型:O

 所属:特殊保安群

 階級:一等兵学生

 配属:荒砂山専門兵学校

 兵種:小銃手 サポーター

 トランセンデンス:筋肉持久

 トランセンデンスクラス:B

 反乱危険レベル:1

 身長160cm 体重55kg


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